通常の風洞は1つの大きなファンで風を作り出しますが,そのような装置では,大気中に見られるような強い乱れ(乱流)を再現することができません.一方で,風力発電用の風車などの屋外構造物は,常に大気乱流にさらされており,時には突風を受けてブレードの損傷や落下などの事故が起こることもあります.そのため,実験室で大気乱流を再現し,安全性や耐風性を調べる技術はとても重要です.こうした技術があれば,台風時のような過酷な環境を模型実験で再現し,構造物のリスク評価につなげることができます.
私たちの研究室では,多数の小型ファンを格子状に並べた「マルチファン型風洞」を使って,室内で大気乱流をつくり出す研究を行っています.この風洞では,それぞれのファンを独立して制御でき,10 Hz帯までの速い変動を持つ風を作り出したり,空間的な風の速度勾配を細かく調整したりすることができます.この仕組みにより,複数のせん断層が同時に生まれ,大気中にあるような大きなスケールの乱れを含んだ強い乱流を効率的に生成することができます.また,入力条件と実際に生じる乱流の関係が分かりやすく,自立的に発達する乱流場が得られる点も特徴です.
さらに,私たちは入力信号の最適化やフィードバック制御も取り入れ,乱流の統計的な特徴を実際の大気に近づける取り組みを進めています.これにより,これまでの風洞では難しかった実大気に近い乱流の間欠性やエネルギースペクトルの再現が期待されています.
本技術は,風力発電施設の耐風評価や都市構造物の設計,高効率な翼型の性能評価など,実環境を模擬した高度な風工学研究に幅広く活用できます.将来的には,大気乱流に関わるリスク解析や防災工学への応用も視野に入れています.
参考文献:
Relative importance of initial conditions on outflows from multiple fans
K. Takamure, S. Ozono
Physical Review E 99(1) 013112 (2019)
脱炭素社会の実現に向けて,自動車のEV化や航空機の電動化がこれまで以上に進んでいます.さらに,災害時の物資輸送ドローンなど,モーターを用いた機器は幅広い場面で活躍が期待されています.一方で,モーターは動作中に熱を持ち,温度が高くなるほど性能が落ちてしまい,効率や寿命にも影響が出てしまいます.そのため,モーター内部で生じる熱を効果的に逃がし,温度上昇を抑える「排熱技術」がとても重要になります.
私たちの研究室では,モーターの排熱効率を高めるための研究を行っています.図に示すように,数値シミュレーションを用いてモーター周囲の温度分布や空気の流れを詳細に解析し,最適な排熱構造や形状の提案を行っています.数値シミュレーションと実験を組み合わせることで,より冷却しやすい設計の方向性を導き出すことが可能です.さらに,学内の電気系研究室とも連携し,排熱面と電気的な性能面の両方からモーターを評価しています.この協力体制によって,高出力でありながら信頼性にも優れた次世代電動モーターの実現を目指しています.
空気中に漂う とても小さな粒子(0.1〜10 μm)を効率よく集めて除去するための新しい装置の開発に取り組んでいます.ウイルスや油ミスト,微細な粉じんなどの粒子は目に見えませんが,健康や安全に大きな影響を及ぼします.そのため,これらをもっと手軽に,そして確実に取り除ける技術の実現を目標としています.私たちの身の回りの空気環境をより快適に保つためには,微粒子をどれだけ効率よく捕集できるかが重要となります.
現在広く使われているHEPAフィルタは非常に高性能ですが,細かい粒子を捕らえる仕組み上,目詰まりを起こしやすく,交換やメンテナンスの負担が大きいという課題があります.そこで私たちは,フィルタそのものに頼らずに粒子を捕集する方法として,静電気の力(クーロン力)と空気の流れの動きを組み合わせた方式に注目しています.
そのためにまず,粒子がどのように帯電し,どのように流れに乗って移動するのかを調べる必要があります.私たちは,パーティクルカウンターを用いた捕集率の定量的評価に加え,高速度カメラとレーザーによる流れ場や粒子挙動の可視化を行い,粒子の動きを詳細に把握しています.さらに,実験では直接測定が難しい粒子の帯電量や電場分布の可視化,粒子の微細な挙動については,数値シミュレーションによる予測を組み合わせることで理解を深め,最適な装置形状や電界条件の設計に役立てています.
特に最近では,流れを旋回させて遠心力を粒子に作用させることで捕集率を高める仕組みに着目しています.旋回流は粒子を外側へ押し出す効果を持つため,粒径の影響を受けにくく,従来の方式では捕らえにくかったサブミクロン領域の粒子にも高い効果が期待できます.このように,「電気の力」と「流れの力」を巧みに組み合わせることで,従来にはない新しい粒子捕集メカニズムの解明に挑戦しています.
エアカーテンとは,空気の流れを利用して“見えない壁”をつくり,外気の侵入や温度変化,さらにはウイルスや微粒子の飛散を抑えるための技術です.店舗の出入口や工場,病院など,さまざまな場所で使われています.しかし従来のエアカーテンは,ノズルから離れるにつれて風の勢いが弱まりやすく,遠くまで効果を保つことが難しいという課題がありました.
そこで私たちの研究グループでは,より遠くまで届き,しっかりと隔離性能を保てる新しいエアカーテンの実現を目指し,ノズル内部に工夫を加えた独自の気流制御技術を開発しています.特に,ノズル出口部にNACA翼の後端を切り落とした「切断翼(カットオフ翼)」を組み込んだところ,流れに大きな変化が生じることが分かってきました.
切断された翼のすぐ後ろには小さな低圧の領域が生まれ,ノズルの左右から出てくる二つの気流が中央に向かって強く引き寄せられます.その過程で周期的な大きな渦が発生し,気流の内側にあるせん断層同士が重なり合いながら混ざり合います.このとき,運動量が中央に集中して運ばれるため,通常の噴流では弱まっていくはずの中心の風速が,下流へ行くほど増えていくという“ブースト効果”が現れます.これは従来のエアカーテンには見られなかった,非常に特徴的な現象です.
私たちは,このブースト効果を最大限に引き出すために,切断翼の形や切断位置,ノズルとの相対配置を最適化する研究を進めています.これにより,流れの減衰を抑え,長距離でも勢いを失わないエアカーテンを実現する設計指針の確立を目指しています.
さらに,この技術を応用した卓上型のエアカーテン装置の開発にも取り組んでいます.医療現場のように人と人が近距離で向き合う環境では,飛沫やエアロゾルの拡散リスクが高まります.本装置では,人と人の間に小型のエアカーテンを形成し,呼気由来の飛沫を遮断することで感染リスクの低減を図ります.また,エアカーテンで回収した空気を内部で浄化し,深紫外線によってウイルスや細菌を不活化したうえで,再び清浄な気流として戻す仕組みも備えています.長時間使用することで,周囲の空気をきれいに保つ効果も期待できます.
将来的には,このような装置を広く活用することで,新しい感染症が流行した際にも適切に備えられる社会インフラとして発展させていくことを目指しています.空気そのものを安全にコントロールする技術を磨くことで,人々の日常生活や医療環境をより安心で快適なものへと変えていきたいと考えています.
参考文献:
Experimental Investigation of Jet Issued from Two-Dimensional Nozzle Equipped with Cut-off Airfoils
C. Wang, K. Takamure, T. Degawa, T. Uchiyama
Physics of Fluids 37 065101 (2025)
Inactivation Characteristics of a 280-nm Deep-UV Irradiation Dose on Aerosolized SARS-CoV-2
K. Takamure, Y. Iwatani, H. Amano, T. Yagi, T. Uchiyama
Environment International 177 108022 2023
K. Takamure, Y. Sakamoto, Y. Iwatani, H. Amano, T. Yagi, T. Uchiyama
Environment International 170 107580 (2022)
Blocking Effect of Desktop Air Curtain on Aerosols in Exhaled Breath
K. Takamure, Y. Sakamoto, T. Yagi, Y. Iwatani, H. Amano, T. Uchiyama
AIP Advances 12(5) 055323 (2022)
秋田をはじめとする豪雪地域では,農業用水路が地域インフラとして重要な役割を果たしている一方,冬季には雪氷塊の落下・流下が多発し,小水力発電設備の導入を阻む大きな課題となっています.落下した雪塊が水車ローターに衝突したり噛み込まれたりすることで,停止や損傷,さらには発電性能の低下を招くことが知られています.しかし,農業用水路には年間を通じて安定した流量が存在しており,未利用の再生可能エネルギーとして高いポテンシャルを有します.冬季にも安定して稼働できる技術さえ確立できれば,地域の分散型電源や 防災,IoT 機器電源など,多方面での活用が期待されます.
当研究室では,球形の雪塊(雪玉)を水路上流から放流し,タービンへの衝突・巻き込み・破砕の一連の過程を詳細に可視化することで,雪氷塊が発電性能に与える影響を実地実験および数値シミュレーションの双方から調査しています.さらに,クロスフロー式水車を基盤として,雪氷塊が流下する過酷な条件下でも停止しにくい「冬季対応型水車」の設計指針を構築することを目指し,形状パラメータの最適化を進めています.これにより,豪雪地帯における小水力発電の安定導入が現実的なものとなり,地域エネルギー活用の新たな展開につながる可能性が示されています.
参考文献:
Effect of a snow mass passing through an open-type cross-flow turbine on the power generation
K. Takamure, E. Satou, T. Ikeda, T. Uchiyama, T. Okayama, T. Miyazawa, D. Tsunashima, T. Degawa, K. Sasaki, K. Nagase
Renewable Energy 257 124810 (2026)
E. Satou, T. Uchiyama, K. Takamure, T. Ikeda, T. Okayama, T, Miyazawa, D. Tsunashima
Heliyon 9(10) e20833 (2023)
E. Satou, T. Ikeda, T. Uchiyama, T. Okayama, T. Miyazawa, K. Takamure, D. Tsunashima
Renewable Energy 200 146-153 (2022)
我々の研究室では,固体球を水中から水面に向けて鉛直上方に打ち上げる実験を行っています. 球体が水面が通過する際に,水面は非線形現象を伴うため複雑な挙動を示します. 水面と球体の相互干渉を物理的に解き明かすことで,船舶の抵抗低減や海面をジャンプする生物の飛翔メカニズムの解明に貢献することが期待されます.
図1に実験装置の概要を示します.実験装置は透明なアクリルタンク(幅0.4×奥行0.4×高さ0.4 m)とタンクを支える架台で構成されます. タンクには水が貯められ,その底部中央に球体の発射台が設置されます. 実験装置は合計8個の調整足によって支えられており,それぞれの足の高さを調節することで水槽は水平に保たれます. 水槽の下側には球体の発射台,コイルバネ,引き金などからなる球体の発射装置が配置されます.図2(上図)に発射装置の断面構造を示します. 発射台の中心部にはシリンダ(長さ67 mm,内径19.3 mm)があり,シリンダ上端には球体が配置されます. シリンダ内部には,円形断面をもつ鉄棒(長さ170 mm,直径19.1 mm)が挿入されており,その下端はコイルバネと直列に接続されています. 鉄棒先端には高さ4mm,幅6mmの上面が平らな微小タブが取り付けられています. 球体が発射台に設置されて待機状態の時,微小円柱と球体底部の距離は16.6 mmです. 鉄棒を鉛直下方に押し下げてコイルバネを圧縮し,引金で鉄棒を固定します. 引金を左方向に引いてコイルバネを開放すると,図2下図のように鉄棒がシリンダ内を上方に運動し,その上端が球体を打撃して球体が水中上方に放出されます.図3には実験装置,光源,および高速度カメラの配置図を示します.
図4に実験結果の一例を示します.水中から垂直上方に打ち上げられた球体が水面に到達した時に,水面には上に凸のふくらみが形成されます. その後,気液界面を通過した球体は水塊を連行しながら上昇を続け,水塊はシート状を成して水平方向へ広がっていきます. 球体が最大到達地点に達した時に,球体の下方には明確な水柱が形成されます. 空中を運動する球の周りには常に水塊や水柱が接触しており,球体の運動に影響を与え続けます. 我々の研究室では,このような水塊や水柱が球体の運動に与える影響について調査しています. 球体と水面の干渉メカニズムを明らかにすることで,水面と物体の干渉に伴う抵抗係数や移動係数などのパラメータの決定に貢献します.
参考文献:
K. Takamure, T. Uchiyama, T. Degawa
Applied Ocean Research 154 104341 (2025)
K. Takamure, T. Uchiyama
Ocean Engineering 266 112848 (2022)
Effect of Froude number on the motion of a spherical particle launched vertically upward in water
K. Takamure, T. Uchiyama
Experimental Thermal and Fluid Science 128(1) 110453 (2021)
K. Takamure, T. Uchiyama
Ocean Engineering 235 109282 (2021)
K. Takamure, T. Uchiyama
Physics of Fluids 32(11) 113313 (2020)
K. Takamure, T. Uchiyama
Experimental Thermal and Fluid Science 118(1) 110167 (2020)
Dynamics of a sphere launched vertically in water
K. Takamure, T. Uchiyama
Powder Technology 372 246-257 (2020) 査読有り筆頭著者
Energy transition in air of a sphere launched vertically upward in water
K. Takamure, T. Uchiyama
Ocean Engineering 207 107426 (2020)