私は、誰に何と言われようと自分が好きだとか面白いと思う研究をやるのが一番だと思っています。好きでもないし面白いとも思えない研究に、一生懸命取り組むことは出来なくても、好きで面白いと思う研究なら一生懸命に取り組むこともできるはずです。ただ、実際に研究をするとなると、自分があまり好きではないこともやらなければならなくなります。例えば、英語が苦手なのに英語の文献を熟読して内容を理解しなければならないこともあるでしょうし、理論を勉強をするのが嫌いでもしなければならないこともあるでしょうし、プログラムを組むのが嫌いでもしなければならないこともあるでしょう。自分がやりたくもない研究をするのに、さらに嫌なことをするのは、かなり辛いことです。でも、やりたいことをするためなら、嫌々ながらも取り組むことが出来るでしょう。だから、私から学生さんに具体的な研究テーマを、一方的に指示することや押し付けることはありません。また、研究(勉学も)を行うために重要なのは、素朴な疑問と好奇心だと思っています。重要な研究だとか今流行っていると言われる研究をしたとしても、自分が楽しめるとは限りません。自分がやってみたいことや面白いと思うもので、誰もやっていなかったり知らないことを研究にした方が楽しく取り組めると思っています。
しかし、好きなことをしても良いと言われても、なかなか見つからないことがあります。それは、私たちは自分が思っている以上に、自分のことを理解していないからだと思います。これを別の言い方をすると、実は自分が気になっていることに何度も遭遇しているのに、それを気に留めていないとも言えます。そこで、最初に私は学生さんと雑談や世間話のような話をたくさんします。話をしながら、学生さんに色々と質問します。ここでの私の大きな目的は、学生さんの好奇心を引き出して成長させることです。この作業は、言ってみれば、まだ自分では気付いていない興味や関心の中身を掘り起こすようなものです。話のネタやきっかけは、何でも構いません。例えば、「昨日の夕焼けが、すごく綺麗だった」、「東京にある目黒寄生虫館で見た寄生虫が気持ち悪かった」、「子供の頃、スコットランドヤードというボードゲームが好きだった」などで十分です。こんな感じで、面白いと思っていることや魅力を感じているもの、その反対に物凄く嫌いなものなど、学生さんが感じている興味や関心事について話をします。ちょっとしたきっかけで、漠然とした考えが浮かんだり、漠然とした考えがはっきりとした考えに発展することがあるからです。この作業を何回か続けていくと、自分でも気付いていなかった自分の興味や関心の方向性や本質が少しずつ見えてきます。ちょっと見えたら、それに関係する情報を集めます。残念ながら、すごく面白いと思ったことが、そうでもないことがあります。そんなことがあっても、焦ったり心配したりする必要はありません。つまらなければ、別のものに行けばいいのです。大切なのは、自分のしたいことを自分で理解しているってことです。時間はかかるし遠回りをしているかもしれませんが、こんな感じで寄り道をしながら、自分に気付きながら自分の好きなことを少しずつたぐり寄せながら、全体的な研究テーマと具体的な研究内容を見つけていきます。
でも、研究テーマや研究内容を色々と探し求めても、やりたいことが見つからないときだってあるでしょう。そんなときは、私がやりたいと思っているけれど、取り掛かれていない研究などを、いくつか紹介します。その中で少しでも興味をひかれたものを1つ選んでもらって、それをやってもらいます。その研究は、今まで全く知らなかったことかもしれません。でも、なんでもそうだけど、最初は全然分からなくてしんどいけれど、続けていると少しずつ上手くなっていきます。上手くなると面白くなってきて、さらに一生懸命やろうという気になってきます。研究に限らず大抵のことは、自分が動かないと何も起こりません。やりたいことが自分で見つけられないときこそ、何かやった方が良いと思います。
研究テーマや具体的な研究内容が決まったら、研究の意義について考えることも大切ですが、それ以上に「その研究のどこを自分が面白いと思っているのか」を考えてみてほしいと思います。他の人から「その研究の何が面白いの?」と聞かれたときに、専門家以外にも分かりやすく答えられる人は、とても魅力的です。また、研究の意義は、その時々の状況によって大きく変わりますが、研究に対して私たちが感じている「楽しさ」や「面白さ」は、あまり変わらないと思います。例えば、今、空を飛ぶということは非常に大変です。ヘリコプターにしても、飛行機にしても、ドローンにしても、空中にとどまるためには多くの工夫と膨大なエネルギーが必要です。その最大の原因は重力です。しかし、もしも重力を無効化できる「反重力装置」が発明されたとしましょう。しかも、それが非常に簡単かつ安価に作れるとしたら、現在のヘリコプターや飛行機、ドローンに関する多くの技術は、意味をなさなくなるかもしれません。そうなれば、それらの技術に対する意義の多くも失われるでしょう。それでも、「空を自由に飛び回ること」の楽しさは変わらないはずです。このように、技術や状況が変わっても、研究に対する楽しさや面白さには普遍的な価値があると感じています。
専門書や研究論文に書かれていることから、自分が取り組む研究テーマを決めても良いですが、それらだけが研究テーマを決める資料ではありません。普段の生活の中の小さな気づきの中に、自分が面白いと思える研究テーマのヒントが隠れています。その研究テーマや研究内容が、これまで私がやってきた研究と同じである必要もありませんし、関係が無くても構いません。その場合は、私も学生さんと一緒に勉強していきます。基本的に、コンピュータサイエンスの範疇であれば、何をしても良いと思っています。コンピュータサイエンスの範疇であれば、私も興味を持ちます。