Okayama Univ. Sci. 2019. 4. ~
2026.3.1 3次元ナノ多孔質グラフェンのディラック電子状態の起源を解明
"Insulating Electronic States Near the Dirac Point Arising from Twisted Stacking and Curvature in 3D Nanoporous Graphene"
Yoichi Tanabe*, Hayato Sueyoshi, Samuel Jeong, Kojiro Imai, Shojiro Kimura, Yoshikazu Ito*, Carbon 225, 121421 (2026).
https://www.sciencedirect.com/science/article/pii/S0008622326001958
グラフェンによる3次元ナノ構造体は、機械特性、化学耐性、電気伝導性に優れた原子層グラフェンを3次元的に集積化し、実用性能を備えた新材料を創出するための基盤となる物質です。一方で、その基本単位である立体的なグラフェン曲面の電子状態や物性は原子層科学における未解明の研究領域です。今回、我々は、3次元ナノ多孔質グラフェンと呼ばれるグラフェン3次元ナノ構造体を対象として、この曲面グラフェン上のディラック電子状態の詳細を明らかにしました。
本物質は、5員環や7員環などのトポロジカル欠陥を含む2〜3層のランダム積層数層グラフェン曲面が、曲率半径100 nm程度のチューブ状骨格を形成し、それらが複数連結することにより3次元ネットワーク構造を形成します。ツイスト多層グラフェンでは、層間のツイスト角が5°よりも大きい場合、ディラック中性点近傍の各層の電子状態はほぼ独立に保たれることが知られていることから、本物質のディラック点近傍の電子状態はトポロジカル欠陥を含む単層グラフェン曲面の電子状態とみなされると予想されます。我々は、ナノ多孔質空間にイオン液体を導入した電気二重層トランジスタを作製し、ディラック中性点近傍において、グラフェン中の炭素原子が面内で逆向きに振動する E2g フォノンに由来するラマンGバンドのキャリア濃度依存性を調べました。その結果、ディラック点近傍におけるディラック電子とE2g フォノンの電子格子相互作用に由来するソフトニングを明瞭に観測し、さらに単層グラフェンにおけるGバンドの自己エネルギー補正式から見積もったフェルミ準位とキャパシタンス測定から見積もった各層平均のキャリア濃度が、単層グラフェンのディラック電子のフェルミ準位‐キャリア濃度関係式を満たすこと解明しました。この結果は、曲率半径100nm程度の立体曲面グラフェンにも、ツイスト積層構造に由来して、平面状のグラフェンと同様のディラック電子が存在することを示しています。さらに、トポロジカル欠陥によるディラック電子の散乱効果から予想されるトランスポートギャップについて、電気抵抗の温度依存性を調べた結果、ディラック点近傍においてトランスポートギャップの出現により電気抵抗の温度依存性がアレニウス型に変化することを観測しました。これらの結果は、ランダム積層グラフェン曲面からなる3次元ネットワーク上にディラック電子が出現する機構とその動力学の詳細を解明した初めての結果であり、曲面グラフェン物性の学理構築に貢献するとともに、3次元グラフェン電子デバイス創製の基盤を与えるものです。
共同研究者の皆様、東北大金研強磁場センターでの共同利用実験をサポートしていただいた皆様に感謝申し上げます。
2025.6.26 Preprint公開
"High-temperature helical edge states in BiSbTeSe2/graphene van der Waals heterostructure"
Yoichi Tanabe*, Ngoc Han Tu*, Ming-Chun Jiang, Yi Ling Chiew, Mitsutaka Haruta, Kiyohiro Adachi, David Pomaranski, Ryo Ito, Yuya Shimazaki, Daisuke Hashizume, Xiuzhen Yu, Guang-Yu Guo, Ryotaro Arita, Michihisa Yamamoto* arXiv:2506.20510
https://doi.org/10.48550/arXiv.2506.20510
グラフェン上に3次元トポロジカル絶縁体として知られるBi2Se3などのテトラジマイト型化合物をエピタキシャル成長させると、ケクレ歪と呼ばれる超周期構造の寄与によりグラフェンにバンドギャップが開くことが予測されています。このとき、3次元トポロジカル絶縁体の膜厚を低減してトポロジカル表面状態に混成ギャップを形成し、フェルミ準位を両者のギャップ内に位置するようにキャリア濃度を調整すると、Γ点でのグラフェンのπバンドとトポロジカル表面状態の混成により、グラフェンのスピン軌道相互作用が共鳴的に増幅されることで、グラフェンに2次元トポロジカル絶縁体相が誘起されると期待されています。我々は、CVDグラフェン上にバルク絶縁性の高い3次元トポロジカル絶縁体BiSbTeSe2薄膜をエピタキシャル成長させることで、膜厚3nm~9nmの領域において、2次元トポロジカル絶縁体相が誘起されることを実験から明らかにし、さらに、2次元トポロジカル絶縁体のヘリカルな端状態に由来する非局所量子化抵抗が最大~200K程度の高温まで観測されることを見出しました。本物質の発見から、化学的に安定なグラフェン由来の2次元トポロジカル絶縁体を利用したトポロジカル量子デバイスの開発につながることが期待されます。
2024.4.22 解説:3次元の曲面を持つグラフェンの電子物性
アグネ技術センターが出版する固体物理の4月号から3次元曲面グラフェンのこれまでの研究をまとめた解説記事が出版されました。
"3次元の曲面を持つグラフェンの電子物性",
田邉洋一,伊藤良一,菅原克明,固体物理, 59(No.4), 185-198 (2024).
2023.2.17 解説:窒素ドープ3Dグラフェン
-触媒活性な局在電子と電荷輸送を担う金属チャネルの共存状態の発見
化学同人社が出版する化学の3月号から窒素ドープ3Dグラフェンの電気伝導物性に関する解説記事が
出版されました。
"窒素ドープ3Dグラフェン -触媒活性な局在電子と電荷輸送を担う金属チャネルの共存状態の発見",
田邉洋一,伊藤良一,化学, 78(No.3), 40-44 (2023).
炭素材料は化学反応を促進する金属触媒を担持させる素材として利用されていますが、それ自体に触媒作用を持たせることで高価な貴金属が不要になることから、これを目指した炭素触媒材料の研究が行われています。今回我々は、グラフェンと呼ばれる炭素原子1個の厚みを持つ2次元シートの一部を、窒素原子で置き換え、これを、曲面を用いて集積化した立体的なグラフェンがプラチナに匹敵する高い触媒性能を示すことに着目し、この電子状態を調べました。その結果、触媒反応に使用できる電子が閉じ込められた(局在)状態とこの領域に電子を効率良く輸送して化学反応を促進する金属的な状態が共存することを見出しました。本成果から、グラフェンを用いた実用的な大面積触媒の設計において、曲面への元素置換が、触媒活性な局在電子と高い電気伝導性という2つの相反する現象を同時に実現するための鍵であることが明らかになったことから、これを設計指針として、貴金属フリーでかつ大面積を有する実用的な炭素触媒材料の開発につながることが期待されます。筑波大学、ジョンズ・ホプキンス大学、東北大学、大阪大学との共同研究です。共同研究者の皆様に感謝いたします。M1の川田直諒君が4年次の卒業研究を通してデータに貢献してくれました。
“Coexistence of Urbach-tail-like localized states and metallic conduction channels in nitrogen-doped
3D curved graphene”,
Yoichi Tanabe*, Yoshikazu Ito*, Katsuaki Sugawara, Samuel Jeong, Tatsuhiko Ohto, Tomohiko Nishiuchi, Naoaki Kawada, Shojiro Kimura, Christopher Florencio Aleman, Takashi Takahashi, Motoko Kotani,
Mingwei Chen*,
Advanced Materials, 34, 2205986 (2022) .
2021. 8. 3. 純良FeSe単結晶の磁束フローに関する論文が出版されました。
"Electronic States and Energy Dissipations of Vortex Core in Pure FeSe Single Crystals Investigated by Microwave Surface Impedance",
Tatsunori Okada, Yoshinori Imai, Takahiro Urata, Yoichi Tanabe, Katsumi Tanigaki, Atsutaka Maeda,
Journal of the Physical Society of Japan, 90, 094704 (2021).
格子振動との結合によって, 物性相図上におけるネマティツク量子臨界点の位置がシフトすることで量子臨界点近傍において期待されるネマティック揺らぎによる超伝導転転移温度の上昇が抑制されている可能性があることが明らかになりました.
"Lattice-shifted nematic quantum critical point in FeSe1−xSx",
S. Chibani, D. Farina, P. Massat, M. Cazayous, A. Sacuto, T. Urata, Y. Tanabe, K. Tanigaki, A. E. Böhmer, P. C. Canfield, M. Merz, S. Karlsson, P. Strobel, P. Toulemonde, I. Paul & Y. Gallais*,
npj Quantum Materials 6, 37 (2021). DOI:10.1038/s41535-021-00336-3
炭素の2次元シートであるグラフェンを3次元的な曲面を用いて集積化した立体的なグラフェンの性質に関する報告です。トポロジカル欠陥と呼ばれる炭素の5,7員環構造や伸縮を伴う曲面によりグラフェンのディラック電子が散乱される様子を磁場中電気伝導度から観測しました。3次元グラフェンのデバイス化に向けた性能指標となる結果です。筑波大学、東北大学、大阪大学、東京大学、理化学研究所との共同研究です。共同研究者の皆様に感謝いたします。
"Dirac Fermion Kinetics in 3D Curved Graphene",
Yoichi Tanabe*, Yoshikazu Ito*, Katsuaki Sugawara, Mikito Koshino, Shojiro Kimura, Tomoya Naito, Isaac Johnson, Takashi Takahashi, Mingwei Chen*,
Advanced Materials, 2020, 32, 2005838. https://doi.org/10.1002/adma.202005838
プレスリリースhttps://www.wpi-aimr.tohoku.ac.jp/jp/news/press/2020/20201105_001310.html
11/5付 日本経済新聞電子版に掲載されました。https://r.nikkei.com/article/DGXLRSP542811_05112020000000
12/10付 日刊工業新聞21面に掲載されました。
海外のニュースサイトに掲載されました:。https://wiley.altmetric.com/details/92020636/news
矢野経済研究所が発行する月刊紙 Yano E plusに3次元曲面グラフェンの特集記事が掲載されました。https://www.yano.co.jp/eplus/yearly.php?year=2021
"Understanding the Detection Mechanisms and Ability of Molecular Hydrogen on Three-Dimensional Bicontinuous Nanoporous Reduced Graphene Oxide",
Yoshikazu Ito*, Megumi Kayanuma,Yasuteru Shigeta,Jun-ichi Fujita and Yoichi Tanabe,
Materials 2020, 13 (10), 2259. https://www.mdpi.com/1996-1944/13/10/2259
"Separate tuning of nematicity and spin fluctuations to unravel the origin of superconductivity in FeSe",
Seung-Ho Baek, Jong Mok Ok, Jun Sung Kim, Saicharan Aswartham, Igor Morozov, Dmitriy Chareev, Takahiro Urata, Katsumi Tanigaki, Yoichi Tanabe, Bernd Büchner, and Dmitri V. Efremov,
npj Quantum Materials 5, 8 (2020). https://www.nature.com/articles/s41535-020-0211-y