30 January
清水祐利(馬研究室D1)
A^1-ホモトピー、A^1-ホモロジー、及びそれらの応用
アブストラクト:A^1-ホモトピー論とは滑らかな代数多様体を扱うホモトピー論の一種であり、モレルとヴォエヴォドスキーによって1999年に導入された。通常のホモトピー論では位相空間内の線分を潰しても変化しない性質を扱っていたが、A^1-ホモトピー論ではスキーム内のアフィン直線を潰しても変化しない性質(A^1不変性という)を扱う。本理論の当初の目的はブロック加藤予想と呼ばれる問題の解決であり、実際それはヴォエヴォドスキーによって達成された。しかし現在ではそれ以外の多くの応用が存在することが知られている。またA^1-ホモトピー論における通常のホモロジー論の類似物として、A^1ホモロジーというものがある。これはモレルによる2005年の論文で導入されたもので、ヴォエヴォドスキーのモチーフ論のトランスファーズを持たないバージョンであるとも言える。本講演では、まず初めのこれらの概要及びいくつかの応用の説明を行う。その後、0次のA^1ホモロジーに関する講演者の最近の結果を紹介する。
10 January
狩野隼輔(馬研究室 D3)
曲面の力学系とその圏論的アナロジー
アブストラクト:実曲面とその上の写像類から定まる離散力学系の理論は、Thurstonをはじめとした様々な人の手によって古くから育てられてきた。例えば、写像類群のTeichmuller空間のコンパクト化への作用を考え、その固定点の特徴によって写像類を分類する、Nielsen-Thurston分類は有名である。ここのTeichmuller空間のコンパクト化はThurstonコンパクト化と呼ばれ、測度付き葉層構造の空間の射影化を付け加えることで得られる。
Dimitrov-Haiden-Katzarkov-Kontsevichは、この曲面の力学系の理論を三角圏(A_infinity圏)とその上の自己完全関手に対して展開することを試みた。
(勿論、彼らは双有理写像が誘導する導来圏の上の力学系の一般化も念頭においているようである。)
また、Kontsevich-SoibelmanやGaiotto-Moore-Neitzkeによって考えられている三角圏の安定性条件の空間とTeichmuller空間の関係は、三角圏の力学系においても重要な役割を果たすと期待されている。
一方、Teichmuller空間の自然な一般化として、Fock-Goncharovが導入したクラスター多様体と呼ばれる対象がある。Fomin-Zelevinskyによるクラスター代数は、だいたいこの多様体の関数環と思うことができる。曲面の写像類群に対応するものはクラスターモジュラー群と呼ばれ、これはクイバーのミューテーション・ループと呼ばれる組み合わせ的な操作の列で生成される。
さらにクラスター代数はクイバーの表現論を用いた圏化が知られており、そこではクイバーのミューテーションは、ある三角圏の間の同値関手や、t-構造の核のtiltingとして実現される。
今回の講演では、曲面の力学系における諸概念の圏論的対応物の紹介と、クラスター代数とTeichmuller空間の関係の概説を行う。さらに時間が許せば、最近講演者が考えていることを紹介したい。
5 December
山﨑晃司(遠藤久顕研究室 D1)
ホモトピー原理への層理論的アプローチ
1939年、岡潔によってCousinの第二問題を解決する重要な原理が発見された。現在では岡の原理と呼ばれるその主張は難解で、厳密な意味で正当化されるにはStein多様体の定義を待たなければならなかった。しかし、解析的解の存在を位相的解の存在に帰着させるというアイデアは、数学の様々な分野へ多くの示唆をもたらした。
その後の1954年、すべてのリーマン多様体は十分次元の高いユークリッド空間の中へ等長的に埋め込めることがNashによって示された。これに刺激を受けたSmaleとHirschによって、1960年前後には多様体のはめ込みのホモトピー族の分類が行われた。
これらの証明の技法は一つ一つが難解で、一般に取り扱うのは困難を極めた。しかし、Gromovの70年代から80年代にかけた活躍、およびそれに続くEliashbergらの手により、これらはホモトピー原理(またはh-principle)と呼ばれる美しい理論として一般化された。現在では、こうした技法はシンプレクティック・トポロジーや接触トポロジーなどにも応用されている。
今回は、ホモトピー原理における最も基本的かつ重要な層理論的技法について解説する。
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21 November
水野勇磨(数理・計算科学系 鈴木咲衣研究室 D2)
クラスター代数におけるCartan-Killingの分類とその拡張について
1890年ごろ、CartanとKillingは複素半単純リー代数の分類はルート系の分類に帰着されることを発見し、さらにルート系の分類をCartan行列と呼ばれる整数係数の行列を用いて完遂した。これは現在ではCartan-Killingの分類と呼ばれる。21世紀に入ってから、FominとZelevinskyは彼ら自身が創始したクラスター代数の理論においてCartan-Killingの分類が再登場することを発見した。彼らはクラスター代数に関する基本的な論文を4本執筆しているが、二つ目の論文において「(a)有限型のクラスター代数の分類はCartan-Killingの分類と一致すること」、そして四つ目の論文において「(b)二部ベルトと呼ばれる離散力学で周期性を持つものの分類はCartan-Killingの分類と一致すること」を示した。今回のお話では、この二通りのCartan-Killingの分類の再登場の仕方のうち(b)の方について解説をしたのち、「周期的な二部ベルト」を一般化させることでCartan-Killingの分類を拡張するという試みについて紹介する。さらにその応用としてダイログ関数の特殊値の有理性について述べる。
31 October
色川怜未(加藤研 D1)
非アルキメデス体上の力学系とそのジュリア集合の安定性について
p進数のような、アルキメデス的性質を持たない絶対値の入った体は非アルキメデス的体と呼ばれている。このような体上で有理函数による射影直線上の離散力学系を考える研究は2000年代前半からC. FavreとJ. Rivera-Letelierによって始められ、複素力学系や数論的力学系といった分野への応用が知られている。本講演では、背景にある力学系的・数論的問題から始め、講演者の研究テーマであるジュリア集合や臨界点の漸近挙動の安定性について、複素力学系と非アルキメデス的力学系を比較する形で紹介する。その際に、非アルキメデス的体の定義やその性質、実際に力学系を考える上で必要なp進幾何的空間であるBerkovich空間について、またその上で展開される実解析や、それらがどのように研究に用いられるのかについて、普段p進数などに馴染みのない方にもできるだけ分かりやすいように解説したい。
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17 October
モチーフ理論の一般化と関連するトピックスについて
2000年代初頭、Voevodskyによって構成されたモチーフの圏DMは、有理係数Chow群のBloch filtration, 代数的K群のモチビック filtrationの解明等に重要な役割を果たした。ここで、DMの構成において本質的であったのはl-進コホモロジーやChow群といった [Homotopy不変なコホモロジー理論] であり、p-進コホモロジーや特異点を持つ場合の代数的K群、暴分岐理論といったホモトピー不変でない理論を扱う事は困難であった。2010年代に入り、Kahn-Miyazaki-Saito-Yamazakiにより、ホモトピー不変でないモチーフ理論MDMの構築が始まった。MDM理論は、双有理幾何学、分岐理論、p-進コホモロジー論といった多くの分野と強く密接に関連するものであり、多くの注目を集めている。今回の東工大Dゼミでは、このMDM理論の導入と、他の分野との繋がりを説明する。また松本によって証明されたいくつかの定理と、志保、中島の結果との類似についても見る。
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