2024/06/04 文責【猫跨ぎ】
フランスにもマノスフェアが存在している。そのインフルエンサーたちは、英語圏同様にYouTubeで情報を発信し、自らのオンラインコミュニティに誘導する形でビジネスを展開している。また、しばしば極右と近い点もアメリカのインセルとそっくりである。本記事では、フランスのインセル界隈の情報発信者を数名紹介することで、フランスのIncel、MGTOW、PUAs界隈を研究する出発点を作ることを目的とする。
紹介する人
1 Killian Sensei
2 Les Philogynes
3 Hugo RF
4 Julien Rochedy
それぞれ紹介するべき特殊性をもった四人を選定している。
▲動画「私が薬を使わずにテストステロンを3倍にした方法」
▲動画「99%の女性がつく10つの嘘」
▲オンラインサロン「Alphakademy」
登録者数約19万人(2024年5月)のYouTuber。自身のオンラインサロン「アルファカデミー(Alphalademy)」で筋トレ等の情報商材を販売している。どのコースも139.9ユーロ均一で、2万3千円(1ユーロ=170円)ほどである。
YouTubeで最も再生された動画は「私が薬を使わずにテストステロンを3倍にした方法(COMMENT J’AI TRIPLÉ MA TESTOSTÉRONE NATURELLEMENT)」というもので、内容はよく睡眠するとか、筋トレするとか、食事に気をつけるとか、要は自己啓発系の内容だが800万回も再生されている。また、例によってポルノ断ち(No Fap)を訴えており、その動画も300万再生されている。動画内の雑談で、「もちろん自分を守るのは大切だと思うが、コンドームなしで性交するのは、俺にとっては、バナナを皮ごと食っているみたいなものだ(le sexe avec capote, c’est pour moi comme manger une banane avec la peau)」なる発言が生まれていたが、分かるような分からないような微妙な表現である。いずれにしろ、加害的でミソジニーの現れた発言といえる。
インセルらしい女性嫌悪が最もよく表れた動画は「99%の女性がつく10つの嘘(10 MENSONGES que 99% des meufs te sortiront)」という動画であろう。これも300万回再生されている。
その10個とは、以下のものだ。
1:「(ペニスの)大きさなんて関係ない」La taille ne compte pas (他にどんな美点があっても、男性性の象徴たるペニスが小さければ必ず女性の評価は大きく下がる)
2:「外見なことなんて関係ない」Le physique ne compte pas (女は機械すら性能より見た目で選んでいる)
3:「ステータスやお金なんて重要じゃない」La statu et l’argent, c’est pas important(上の二つに続いて大事)
4:「友達に急用で呼ばれちゃって、行けなくなっちゃった」Je peux pas venir parce qu’il y a ma meilleure pote qui a besoin de moi(多くの場合、別の上位デートが入って嘘をついている)
5:「あなた以外とは話してない」Je ne parle qu’à toi(女は毎日たくさんの男からメッセージを受け取っている)
6:「経験人数は何人くらい?」「4、5人かな」T’as couché avec combien de mec ? Mmm… 4, 5 ? (女性は純潔に価値があるのを知っているので、低く報告する)
7:「私、男苦手」Ouais je déteste les mecs (アルファに捨てられた後だからそういうのだ)
8:「心配しないで。飲み会には友達と行くし、男が近づいてきても、話したりしないから」T’inquiète. Si je suis en soirée avec mes potes et qu’il y a un mec qui s’approche de moi, je ne lui parle jamais.(女友達同士で共謀して男遊びして隠している)
9: 「私は他とは違う」Je suis pas comme les autres (今日の女性は全員クローン)
10:性的ファンタズム les fantasmes sexuels (女は全員が心の奥ではビッチ)
女性は共謀して男性をコントロールしつつ、アルファ(上位男性)と遊んで擦れているという発想が、全体を通して存在している。このような基本構造のことを英語圏のインセルで女性支配「ジノクラシー(gynocracy)」というが、フランス語県においても、これがしっかりと根を張っていることがわかる。英語では、この陰謀に気づくことを、マトリクスから引用してred pillを飲むと表現し、目覚めた人たちをredpillers もしくはredpillsと表現する。Killianは動画の中で、「la pilule rouge」とフランス語でred pillを表現しており、男たちに「女性は優しくて真面目な男が好きではない」ことに気づくように呼びかけている。男性をAlphaとBêtaに分ける論法も、継承していた。
このような王道のインセルがフランスにも存在していることを、我々はまずKillian Senseiにおいて確認できる。ちなみに、Senseiというのはもちろん日本語の「先生」だが、おそらくNARUTOから仕入れたのだろう。フランス語訳のアニメは「カカシ先生」などをそのまま「Kakashi Sensei」と吹き替えている場合が多く、そのせいで「先生」は最も有名な日本語の一つになっている。
Killian Sensei (YouTube) : https://youtube.com/@killiansensei-alphakademy
Alphakademy : https://athletikslegacy.com/
類似のYouTuberには、BryanForReal(https://www.youtube.com/@bryanforreal2363/)などがいる。
▲オンラインサロンのトップページにあるLéoの自己紹介。心理学で修士号を取っていることが彼のナンパ術の裏付けになっている。
▲「フレンドゾーン」というナンパ術を紹介したDVDの情報商材。値段は299ユーロ(約5万円)
次に紹介するのは、フランスのPUAs(Pick up artists)である。
PUAsというのは、英語圏インセルの用語で、Pick up はナンパ、artistのartは芸術ではなく技術を意味し、合わせてナンパ師という意味になる。英語圏のPUAsコミュニティでは、pick up guluと呼ばれるナンパ師の師範がエセ心理学の情報商材を売ったり、塾を開いたりなどしている。
PUAsの特徴は、Killian Senseiのように肉体を鍛えるなどの自分磨きを重視せず、ナンパなど小手先の方法論でモテようとする点にある。
Les Philogynesというのは、Léoというナンパ師のオンラインサロンである(https://www.lesphilogynes.com/)。philoは「愛する」、gyneは「女性」を意味するので「女性愛好」という意味になり、ミソジニーの対義語である。ホームページの最初のページには「心理学による誘惑(‘La seduction avec la psychologie’)」とあり、その下にLéoの自己紹介が掲載されている。曰く、彼はパリ第五大学(現在は第七大学と統合され、パリ・シテ大学となっている)で心理学修士をとっており、その知見を活かしたナンパ術をこのフォーラムを通して教えているのだという。
オンラインサロンの料金は年336ユーロ(約5万7千円)で、サービスは毎週火曜夜のオフ会、熟練メンバーによるナンパ随行、サロン内のチャット交流である。
また、動画によるナンパ術等の情報商材の販売もあり、値段は講義ごとに異なる。「フレンドゾーン」なる技を用いて女性を落とす方法を解説した動画は299ユーロ(約5万円)、テキストメッセージによって女性の心理をコントロールする方法を解説したDVDは199ユーロ(約3万4千円)していた。
▲動画「レッドピルの6つの嘘」
▲最も再生された動画「出会いサイトを使ってはいけない10の理由」
▲動画「大学でもてる方法」
彼はYouTubeチャンネルでも積極的に発信を行なっており、登録者数は12万人とKillianに続いて多い。しかし、彼自身はインセルのRedpillの考えを否定しており、YouTubeに「Redpillの6つの嘘(6 mensonges de la Redpill)」なる動画をあげている。6点の要旨は以下のようになる。
1:Alphaとはマッチョで支配的な男ではなく、グループにおいて協調できる男である
2:無条件な愛などなく、女性は理にかなった投資に応じて愛する相手を決定する。
3:金持ちはモテる要素にはならない。
4:さらにステータスの高い男が見つかったので女が男を替えるということはなく、女性が最も重要視するのは相性である。
5:老いた男に価値がないというのは嘘で、恋愛市場において男の価値は36歳あたりまで上がり続ける。
6:Redpillの言うような女性の裏の本性などは存在しない。
確かに、インセルのRedpillというのはマッチョな思想で、少し賢いとその世界観に間違いがあることはわかる。そのような多少考える頭のある層を取り込み、心理学的に賢くモテない問題を解決しようというハック的思考がPUAsなのである。また、もてなくて筋トレをしているインセルをことさらに攻撃することで、自分は女性の心を分かっているアピールをしているようにも見える。当会の「22世紀の恋愛主義」ではインセルとPUAsを分けて論じたが、まさにマノスフェア内部の分裂が、フランスのコミュニティ内部にも現れているといえよう。
興味深いのは2点目であり、これはLéoの基幹理論である。彼は恋愛を市場原理によって説明することが多く、女性は男性の投資に応じて生殖能力やそのリスクを提供しているという世界観である。
さて、実際に彼がナンパしている様子を写した動画も多くある。その中で私が最も気持ち悪いと思ったものを紹介しよう。まず、公園に座っている女性に話しかけ、トゥルーズ出身であることを聞き出すと、トゥルーズにまつわるクイズとしてPapacitoなる男を知っているか聞く。女性は当然知らないので聞き返すと、Léoは「彼は女々しい男で、卵巣を最高のものとして讃えていて、歴史的には睾丸が中心的だったわけだけど」というようにインテリ風に女性器や男性器の話題をねじ込み、性的な刷り込みを行う。次に、Papacitoがサイコパスであると語る。これによって、女性に、自分が性的なことも自然に口にできてしまうサイコパスなのではないかという印象を与える。その上で、ポルノ批判などを大真面目に行い、自分が心理学専攻であることを告げ、相手が性的な悩みを吐露できるハードルを低くていく。心を割って話させたところで、最後に電話番号を聞いて終了という具合である。
この手法は彼が学生の頃から使っているもののようで、18歳で童貞で悩んでいたのが心理学を専攻した理由であると、他の動画で言っている。この性的な言葉を入れ込んだり、サイコパスを装ったりする方法はしかし、アメリカのPUAsにおいてもすでに有名な方法である。さらにLéoの場合、自分を本当にサイコパスだと思い込んでいる節があるが、「サイコパスなので話していいことと悪いことの区別がつかないんだよね」という居直り方をしているのは、厨二病以外の何物でもあるまい。
Les Philogynes : https://www.lesphilogynes.com/
YouTube : https://youtube.com/@lesphilogyness
類似のYouTuberとしては、ナンパ動画を多数上げているRoad To Condor(https://www.youtube.com/@RoadToCondor)を挙げておこう。こちらも、独自のナンパ・オンラインサロンをもっている。
Hugo RFはRedpillとPUAsの中間にいるようなTikTokerで、登録者数は8万人と比較的小粒である。IDが@redpillfranceと分かりやすかったので、今回の調査で最初に見つかった。彼の特殊性は、トランスジェンダーやゲイを敵視する投稿を数多くしていることである。マノスフェアは当然保守男権主義とのつながりを持ちやすいのだが、すると矛先が性的マイノリティに向かう事も起こってくるのである。
▲動画「なぜ男女関係は上手くいかなくなったのか」
▲メルマガ登録で無料でもらえるl'ascensionの方法を説明した冊子
性的マイノリティの話の前に、彼のマノスフェア的な部分についてまずは確認しよう。基本はTikTokでフリー素材の映像を紙芝居のように変えながらナレーションをする形の動画を発信しているのだが、それでは情報量が少ないので、ここではYouTubeの動画を例に挙げる。動画は大体1000回あたりしか再生されておらず、情報の質は低い。
PUAsらしい部分としては、ナンパ術を話した動画がある。たとえば「なぜ、狙っている女性の友達をナンパすべきなのか(Pourquoi tu dois draguer ses copines)」なる動画では、以下の2つの心理を紹介している:
・狙っている女性の周囲をナンパしまくることで、たくさんの女性をすでに囲っている状況を作り、「選ばれている男を選びたい」という女性の配偶者選択の条件を満たし、声をかけられるのを待つ。
・狙っている女性も含めたグループ内の雑談で、他の女性について褒めて、嫉妬心を掻き立てることができる。
とまあ、こっちが恥ずかしくなってくるような自意識過剰な内容である。ちなみに、この動画は現在消されている。
現在YouTubeで見ることのできる彼の動画は一つだけで「なぜ男女関係は上手くいかなくなったのか(Pourquoi les relations homme / femme ne marche plus)」というものである。こちらはインセルのど真ん中を行くような内容になっている。彼によると、現代の男女が互いを警戒するようになってしまった原因は5つあり、(1)性的役割分担がなくなってしまったから、(2)今日の女性はもはや女性ではないから、(3)性関係が消費の理論に巻き込まれているから、(4)選択肢が多すぎること、(5)スピリチュアリティの喪失、となっている。
以上のように、相変わらず女性嫌悪なのだが、3点目は面白い。Hugo RFは女性と寝る事、つまりセックスや快楽しか頭になく、セックス回数が多い方が偉いという謎のシステムを真っ向から否定しているのである。また、4点目の選択肢が多すぎるという話は、人間が出会いすぎていなかった閉鎖された社会においてはマッチングが容易であったという当会の「修正恋愛主義論」に書いた内容の一部である。そして、5点目には宗教的なものを信じてありがたがる心spiritualité(スピリチュアリティ)をなくしてしまったことを批判している。この点は保守のバイアスも掛かっているのだろうが、心を突いている部分もある。というのも、フランスにおいては1905年の世俗化以降、この問題は作家や新聞が再三取り上げた興味深いテーマなのである。いずれ本会に投稿する論考でも扱うことができると思う。
さて、Hugo RFはこのような動画から、自分のホームページ(https://www.hugorf.fr/ascension)に誘導する形でビジネスを展開しており、初回は、無料でl’ascensionの方法を教える冊子をもらうことができる。L’ascension(上昇)とは、英語圏のインセル用語ascensionをそのまま持ってきたもので、omegaからbeta、betaからalphaというように男性の等級を上昇することを指す。その際にメールアドレスを教えると、メルマガと有料の個別指導の案内が来て、お金が発生する仕組みである。
彼の注目に値する点は、彼の最も注目を集めているTikTokの動画が、トランスジェンダー批判であるという点である。上で見たように、ナンパ術などは情報の質が低すぎて、TikTokでも再生数が2000回を超えることは稀であるが、彼がトランスジェンダーを揶揄する内容の投稿はほぼ全て5万再生を超え、ゲイ運動を皮肉った動画は200万再生と最も再生されている。
彼が繰り返している理論によると、インテリ男はフェミニズムやノンバイナリーのジェンダー教育を受けたことによって女性化し、現在のあらゆる社会問題の原因になっている。彼はジェンダーがバイナリーであることを強く強調し、性別に見合った仕事を各人が行うように教育が行われるようにするべきだという主張をしている。ある動画では、男性が女性化してテストステロン値が低下したために、子供の自殺を止められなくなったことが、現在の子供の自殺率の向上につながっているらしい。そこから。ノンバイナリーの発想や社会的に作られた性差は間違いではなかったのだという主張に至り、性的マイノリティ当事者に白羽の矢が立っているのである。
Léoは、インテリだけあって、「男なら皆」という決めつけは避け、動画の中でアセクシャルやトランスを明確に区別して扱っている。また、Killian Senseiも女性に対しては攻撃的であるが、性的マイノリティに対して攻撃的な発言をしている動画は確認していない。性的マイノリティに対する立場の取り方はインセルの人々においてどのていど別れているのかという事は、興味深いテーマである。
Hugo RF:https://www.tiktok.com/@redpillfrance
ホームページ:https://www.hugorf.fr/ascension
さいごに、よく言われるインセルと極右が結びつきやすいという現象をフランスにおいて証明する例として、極右政治家で男権主義者のJulien Rochedyを紹介したい。彼は2006年から2014年まで国民戦線の党員であり、2012年から2014年には国民戦線の青年部のリーダーになっている。結局選挙に通ったことはなく、国民戦線を離脱したのちは、2018年には男を磨くオンライン塾Ecole Majorを設立し、フランスのインセルの走りとなった。現在はYouTubeや執筆によって生活しているようである。
▲Rochedyが運営していたEcole Majorのサイト。現在は消されている。
▲現在の彼のホームページで売られている著書の詰め合わせ。『上位人と下等人』『ニーチェ・現代の問題』『恋愛と戦争』『来た、見た、勝った』『右派の哲学』
彼が国民戦線を離脱したのは、副代表であるFlorian Philippotの周辺にいる人間が「本来的な男らしさを持っていない弱い男たち」だったことが原因であると、本人が語っている。このような男権主義者で行動家の彼が2018年に男塾をつくってしまったのは、自然の成り行きだったと言える。
Ecole Majorのホームページは現在では削除されているが、当時の取材記事などから、このサイトが無料の記事と有料の講習をもっていたことが分かる。サイトのサブタイトルは「男性としてあり・ありつづける(Être et rester un homme)」とある。当時の彼のインタビューによると、男性性とは男が生まれながらにしてもっているものではなく、何世紀もの間、男たちがいつでも努力して獲得してきたものであるとしている。そして、現代においてもそれを繰り返すことが社会の安定につながるとしている。Hugo RFはフェミニズムによって男性が女性化されたという解釈をしていたわけだが、Rochedyはもっと構築主義的で、男性が男性化するのをやめたので社会が悲惨になったと考えたのである。
▲Rochedyは男性が男性性を獲得していた歴史的事例として騎士道を挙げており、現代においても男の騎士を理想とすべきことを語っている。
▲彼のニーチェに関する講義は150万回再生されている。
▲論争の様子
著書を分析しておこう。現在彼は5本の著作があり、それが『上位人と下等人 人間の価値と運命』『ニーチェ・現代の問題』『恋愛と戦争:フェミニズムへの返答』『来た、見た、勝った』『右派の哲学』である。題名的に恋愛に関係なさそうなものもあるが、例えば彼のニーチェの読解は、自らの置かれた環境を愛すという彼の保守主義の理論的支柱となっており、神なき世界において超人を目指す指向は彼の男性としての成熟を目指す思想につながっている。つまり、彼の右翼理論も、ニーチェの読解も、フェミニズムへの反論も、すべて同一地平に存在しているのである。
『恋愛と戦争:フェミニズムへの返答』Rochedyが長らく行ってきたフェミニズムへの反論の集大成として出た本である。ここでいうフェミニズムとは、イデオロギー的フェミニズムと彼が呼ぶものであり、収入格差等の実践的フェミニズム批判に関して反論するものではないと彼は強調している。彼はイデオロギー的フェミニズムの4つの嘘を紹介し、そこを重点的に反論している。その嘘とは、(1)男女の精神(脳)の差は社会的に構築されたものであるという考え、(2)家父長制による抑圧、(3)恋愛は女性に仕掛けられた罠であるという発想、(4)フェミニズムは女性のために恩恵をもたらすという主張、の4つである。2点目に関して、彼は家父長制に参加して恩恵を得ながらその決定に参加していないようにふるまっている女性は狡猾であるという主張をしているようである。ある討論番組の映像によると、彼はすべての男は家父長になることを拒むことができず、家父長となることで戦争や労働などに従事し家族を守らなければならなかったのだから、むしろ家父長制は男性支配の構造であったと語っている。
しかし、だから男のために家父長制に反対しようとならないのも、彼の面白い点である。彼曰く、男性がつらい役目を追うのは自然の法則として決まっており、動物をみればそれは明らかであるという。また、人間の長い歴史の中で、男が男性化する現象が繰り返されてきたのは、その形式が最も人間社会の在り方として正しいからだろうとも言っている。その例の一つが中世フランスの男の生き方の規範となった騎士道なのである。彼は、現代においても依然として騎士道を理想として心に保ち、男性は男性化して家父長になることによって義務を果たすべきで、そのために努力を惜しんではならないと主張している。
以上でフランスのマノスフェアに関する最初の調査を終了したい。まず、肉体改造によってアルファになることを目指すインセル、次に、小手先の心理学によってモテようとするPUAsの典型的な例を紹介し、その後マノスフェアが性的マイノリティへの攻撃や極右と結びついている例を見た。彼らの言説に通底していたのは、やはり女性嫌悪であろう。女性を好きだと述べ、女性を操ろうとする心理は女性蔑視を内包しており、男女がそれぞれをますます警戒している現状を憂いていたRochedyも彼自身、家父長制は女性が楽をするための制度であったと嫌悪感情をあらわにしている。この女性の内心が見えないことによる、疑念や陰謀論がインセルの根幹なのである。もちろん当会を例外扱いするつもりはない。我々も多かれ少なかれ女性嫌悪をもっている。
一方で、Léoがredpillを攻撃していることからもみえるように、マノスフェアは必ずしも手を取り合っているわけではない。彼らを一緒くたに批判すれば、それは彼らの理論をかき消す行動に他ならないだろう。また、彼らの話は全てが間違っているわけではなく、各人が一定程度、現代社会の問題に正しい視点をもっている。インセルであると思われることを恐れ、彼らにレッテルを張って全否定するようなことを当会は目指していない。むしろ、今回の調査結果をふまえて、彼ら一人一人の理論に深く耳を傾け、考察を深めていきたいと思う。
本稿は、フランスのインセル系インフルエンサーに関して日本語で書かれた初めての記事になるのではないか。出生率が再び減少したフランスをフィールドとした恋愛に関する調査は今後増えることと思う。この記事がその研究の一助になることを望む。