2023年度セミナー

題目:光錐内の共形平坦な多様体における体積の変分について

概要:単連結で共形平坦なRiemann多様体は,光錐の空間的超曲面として等長はめ込みできることが知られており,光錐は共形平坦なRiemann多様体の全体空間とみなすことができる.また,光錐の超曲面とみなしたときの平均曲率は,スカラー曲率の定数倍に一致することが知られている.本講演では,光錐の超曲面の変分を考え,体積の第1・第2変分公式について紹介する.加えて,スカラー曲率が恒等的に零であるような光錐の超曲面は,光錐とは横断する別の光的な空間上で,超曲面として体積が最大となることについて紹介する.


題目:Krustの定理の拡張と極小曲面の変形について

概要:極小曲面論において「3次元ユークリッド空間内の極小曲面が,ある凸領域上で定義された関数のグラフになっているならば,その同伴族に属する曲面もまた同じ平面上で定義された関数のグラフになる」というKrustの定理は,埋め込まれた極小曲面を大域的に構成する際などに重要な役割を果たす.本講演では,上記のKrustの定理を同伴族に限らない変形(例えば,Lopez-Ros変形や外空間の変形など)に対して一般化した結果を紹介する.さらに,上記のような曲面のグラフ性は単葉調和関数論と密接に関係していることを紹介し,Krustの定理における凸性を仮定しない場合の結果についても言及する.本講演の内容は藤野弘基氏との共同研究に基づく.


題目:建築構造設計に向けた曲面の微分幾何

概要:建築構造における曲面形状設計においては,所定の荷重に対し応力を合理的に伝達し,施工性に優れ,かつ審美性をもつような形状を生成する手法が求められている.本講演では,曲面の微分幾何学や変分原理を活用した形状設計へのアプローチについて基本的事項から解説し,主に力学的特性と施工性に動機づけられた連携研究の事例を紹介する.


題目:$\ell^p$-ハイゼンベルグ群のMCP

概要:サブリーマン多様体において,多様体が測度収縮性MCP(0,N)を満たすか,満たすとして最適なNは何か,は重要な問題の1つである.本講演ではサブリーマン多様体を一般化したサブフィンスラー幾何の枠組みにおいてMCPに関する上記2問題の話をする.具体的には$\ell^p$-ハイゼンベルグ群と呼ばれるクラスにおいて,MCP(0,N)を満たすpの条件,および各pに対して最適なNはどう記述できるかについて,測地線次元との関係を交えながら紹介する.この講演はSamuël Borza氏(SISSA)との共同研究に基づく.


題目:スペクトルを使って空間の間の距離を測る

概要:与えられた2つの距離空間をより大きな距離空間に埋め込んで,埋め込み先のハウスドルフ距離を測ることをそれらの間のグロモフ-ハウスドルフ距離という.この埋め込み写像を固有関数,埋め込み先をヒルベルト空間に限定すると,スペクトル距離と呼ばれるものになる.それはBérad-Besson-Gallotによって90年代に定義され,応用上も重要な概念であることが知られている.一方でこの距離による収束は謎が多く,例えば計量の滑らかな収束であってもその距離で収束するとは限らない.本講演ではその距離を滑らかでない空間に対してまず一般化し,そこでその距離に関する収束の意味を明らかにする.


題目:3次元不定値Zoll多様体の新しい構成方法

概要:ペンローズ対応は多様体上の特殊な幾何構造と複素多様体の間の対応関係を与えるものであるが、その一つとして、3次元多様体上のEinstein-Weyl構造と複素曲面の間の対応がある。後者の複素曲面をミニツイスター空間という。本講演では、任意種数の超楕円曲線から自然な方法でコンパクトミニツイスター空間が構成できることと、それから得られる3次元実Einstein-Weyl多様体がZoll性とよばれる顕著な幾何的性質をもつことを示す。Zoll性とはすべての測地線が閉じているというものであり、その代表的な例は標準的な計量を入れた球面や射影空間たちである。今回得られた3次元Einstein-Weyl多様体は不定値であり、考える測地線は空間的なものである。これらのEinstein-Weyl多様体は arXiv:2208.13567 で与えられたものの一般化とみなすことができる。


題目:ファイバー空間上のJ-方程式

概要:Kähler幾何において,定スカラー曲率Kähler計量(cscK計量)の存在問題は一つの中心的問題である.Dervas-Sektnanは,正則埋め込みの全空間上で,定空間とファイブレーションでの適切な仮定の下,cscK計量の存在を示した.またJ-方程式とは,cscK計量の存在問題の研究においてS.K.DonaldsonとX.X.Chenにより導入された偏微分方程式である.ある状況下ではJ-方程式の解の存在はcscK計量の存在を意味するなど標準計量と関係があり注目されている.本講演では,J-方程式に関するDervan-Sektnan型の結果が得られたのでそれを紹介する.


題目:A conical approximation of constant scalar curvature Kähler metrics of Poincaré type and log K-stability

概要:The existence of constant scalar curvature Kähler (cscK) metrics is an important problem in complex geometry. In this talk, I will explain that a cscK metric of Poincaré type on the complement of a smooth divisor can be approximated by cscK metrics with cone singularities. This result is a scalar curvature version of Guenancia's result. As a corollary, we obtain log K-semistability with angle 0. This corollary is related to conjectures of Székelyhidi and J. Sun-S. Sun.


題目:3次元アファイン空間内の全曲率の小さい完備非固有アファイン波面(IA-front)の分類と新しい例 

概要:非固有アファイン球面 (IA-sphere)は,ある関数のグラフとして表示したとき,その関数のヘッシアンが1となるような曲面である.Martínezはこの曲面に対して,ユークリッド空間内の極小曲面のWeierstrassの表現公式に対応する複素表現公式を与え,さらにIA-sphereに対してある種の特異点を許した,非固有アファイン波面(IA-front)を同じ表現公式を用いて定義した.また,Martínezは完備なIA-frontに対して,有限全曲率を持つ完備な極小曲面に類似した性質を示し,いくつかの例を与えた.本講演では,次の2つについて紹介する:(1) 完備で埋め込まれたエンドの漸近類と完備で埋め込まれたエンドを持つ新しい曲面の例.(2) 全曲率が -8π以上である完備なIA-frontの分類. 


題目:代数多様体の最適退化に対応する幾何学的フローと,その漸近的構成について

概要:K半安定でないFano多様体に対してDonaldson-二木不変量を最小化するようなテスト配位を最適退化と呼ぶ.最適退化はKähler-Ricci流やCalabi流と呼ばれる幾何学的フローの代数的な対応物になっている.この講演では,最適退化と各種幾何学的フローの関係について解説する.また,幾何学的量子化を用いてこれらのフローを漸近的に構成する試みを紹介する.