「東京地下鉄ネットワークの三次元可視化に関する研究」について
作成:2022年1月8日
最終更新:2024年4月29日
私は幼い頃から鉄道が好きです。中学から大学まで鉄道研究会に所属し、大学教員となってからは、かつてのようにあまり時間はとれませんが、それでも学会発表などで初めての地域を訪れ、普段とは違う鉄道車両が走っているのを見ると、いつもワクワクします。
そんな私が、2012年から2013年にかけて、慶應義塾大学における寄附講座「交通運輸情報プロジェクト」に所属していた際に行ったのが、表題の研究です。この研究発表を2013年に情報処理学会のヒューマンコンピュータインタラクション研究会で行いましたが、聴衆の反応は芳しくありませんでした。
そんな感じだったため、しばらくお蔵入り状態になっていたのですが、最近になって自分の過去の研究を見直した際、いや意外とよくできているんじゃないか、と思い、またバンダイ社の「東京地下鉄立体路線図 フルコンプリートセット」(※1)が人気を博しているのを見ると、いやいやどうして、それなりに需要はあるんじゃないか、と思うに至りました。
(※1)日刊工業新聞,『東京地下鉄立体路線図 フルコンプリートセット』2018年8月31日(金)より受注開始,企業リリース Powered by PR TIMES,2018年8月31日,https://www.nikkan.co.jp/releases/view/63788
そこで、本ページにて2013年に行った研究発表の情報を基に、研究の概要を公開することにしました。その後の更新については、(※)で記すことにします。なお、本ページで公開する情報について、複製、転用、販売、および適切に引用せずに研究することを行わないでください。本ページをご覧になって、関心を持たれた方は、ぜひメール(tetsushi77 [at] gmail.com 宛)でコメントをお送りください。
また、大平の専門は、メインページで述べている通り社会的ジレンマの状況下での協力の進化に関する数理モデルを用いたアプローチであり、地図や三次元可視化ではありません。そのため、本研究に関連して、本来ならこのようにすべき、というご提案もあるかもしれません。そうしたご提案についてもお寄せください。
研究の動機
地下鉄路線図は、一般の鉄道と同様に平面マップとして表現されているが、地下鉄の特性として、一般の鉄道と比較して高低差が大きい、ということが挙げられる。このため、地下鉄の路線同士の乗り換え時にはかなりの時間を要することが多く、たとえば東京メトロ後楽園駅を挙げると、丸ノ内線の同駅は地表面から3.5mの高さにあるのに対し、交差する南北線の同駅の深さは地表面から37.5mである。したがって高低差は実に40m以上あり、これは一般的なビルの10階以上の高さに相当する。
このことから、地下鉄路線図を三次元マップにより表現することで、各路線の位置関係が容易に把握可能になり、そして潜在的な需要もあると考えられるため、この研究に取り組むことにした。
関連研究の調査
地下鉄ネットワークの特性の分析
Latora and Marchiori (2002)[1]:
スモールワールド性が地下鉄ネットワーク構築の原則となっていることを発見した
Rosvall et al. (2005)[2]:
都市の道路をノードに、交点をリンクにマップすると、より広いリンク数分布を持つネットワークが得られることが分かった。
Angeloudis and Fisk (2006)[3]:
地下鉄ネットワークの結合は密だが最大次数は低くランダムな攻撃に強いことが分かった
Masuccia et al. (2009)[4]:
ロンドンの地下鉄ネットワーク構造は距離と通りの名称の相互作用に特徴付けられることが分かった
Roth et al. (2012)[5]:
各都市の地下鉄ネットワーク発展を分析し、地理/経済的条件とは関係なくコア部分とそこから放射状に出る枝という一般的な特性を発見した。
Derrible (2012)[6]:
世界の地下鉄ネットワークの大きさに伴う媒介中心性の進化について、大域的傾向の出現を分析したところ、媒介中心性はネットワークの大きさに伴い、一貫してより均等に分布することが判明した。すなわち他の複雑ネットワークの特性と異なり、no winner takes all である。なお、媒介中心性については、Freeman [7]による概念(点iを通る経路が多い=点iは中心性が高い)に基づいている。
Stott et al. (2011)[8]:
ネットワークの効率的配置を最適化問題と捉え、山登り法で地下鉄のマップを再配置した結果、より効率よくルートを発見できるマップを得た。
地下鉄ネットワークの可視化
永井寛朗,森谷友昭,高橋時市郎,「地下鉄路線情報の可視化システムの開発」,平成19年度電子情報通信学会東京支部学生会研究発表会 (2007)[9]
駅の緯度、経度はGoogle Earth、海抜は国土地理院の数値地図から取得。
特定の路線、駅名、駅の構内図や車椅子対応設備のある駅などの表示が可能。
しかし、緯度、経度の平面直角座標への換算方法や、上述の表示機能の詳細が不明。
コンピュータを使用しない地下鉄ネットワークの可視化
栗山貴嗣,「Tokyo Arteria / 東京動脈」(2008-2010)[10]
東京の地下鉄や山手線、中央線といった各路線を都市の動脈に見立て、その流れを可視化。
地表面から駅のプラットフォームまでの深さを白いワイヤーで示す
各路線は透明な管で表現されており、その中を各路線カラーの液体が流れる。
(※)栗山氏の東京動脈は、その後もたびたびネットで紹介されています。たとえばこちら。
広田稔,週刊アスキー編集部菊地等編,ネットで「スゴイ」と評判の『東京動脈』、まさに鉄道網は東京の血脈だ,週刊アスキー,2013年11月28日,https://weekly.ascii.jp/elem/000/002/619/2619753/
関連研究のまとめ
地下鉄ネットワークの特性に関する静的な分析は多数行われている
数理モデルによりネットワーク発展ダイナミクスの再現を試みる研究も見られる
以下は取り組む価値があるテーマ
駅の地理的データ(緯度、経度、標高)を視覚的に分かりやすく表現するための知見をまとめる
そして時間単位の輸送力を可視化する
さらに乗換駅を図示する
本研究の目標
東京地下鉄ネットワークの路線図を三次元で可視化
各駅の地理的データに基づいて特に路線間の深さ方向の位置関係を視覚的に表現
各路線の単位時間当たりの輸送力を可視化
各路線の時間ごとの運行本数を基にする
各路線の太さと各駅の大きさに対応させる
各路線の乗換駅を図示する
モデルの構築
データの取得
可視化に必要なデータは以下の2つ
各駅の緯度、経度および標高
各路線の時間ごとの運行本数
1:各駅の緯度、経度および標高について
各駅の緯度と経度はGoogleマップ[11]により取得
各駅の標高を求めるために次の情報を使用
各駅の地表面の標高は国土地理院の電子国土Web.NEXT [12]
各駅の深さは東京メトロおよび東京都交通局のWebサイト[13,14]
(※)各駅の深さ情報は、東京メトロ、東京都交通局、いずれについてもWebサイトから削除されてしまいました。特段の理由がなければ、再度掲載頂くことを希望したいところです。
緯度、経度をXY平面上に投影した値に変換する
参考文献[15]が示す、他の手法に比べ適用可能範囲がきわめて広く、式が単純でプログラミングも容易なガウス-クリューゲル図法の原典[16]にある第一公式を使用
2:各路線の時間ごとの運行本数について
東京メトロおよび東京都交通局のWebサイトより、基準駅(基本的に番号1が振られた駅)のどちらか一方面の時刻表を基にして調べた
表1:各路線の基準駅
※方南町支線は本来「Mb」であるが、キー操作の関係で「M」に統一。
可視化手法
OpenGLのAPIであるGLUT[17]を使用
求めた各駅のXY座標について
正負を逆にし、x, yを相互に入れ替え、区間[-2,2]で正規化を行い、重み付けおよび平行移動する。
視覚的に分かりやすくするため、駅の標高は実際の縮尺より約60倍に拡大。
各路線の時間ごとの運行本数について
1時間当たり10本を基準値に設定
それよりも本数が多いときは路線を太く、少ないときは細く表示する。
実際の可視化
三次元表示1
図1:東京地下鉄路線図(上から)
三次元表示2
図2:東京地下鉄路線図(横から)
(※)キーボードの左右矢印キーでZ軸、上下矢印キーでX軸の回転が可能です
輸送力の変化1
図3:早朝の輸送力(午前5時)
(※)マウスの右クリックで輸送力をアニメーションで可視化します。もう一度右クリックするとアニメーションが止まります。
輸送力の変化2
図4:朝ラッシュ時の輸送力(午前8時)
視点移動と拡大
図5:図2を拡大し視点を左に移動
(※)マウスで左右にドラッグすることで視点を移動できます。拡大はキーボードの「+」キーです。
視点移動と縮小
図6:図2を縮小し視点を右に移動
(※)縮小はキーボードの「-」キーです
特定路線の表示
図7:東京メトロ銀座線、丸ノ内線、日比谷線のみ表示(標高0mを示す平面も表示)
(※)駅ナンバリング頭文字のキーを押すことで、その路線の表示のオンオフができます。標高0mを示す平面はスペースキーで表示のオンオフができます。東京の西側では、たとえ地下であっても標高0mより高いところを走っていることが分かります。
乗換駅の表示
図8:乗換駅の表示(東京メトロ丸ノ内線後楽園駅)
(※)各駅をクリックすることで、乗換駅がある場合はその駅から、その路線の半透明カラーで各乗換駅に対して平面が表示されます。
既存研究との比較
既存研究と比較した際の本研究の新規性について
実際に東京地下鉄ネットワークを三次元で可視化し、そのノウハウについて明示した。
各路線の位置関係をあらゆる方向から分かりやすく図示することが可能
時間ごとの輸送力についても路線や駅の太さという形で表示できる
各路線の乗換駅についても図示できる
今後の展開
表示機能の改善
各路線の凡例を表示
モバイルデバイスへの移植
iOS、Androidへの対応→WebGL(OpenGL ES)[18]
(※)実はWebGL版も(ある程度)作ったのですが、独学でいろいろ進めていくのは時間の関係で難しく、途中までになってしまっています。後日これも公開できればと思います。
GPSと連動した現在位置の表示
ダイヤよりさらに詳細な輸送力データの活用
国土交通省による大都市交通センサス[19]
東京都市圏交通計画協議会のパーソントリップ調査[20]
参考文献
(Webサイトの名称とURLは2013年時点のもの。変更がある場合は※で表示。)
[1] Latora, V. and Marchiori, M.: Is the Boston subway a small-world network?, Phys. A, Vol.314, Issues 1-4, pp.109-113 (2002).
[2] Rosvall, M., Trusina, A., Minnhagen, P. and Sneppen, K.: Networks and cities: An information perspective, Phys. Rev. Lett., Vol.94, Issue 2, 028701 (2005).
[3] Angeloudis, P. and Fisk, D.: Large subway systems as complex networks, Phys. A, Vol.367, pp.553-558 (2006).
[4] Masuccia, A. P., Smith, D., Crooks, A. and Batty, M.: Random planar graphs and the London street network, Eur. Phys. J. B, Vol.71, Issue 2, pp.259-271 (2009).
[5] Roth, C., Kang, S. M., Batty, M. and Barthelemy, M.: A long-time limit for world subway networks, J. R. Soc. Interface, doi:10.1098/rsif.2012.0259 (2012).
[6] Derrible, S.: Network centrality of metro systems, PLoS ONE, Vol.7, Issue 7, e40575 (2012).
[7] Freeman, L. C.: A set of measures of centrality based on betweenness, Sociometry, Vol.40, No.1, pp.35-41 (1977).
[8] Stott, J., Rodgers, P., Martínez-Ovando, J. C. and Walker, S. G.: Automatic metro map layout using multicriteria optimization, IEEE Transactions on Visualization and Computer Graphics, Vol.17, No.1 (2011).
[9] 永井寛朗, 森谷友昭, 高橋時市郎: 地下鉄路線情報の可視化システムの開発, 平成19年度電子情報通信学会東京支部学生会研究発表会 (2007).
[10] 栗山貴嗣: Tokyo Arteria / 東京動脈 (2008-2010).
http://en.papyri.net/artworks/tokyoart
[11] Google: Google マップ http://maps.google.co.jp/
(※)2022年1月現在のURLは https://www.google.co.jp/maps
[12] 国土地理院: 電子国土Web.NEXT
http://portal.cyberjapan.jp/site/mapuse/index.html
(※)2022年1月現在の名称は「地理院地図(電子国土Web)」https://maps.gsi.go.jp/
[13] 東京メトロ: 東京メトロこども大学 データコンテンツ
http://kids.tokyometro.jp/dataContents/index.html
(※)2022年1月現在サイト削除
[14] 東京都交通局: 各駅情報
http://www.kotsu.metro.tokyo.jp/subway/stations/
(※)2022年1月現在のURLはhttp://からhttps://に変更
[15] 政春尋志: ガウス-クリューゲル図法 Krueger(1912) 第一公式の再評価, 日本地球惑星科学連合2008年大会予稿集 (2008).
[16] Krüger, L.: Konforme Abbildung des Erdellipsoids in der Ebene, Veröffentlichung des Königl. Preuszischen Geodätischen Institutes, Neue Folge, No.52, B.G. Teubner (1912).
[17] GLUT - The OpenGL Utility Toolkit
http://www.opengl.org/resources/libraries/glut/
(※)2022年1月現在のURLはhttp://からhttps://に変更。GLUTではなくFreeGLUTを使うように案内されます。しかし、お手軽に三次元可視化を行うにはやや難しいかと思います。Visual StudioをインストールしたWindows環境では、Nate Robins氏のWebサイト
Nate Robins - OpenGL - GLUT for Win32 - XMission
https://user.xmission.com/~nate/glut.html
(2022年1月現在のURL)
から「glut-3.7.6-bin.zip」をダウンロードして解凍し、
C:\Program Files (x86)\Microsoft Visual Studio XX.X\VC\lib
に「glut32.lib」を
C:\Program Files (x86)\Microsoft Visual Studio XX.X\VC\include\GL
に「glut.h」を
C:\Windows\SysWOW64
に「glut32.dll」を
それぞれ入れるのがお手軽です。
[18] WebGL - OpenGL ES 2.0 for the Web
http://www.khronos.org/webgl/
(※)2022年1月現在のURLは https://jp.khronos.org/webgl/
[19] 国土交通省: 大都市交通センサス
http://www.mlit.go.jp/sogoseisaku/transport/sosei_transport_tk_000007.html
(※)2022年1月現在のURLはhttp://からhttps://に変更
[20] 東京都市圏交通計画協議会: パーソントリップ調査
http://www.tokyo-pt.jp/index.html
(※)2022年1月現在のURLは https://www.tokyo-pt.jp/person/01
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