DNAの損傷は1日1細胞あたり最大50万回程度発生することが知られており、その原因は、正常な代謝活動に伴うもの(DNAポリメラーゼによるDNA複製ミスなど)と環境要因によるもの(紫外線など)があります。
私たちの体内にはいくつかのDNA修復機構が備わっており、これらが手分けして多彩なDNA損傷の処理にあたっています。
DNA修復機構の異常はがんや神経変性、早期老化などのさまざまな症状を伴う病気と関係しており、その発症機序を理解し、診断・治療に応用していく上でDNA修復機構の解明は大変興味深い研究テーマです。
私たちの細胞の中にある染色体は基本的には23組46本ですが、癌細胞ではこの数が大きく増減することや、正常な細胞においても特に男性のY染色体は加齢と共に徐々に失われていくことが知られています。染色体の数がこのように正常な状態から増減した状態を「染色体異数性」と呼びます。染色体異数性には遺伝的要素や環境要素が複合的に働いていると考えられますが、実際に人の体内で生じる染色体異数性の原因についてはっきりしたことは分かっていません。
培養細胞を用いて染色体異数性を研究する場合、問題になるのが「染色体の数が割と安定」であることです (もちろん不安定な細胞も存在しますが、そういう細胞は性質がコロコロ変わってしまって実験に使いにくいのです)。そこで我々が着目したのが「ミニ染色体」です。ミニ染色体は普通の染色体よりも遥かに小さな染色体で、とても不安定で失われやすい、という性質をもちます。我々はこのミニ染色体を簡便に作製する方法を開発し、さらに作製したミニ染色体を用いて、どのような遺伝子変異や薬剤が染色体異数性の原因となるのかを研究しています。
「合成致死」という用語を聞いたことがある方はいるでしょうか?これは細胞などで、ある1つの遺伝子を失っても死なないけれど、2つ以上の遺伝子を同時に失うと死んでしまう、という現象をあらわします。細胞の中においてタンパク質は他のタンパク質と協調/連携しながら働いているので、このように2つの遺伝子を同時に失うことで見えてくる現象があります。我々はオーキシンデグロンシステムやTet offシステムといった条件遺伝子欠損細胞の作製技術を生かし、これまでも多くの合成致死遺伝子の組み合わせを発見してきました。今後もDDX11という遺伝子を中心として、染色体恒常性を担う遺伝子の関係性を調べていきたいと考えています。
ヒトではXの形をした染色体ですが、染色体を見るためのプレートは分裂中期の細胞を集めることで簡単に作製することができます。染色体の形は放射線や抗がん剤への暴露、遺伝子欠損などによって変化するので、「染色体の形状を見る」という染色体解析は昔から多くの研究者が行ってきました。しかし、この解析の一番の問題点は、解析者によって解析基準が変わってしまうことです。また、顕微鏡下で長時間の解析をすることによる人的コストや解析者の疲労蓄積、さらには研究者のバイアスの混入という問題もあります。そこで我々は、情報系の研究者とチームを組み、染色体解析をAIで全自動化するという課題に取り組んでいます。