私たちは、流体力学・混相流・ソフトマターに関する研究を行っています。
細管内の液面に衝撃を与えることで生成される、最高速度850 m/s(Mach 2以上)、直径10 µm以下の集束マイクロジェット現象を発見し、その流体力学的メカニズムを解明しました。現在は、本手法を用いた針のない注射器(無針注射)の更なる低侵襲化・高精度化に向けた生体皮膚への注入メカニズムの解明に取り組んでいます。
容器へ軽度な打撃を与えるという極めてシンプルな機構で液体ジェットを吐出する手法を開発しました。現在は、容器内部で生じるキャビテーション(気泡発生)の活用や容器形状の変更を通してジェットを2倍以上に効率よく増速・コントロールするメカニズムの解明を進めており、より簡易で効率的な新しい吐出・噴霧デバイスの創出を目指して研究を行っています。
水の10,000倍もの粘度を持つ超高粘度液体を安定して射出できる簡便な装置を開発しました。現在は、従来技術では困難であった高粘度材料の超精細塗布や金属配線印刷、医療用高粘度薬剤の投与など、幅広い産業・医療分野への実用化に向けた射出制御技術の研究を推進しています。
流体中の圧力変化や温度変化を計測する手法として,背景シュリーレン法(BOS法)を開発しています.この手法の利点は計測装置が簡便なことで,スマートフォンのカメラでも計測することが可能な画期的なものです.様々な流体現象計測に応用できる本手法の可能性をさらに広げるための研究を進めています.
背景シュリーレン法(BOS法)を用いて、水中を約1,500 m/sという超高速で伝播する水中衝撃波を光学的に捉え、一瞬の画像から圧力分布を高精度に算出する手法を確立しました。現在は、この手法を気体中の衝撃波や複雑な媒質中の過渡的現象へと拡張し、より詳細な伝播メカニズムの可視化・定量解析を行っています。
光弾性効果を利用し、ゲルなどの軟質材料内部に生じる3次元的な応力場(力の分布)を画像計測する技術を開発しています。現在は、注射・穿刺時に皮膚や生体組織へ働く力学的負荷の詳細な可視化・評価を行うなど、医療現場の負担軽減に資する医工学応用の研究を継続して行っています。
偏光計測を応用し、流体の内部に働く剪断応力などの力学的分布を直接可視化する光弾性流体計測手法を構築しました。この技術は、流体に働く力を速度場介さずに計測することができます。
この技術を用いて、流路中や気泡周りの応力場の可視化を行い、その物理メカニズムの解明に取り組んでいます。また、計測の基盤となるロッド形状粒子配向理論の研究についても進めています。
現在は、血流動態の微小な力学的変化の捉え込みや動脈瘤破裂の事前診断技術など、実用的な医療診断・工学応用に向けた高精度な3次元流体応力場計測の研究に取り組んでいます。
液滴が固体表面に衝突すると、表面を濡らして広がる、細かな液滴となって飛散する、跳ね返るなど、多様な現象が生じます。その挙動は、液滴の大きさや衝突速度、液体の性質、表面の状態に加え、温度や周囲の圧力によっても変化します。こうした液滴衝突の理解と制御は、インクジェット印刷や噴霧冷却などの技術を支える重要な課題です。
私たちは、高速撮影と理論解析を通じて、マイクロサイズからミリサイズまでの液滴の濡れ広がりや飛散(スプラッシュ)を研究してきました。また、水やエタノールだけでなく、血液などの複雑な性質をもつ液体も対象とし、液体の性質が衝突後の挙動に及ぼす影響を調べています。
特に、液滴の大きさと衝突速度を広範囲に変えた実験から、条件によっては、衝突速度を高めるとかえって飛散が抑えられることを示しました。この一見直感に反する現象を、衝突時に形成される薄い液膜と周囲の気体との相互作用から説明し、マイクロサイズの液滴に特徴的なスケール効果を明らかにしてきました。
大きさと衝突速度の異なる液滴の衝突過程。飛散する液滴と、より高速で衝突しても飛散せずに濡れ広がる微小液滴の様子(Usawa et al., Physical Review Fluids, 2021)
さらに、高温・減圧環境における液滴衝突へと研究を展開してきました。ミリサイズの液滴を用いた研究では、加熱面に衝突した液滴が大きく変形しながら跳ね上がる「マジックカーペットブレイクアップ」を見いだし、蒸気生成に伴う気泡の成長から、その挙動を説明するモデルを提案しました。
その後、液滴と壁面の接触状態の可視化と高速温度計測を組み合わせ、気泡の成長や濡れ領域の変化と、壁面温度の変化との関係を調べてきました。気泡の成長に伴って壁面に残される微小液滴を捉え、その蒸発が壁面の冷却に寄与することを示すなど、衝突時の変形と熱・相変化を結びつけた理解を進めています。
高温・減圧下で生じる液滴の変形と反発(Hatakenaka et al., 2019)
現在は、これらの知見を基盤として、衝突時の慣性の影響が大きい高速マイクロ液滴を対象に、蒸発などの相変化が濡れ広がりや飛散、壁面との接触状態に及ぼす影響を研究しています。液滴と壁面の間に存在する気体や、加熱によって生じる蒸気の役割に着目し、慣性と熱・相変化が作用し合う衝突現象の解明に取り組んでいます。液滴の大きさや速度、表面性状、液体の性質、温度条件を結びつけて理解することで、液滴衝突の予測と制御につながる指針の確立を目指しています。
移動面上で液滴が直接接触せずに浮遊し続ける現象を発見し、液滴と壁面の間に生じる薄い空気膜(ナノ〜マイクロスケール)の3次元形状計測を行ってきました。現在は、浮遊状態の発生・維持条件を詳細に解明し、高精度なインクジェット印刷や薄膜塗布プロセス等への応用展開を目指して探究を続けています。
左動画:浮遊液滴に関する動画(Saitoet al., APS/DFD 2014, Gallery of Fluid Motion)
右動画:浮遊液滴に関する動画(Sawaguchi, Hama, et al., Droplets2015 Best Video Award)
複雑な流体・液滴現象に対し、説明可能AI(XAI)を融合させた解析技術を展開しています。現在は、AIによるデータ駆動型の予測にとどまらず、人間が従来見落としていた支配的な物理特徴量を抽出し、新たな流体力学的法則やメカニズムを発見するための研究を進めています。
液滴現象のように多数のパラメータ(環境・物性・基盤状態など)が複雑に絡み合う実験において、ロボットアームを活用した実験自動化システムを構築しました。現在は、ヒューマンエラーを排除しつつ膨大な試行データを取得することはもちろん、実験条件の探索も自動で行う自律型実験装置の開発を進めており、物理現象の完全な閾値特定や新現象の高速探索を行っています。