私は「やんちゃ」(別の言い方をすると、常識破りや型破り)な研究をしたいと思っていますし、「やんちゃ」な研究をしたい人が好きです。ここで私が言う「やんちゃ」とは、だだをこねたり、いたずらしたりするということではありません。妄想が好きでぶっ飛んだことを考えたり、人の意見や考えを鵜呑みにしなかったり、既成の価値観や常識を疑ったり、人に笑われるようなことでも果敢に取り組んだりすることです。私はそんな研究を良い研究だと思っています。良い研究をするには、常識にとらわれない理想や夢を描く力と、それを実現させるために直面する様々な問題と向き合い解決する力の両方が必要になります。
アメリカの実業家ジェームス・ウェブ・ヤング (James Webb Young) 氏は自著の『アイデアのつくり方』の中で、「アイデアとは既存の要素の新しい組み合わせである」と述べています。私達は大学やいろんな場所で、たくさんの技術や理論を学びます。従来の使い方を組み合わせて新しいアイデアを生み出すだけでも素晴らしいですが、学んだ技術や理論の理屈をしっかりと理解した上で思考的にジャンプして新しい価値やものの見方を考えたり提案したりして、新たな道を示すことは「やんちゃ」だと思います。
ただ、そんな人がやってみたいと思う研究は、あまり知られていない研究だったり、やっている人が少ない研究だったりします。そんな研究には情報があまりありませんから、失敗はつきものです。失敗は恥ずかしいことではないし隠すことでもありません。失敗は、自分が取り組んでいる課題の中身を明らかにしてくれます。ですから、失敗から得られる情報には、凄い価値があります。失敗とは道に迷うようなものかもしれません。でも、道に迷うからこそ、色々な道があることが分かります。やんちゃな研究をしていると、別の面で困ることがあります。それは、その研究のことを理解したり認めたりしてくれる人が(少なくとも最初の段階では)少ないことです。そんなときは腹も立ちますし残念な気持ちにもなりますが、誰もまだ考えていないぶっ飛んだことを自分はやったんだなと思い、嬉しい気持ちにもなります。
ところで、「やんちゃ」になること、「やんちゃ」であり続けることは簡単なことではありません。「やんちゃ」であるには、自分なりのこだわりや美意識が必要だからです。私が好きな歌の1つに、日本のパンク・ロックバンドである THE BLUE HEARTS の 情熱の薔薇 があります。その歌詞に、『見てきたものや聞いたこと 今まで覚えた全部 でたらめだったら面白い』 という部分があります。芸術家の 岡本 太郎さんは、『今日の芸術は、うまくあってはいけない。きれいであってはならない。ここちよくあってはならない。』と、芸術に対して私達が一般的に持っている価値観や認識を覆すような芸術論を展開しました。常識から距離を取って、もしくは常識の対極に立って 、それでいて何か新しいものを生み出していきたい私は、この歌詞と考え方が大好きです。
私は昔から不器用で要領が悪いです。今も、普通の人ならすぐに理解できることが理解できなかったり、普通の人なら気にならないようなことが気になって仕方がなくてそこで止まったり、何をするにも人より長い時間が掛かっています。でも、それは悪いことばかりではないと思っています。早く歩いたり走ったりしている人が気付かないことを、ゆっくり歩くことで見つけることができるからです。寄り道もたくさんしていると思います。おそらく私は本流に対して、違う見方を無意識のうちにしているのだと思います。または、知らず知らずのうちに、違うものの見方を探しているのかもしれません。これは、ある意味、ひねくれていると思います。でも、こんなふうにしていると、習慣になっていることや決まり事の中に埋もれてしまっている意外と大切なことを、見落とさずに見つけることができます。そういう大切なものって、多くの場合、誰でも気付きそうだけれど、誰も気付かない非常に単純なものだと思います。実際、私の研究のアイデアには非常に単純なものがいくつもあり、単純すぎてそんな手もあったのかと人から思われているかもしれません。こんなふうにして取り組んでいる私の研究は、デザイナーの皆川 明さんが設立したminä perhonen(ミナ・ペルホネン)というブランドで作られている服のようだと、個人的には感じています。
『研究テーマの見つけ方』でも述べている通り、私から学生さんに具体的な研究テーマを一方的に押し付けることはありません。自分がワクワクする研究をして欲しいと思っているからです。そして、その研究の面白さを専門家以外の人にも分かるように生き生きと語れるようになって欲しいと思っています。自分が面白いと思うことを誰にでも分かるように楽しそうに語れる人は、魅力的に見えるからです。基本的に、コンピュータサイエンスの範疇であれば、何をしても良いと思っています。コンピュータサイエンスの範疇であれば、私も興味を持ちます。