「東京烤鴨」第二回「集まれ!日本と中国の作曲家たち」が2024年8月16日に開催されます。そこで、委嘱新作「Ad Venio」を作曲した魯戴維さんにインタビューをしました。魯戴維さんは中国出身の作曲家である。最近では、現音作曲新人賞を取るなど日本での知名度が上がりつつあります。今回は、魯戴維さんのこれまでの経歴や、音楽に対する考えを中心にインタビューいたしました。今回のインタビュアーは本団体主催者の児玉悠輔が担当しました。
「東京烤鴨」第二回「集まれ!日本と中国の作曲家たち」が2024年8月16日に開催されます。そこで、委嘱新作「Ad Venio」を作曲した魯戴維さんにインタビューをしました。魯戴維さんは中国出身の作曲家である。最近では、現音作曲新人賞を取るなど日本での知名度が上がりつつあります。今回は、魯戴維さんのこれまでの経歴や、音楽に対する考えを中心にインタビューいたしました。今回のインタビュアーは本団体主催者の児玉悠輔が担当しました。
魯戴維(ロ タイイ)
1996年、中国湖北省生まれ。 2019年、ボストン音楽院で最優等で学士号を 取得し、2022年、東京音楽大学で修士修了。ソロ、室内楽、管弦楽作品な どに加え、ジャズやゲーム音楽などの作曲も手がけている。これまでの作品 は、Trio Arbos、香港創楽団、Ensemble Court Circuit、Ensemble l’Itinéraireなどによって、アジア、ヨーロッパ、北アメリカと南アメリカ の15ヵ国で演奏されていた。関心のある分野は、聴覚の記憶、伝統音楽の再 解釈、複数の文化における楽器の組み合わせやサブカルチャーの表現などで ある。2022年、ロシアの「Sound Way Competition」、2023年には「現音作曲新人賞」など受賞多数。現在、東京音楽大学作曲専攻博士課程に在籍し、原 田敬子と野平一郎に師事。
(Soundcloud: Daiwei Lu 魯戴維)
魯戴維「Union」(2021)
児玉:本日はありがとうございます。声が遠いようなのですが、今どちらにいらっしゃいますか?
魯:すみません、今外にいます(笑)。スペインのバレンシアです。音楽祭のため、現在10日ほど滞在しています。
児玉:素晴らしいです!どのような作品を初演されるのですか?
魯:室内楽の作品です。「過去の作曲家が残したピアノの教則本をもとにその教則本を脱構築する」というのがこの作品のコンセプトです。ですから、ここは(聴衆もある程度は現代音楽に寛容である)ヨーロッパなのですが、私の作品のピアノパートは初歩的な技術で書かれており、それらの技術は内部奏法によって演奏されますが、技巧的な伝統奏法は一切ありません。
児玉:とても興味深い作品ですね。前置きが長くなりました。では、作曲を始めた経緯について教えてください。
魯:私は取り立てて幼い頃から音楽に興味を抱いてきたわけではありませんでした。でも、10歳頃にピアノでジャズを聴く機会があったんです。その時に、これは面白いと思って(笑)。そこでピアノを始めました。作曲に興味を持ったのは高校生の時です。アニメサークルに入部した折、友人から「ピアノが弾けるならアニメ音楽のアレンジをしてほしい。」と頼まれました。それが作曲を始めたきっかけです。
児玉:なるほど。その後ボストン音楽院で学ばれたと思うのですが、ヨーロッパに行くという選択肢はなかったのですか?
魯:そうですね。私がヨーロッパではなくアメリカや日本を選んだのは2つの理由があります。まずは言語の問題です。英語は幼い時から、日本語はアニメに興味を持っていたことから高校生の時勉強を始めました。留学生にとって言語は大きな問題ですから私は日本とアメリカを選びました。2つ目は私が持っている哲学の為です。私にとってその国のあらゆる文化に触れ、その文化を自分がどう受け入れるのか、あるいはそこからどう新たな考えを見つけ出すことができるのかという事柄はとても大きな意味をなすのです。ヨーロッパの音楽や芸術以外の文化に私は接触する機会が少ないのです。
児玉:そうなのですね。他国の文化を受け入れ、そこから自分を切り離し、どのように自己を確立するのか、というのは私たち西洋音楽を学ぶ日本人にとっても大きなテーマだと思います。日本には守破離という言葉があるように、創造分野において伝統的側面と革新的側面という相反する側面を非常に重視します。その点において魯さんの音楽はどこに向かおうとしているのか、理想とする音楽のあり方について教えてください。
魯:私が目指すべき創作のあり方は自分にしか書くことのできない音楽を追求することです。それは時に技巧的でない単純なものかもしれません。しかし、そこに私の個性が反映されているならそれでいいのです。
児玉:なるほど。作曲をされる際はどのような手順で取り組んでいらっしゃいますか?
魯:まずアイデアを探します。そのアイデアは自分がこれまで経験した事柄によって導かれます。これまで経験した事柄といっても、それは音楽であったり、自分が関心を持った文化・思想であったり、形態は様々です。
児玉:魯さんが文化・思想的な側面において触発され、作品を創作されていることはここまでのインタビューで理解することができました。音楽におけるアイデアとは、具体的にどのような事柄を指すのでしょう?
魯:例えば休符をどのタイミングでいれるのか、休符はその作品に独特の「間」や緊張感を与えます。だから休符のアイデアを得ることはとても重要な要素です。他には楽器ですかね。今回のコンサートであればドラムと他楽器の音量の差をどうそろえるのか、このような音楽のアイデアは私がこれまで聴き、学んだ音楽作品に大きく影響されています。
児玉:ご教示ありがとうございます。魯さんが作曲をする上で心がけているポリシーというか、一貫して共通する点はありますか?
魯:※セリエリズム(※=音高や強弱といったあらゆる音楽的要素を秩序立て作品を創作する語法)のような作曲法は行いません。常に音と向き合うこと、音を自分の耳で聴きその音の自分にとっての意味を問うことを常に心がけています。
児玉:なるほど。ところで魯さんは現在東京音楽大学の博士課程に在籍されていらっしゃいます。博士課程での研究テーマは何ですか?
魯:「現代における日本と中国の琵琶の創作比較研究」です。私のアイデンティティを確立した日本と中国においてこれまで琵琶によってどのような文化を確立してきたのか?そしてそこからどのように自己を見出し、新たな側面を確立してきたのか?この2つの問いがこの研究の大きなテーマです。
魯さんの新作「Ad Venio」の冒頭
児玉:興味深いお話しの数々をありがとうございます。今回の作品「Ad Venio」について教えてください。
魯:今回の作品「Ad Venio」ではこれまで私の作品が取り組むことのなかった調性やDTMのアレンジといった要素を大胆にも取り込んでいます。ちなみに「Ad Venio」とはラテン語の「冒険」の意味であり、この作品を書くのも自分にとっての冒険です。奏者たちも、冒険者のように、曲の中でいつも新しい音楽素材に出会っています。
児玉:ご自身の作風をアップデートされる姿勢、本当に素敵です!
魯:ありがとうございます。児玉さんも私も「木」や「車」と聞くと同じような姿をイメージするかと思います。要するに改変ができないのです。しかし芸術には既存の姿やイメージを改変する力があるのです。今回私が発表する「Ad Venio」はまさにこのような作品です。私たちの多くがイメージする既存の音楽のイメージを私の作品を通して再定義し、それを聴衆の皆様に感じて頂けたら嬉しいです!
児玉:お時間のない中、貴重な機会を下さりありがとうございました。コンサートで作品が聴けるのを楽しみにしております!
文責:児玉悠輔
魯戴維さんは上記のコンサートにて、新作「Ad Venio」が初演されます。演奏は戸澤正宇、本多悠人です。是非お越しください。
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