個人の力が組織の力につながる一方で、必ずしも個人の力の総和が組織の力ではないことはよく知られています。大学においては、個々の教員の授業が優れていたとしても、カリキュラム全体として重要な内容が抜け落ちていたり、提供する授業の間に内容の重複が多かったり、学生が段階的に履修できる時間割になっていないとしたら、組織として教育に問題があると言えるでしょう。
それでは、大学の組織力を高めるにはどのような方法があるのでしょうか。近年の大学教育政策は、学位は一定の教育プログラムを修了した際の知識や能力を証明するものであるため、組織的で体系性をもった教育プログラムを構築すべきであるという考えに基づいています。そして、各大学の教育目標の明確化、カリキュラムの体系化、評価の方針の明確化などによって教育の質保証が進められています。このような教育の質保証は、組織力を高める一つの方法と言えますが、「組織のための個人」という視点が強いため、受け入れにくい構成員もいるでしょう。
大学の組織力を高めるためには、「組織のための個人」という視点だけではなく、「個人のための組織」という視点も重要になるでしょう。つまり、大学の目標にそって個人の活動を位置づけるだけでなく、同時に個人の力を最大限発揮させられる環境を大学は組織として提供する必要があると言えるでしょう。「個人のための組織」であるからこそ、構成員は「組織のための個人」の役割を受け入れるのかもしれません。
教職員能力開発も同様に2つの視点で捉えることができます。大学の目標達成のための教職員能力開発と個人の自己実現のための教職員能力開発です。前者が人事権に基づく能力開発、後者がキャリア権に基づく能力開発と区別されることもあります。
大学は組織力をどのように高めることができるのでしょうか。組織力は、教育の質保証や教職員能力開発とどのような関係にあるのでしょうか。私たちが所属する大学の組織力を高める方法は適切なものなのでしょうか。みなさんと議論ができればと考えています。