これまでの研究成果とメッセージ

①「減らない資源」は生物多様性を支えも破壊もする!

なぜ植食性の昆虫が少ないのに灌木上の造網性クモ類はたくさんいるのか、なぜ森林の林床植物が激減してもシカは減らないのか、なぜため池のアメリカザリ ガニは高密度を維持できるのか、なぜマングースは餌を「食い尽くし」ても減らないのか? これらの疑問は、「減らない資源」を考えれば全て説明できることがわかった。地上のクモ類は、土壌中の腐食連鎖から発生する昆虫に支えられていること、シカは林縁に豊富に存在する植生(農地も含む)で妊娠率が100% 近くに保たれていること、ザリガニは周辺の雑木林から毎年流入するリターで支えられていること、マングースは冬期に飛来するシロハラや容易に減らない地表 性昆虫類に支えられているらしいこと。減らない資源の多くは系外資源である。また減らない資源に支えられている生物が、物理環境を改変する能力がある場合 には、比較的容易に履歴効果(ヒステリシス)をともなう生態系や生物群集のレジームシフトが生じる。食物網は膨大な種から構成されているが、鍵となるプロ セスを特定さえできれば、意外と単純で共通する仕組みからさまざまな謎を解くことができる。そしてその謎解きにより、増え過ぎた生物や生態系の有効な管理方法を提言することができるのである。

②「生息地の連結性や組み合わせ」は生物多様性を支えも破壊もする!

生態系や生息地のネットワークが重要であることは世間で知られている。しかし、そのプロセスは思ったより複雑で状況依存的である。ネットワークはノード (生息地)とリンク(移動経路)からなるが、個々のノードとリンクの重要性は、相互依存的に決定される。ノードの重要性はリンクに依存するし、その逆も然り。希少種保全を考える場合、これらをセットで考えるべきである。外来種の侵入とインパクトの拡大、およびその管理もベクトルは真逆であるが基本は同じ。 ただしこの場合、在来種と外来種それぞれにとってのノードとリンクの価値の評価が不可欠となる。

異なる景観要素の組み合わせは種の多様性を高めるが、そのプロセスは「創発効果」によるところが大きいようだ。個体発生上の利用変化、季節的な資源補償などが そのプロセスである。ヤマアカガエルや造網性のクモは、組み合わせに敏感に反応している。それらを食らう高次捕食者(トキなど)はさらに高次の組み合わせが必要になるだろう。食物網と生態系ネットワークの連結が鍵となる。ただし、景観異質性は種の多様性を常に高めるとは限らない。また、種数全体と希少種や固有種では応答も異なる可能性が高い。モザイク神話はきちんと科学的に検証すべきである。

③ 工作舎の連載参照

「第6の大量絶滅時代を救う知恵:人と自然、生物多様性の時空」