本研究では、導体中の電流ゆらぎに観測される1/fイズの統計的性質に着目し、その生成機構が定常線形過程によって説明可能であるかどうかを検討した。1/fスペクトルを示す実験データとして、カーボンファイバーおよびトランジスタにおいて測定された電流時系列を解析対象とした。これらのデータに対して、線形サロゲートデータ法の一つであるIterative Amplitude Adjusted Fourier Transform(IAAFT)法を適用し、平均相互情報量を識別統計量としたモンテカルロ仮説検定を行った。その結果、いずれのデータにおいても、観測された電流ゆらぎは定常線形過程と統計的に矛盾しないことが示された。
得られた結果を物理的観点から解釈するために、本研究では自由電子の運動を記述する理論的枠組み、すなわちDrude 模型から Langevin 方程式、Ornstein--Uhlenbeck(OU)過程、さらに離散時間の AR(1) 過程へと至る一連の記述に着目した。この枠組みにおいて、自由電子の運動は異なる緩和時間(あるいは記憶パラメータ)をもつ定常線形な AR(1) 過程の重ね合わせとして表現でき、その結果として1/fスペクトルが再現されることが先行研究により示されている。本研究の結果は、AR(1)過程の重ね合わせにより1/fスペクトルを再現した研究と整合的であり、導体中に観測される1/fノイズが定常線形過程として理解可能であることを支持するものである。