現在進めている研究です。警告色のミュラー型擬態の進化メカニズムについて、日本産のババヤスデ科ヤスデ類を対象に研究を進めています。構想から9年が経ち、ようやく最初の論文の図を作り始めました。長い道のりでした。数百匹の生きたヤスデをバッグに入れて新大阪駅の階段を登ったことなど、思い出すことは多々あります。
ミドリババヤスデ種複合体(形では区別できない近縁種の集合体)では、中部地方西部から関西にかけて多発的な種分化が生じています。この地域だけで数十種が生息していると思われます。各種の分布域は狭い傾向にあり、市町村レベルと思われるケースもあります。多発的な種分化をもたらす要因として性選択による交尾器サイズ、体サイズの多様化に注目しています。
Tanabe T., Katakura H. and Mawatari S. F. (2001) Biological Journal of the Linnean Society, 72 (2), 249–264.
Sota T. and Tanabe T. (2010) Proceedings of the Royal Society B, 277 (1682), 689–696.
雄の交尾器は、交尾をする動物において最も急速に多様化する器官として知られていますが、中には雌の交尾器も急送に多様化しているものがいます。ババヤスデ属ヤスデ類はその一つで、雌は特異な構造の交尾器を持ちます。雌雄間での共進化の観点から、このヤスデ類の雌雄交尾器の進化メカニズムの研究を進めています。
Tanabe T. and Sota T. (2014) Evolution, 68, 441–452.
ミドリババヤスデ種複合体にて、体サイズと交尾器サイズの違いによる機械的な生殖隔離(機械的隔離)が生じていることがわかりました。ヤスデ類の多くのグループの雄では、精子を放出する器官(生殖口)と精子を雌に渡す器官(交尾器;脚の変形なので生殖肢と呼ばれます)は別になっています。よって、交尾において、雄はまず生殖口でから交尾器に精子を放出し、それから精子のついた交尾器を用いて雌に精子を渡します。ミドリババヤスデ種複合体の雄は、まず精子をつけていない空の交尾器を雌交尾器に挿入しようと試みます。ここで、うまく挿入できれば、交尾器を引きぬいて、それに精子を放出して、再度、交尾器を雌交尾器に挿入して精子を雌に渡します。体サイズや交尾器サイズの不整合から、雄は空の交尾器を雌交尾器に挿入できなければ、そこで交尾を中断しますので、空交尾器の挿入には相手の雌が交尾可能な雌であるかどうかを確認する機能があるのかもしれません。
Tanabe T. and Sota T. (2008) The American Naturalist, 171 (5), 692–699.
日本産のババヤスデ科ヤスデ類を中心に分類学的研究を行っています。
Tanabe T. and Shinohara K. (1996) Journal of Natural History, 30 (10), 1459–1494.
Tanabe T. (2002) Journal of Natural History, 36 (18), 2139–2183.