10月29日に渋谷WWWでの単独公演『さとうららなりのラストワンマンライブ「Good Enough」』が決定しているさとうららに最後のインタビューを敢行。
11年間に渡り続けてきたアイドル活動/音楽活動にピリオドを打つことを決めた背景、デイタイムは会社員として働く二足の草鞋の日々、ラップ/ヒップホップとアルバム『Good Enough』制作のこと、そして運営スタッフとの喧々諤々な関係性(?)などについて、ラスト公演を目前に控える現在の心境を交えながら語ってもらった。
(取材・文/南波一海)
10月29日(水) さとうららラストワンマンライブ「Good Enough」」
10月29日に渋谷WWWでの単独公演『さとうららなりのラストワンマンライブ「Good Enough」』が決定しているさとうららに最後のインタビューを敢行。
11年間に渡り続けてきたアイドル活動/音楽活動にピリオドを打つことを決めた背景、デイタイムは会社員として働く二足の草鞋の日々、ラップ/ヒップホップとアルバム『Good Enough』制作のこと、そして運営スタッフとの喧々諤々な関係性(?)などについて、ラスト公演を目前に控える現在の心境を交えながら語ってもらった。
(取材・文/南波一海)
――2022年3月にO'CHAWANZからいちこにこさんが辞めることになった際、ららさんも活動を辞めるかどうか少しだけ考えたけれど、自分を生きるモチベーションにしてくれているファンの人がいるし、ラップ/ヒップホップも楽しいから続けるということを言っていたんですよね。
らら:言ってましたね。
――しかし、今年の10月で引退することが決まっています。あのときから環境、あるいは心境の変化があったのでしょうか。
らら:いちこちゃんがいなくなってから、ソロで活動するようになって、グループのときにはできなかったような新しい活動がいくつかできたんですよね。それは楽しかったし、満足してます。ただちょっと……体力の限界なんです(笑)。
――体力ですか。近年の活動ペースとしてはそこまでライブ尽くしという感じではなかったですよね。
らら:いや、波があるんですよ。激しいときはほんとうに激しくて。だから「このままだと持つかな?」という感じでした。自分が身も心も弱くなっちゃってボロボロになって辞めるのだけはいやだったから、まだ頑張れるぞというときに辞めたかったんです。
――ららさんはきっちり会社勤めもされていますが、その状況の変化もあったりするでしょうか?
らら:それもあります。いちこちゃんがいた頃は、会社はテレワークもあったんですよ。そこでうまいことやりくりできていたんですけど、それがなくなってきちゃったのも大きいです。
――ライブはそこまで多くないとはいえ、配信「ららら木曜でしゅか」もほぼ毎週やってましたしね。
らら:そこで会社を辞めてこっちに専念するとか、そういう判断ができる人だったらまた違ったと思うんですけど、私自身、それは絶対にないなと思っているので。私はきっとそこまでの人じゃないというか、音楽とか、こういう活動で食べていける人ではないと自分でも思っていて。
――現実的に見ているんですね。例えば、活動を始めた頃はなにかしらの夢を抱いたりしたのでしょうか?
らら:コウテカ(校庭カメラガール。2014年結成)で活動を始めたときから、社会人になったらアイドルは辞めようと思ってました。だから、夢を持つという感じでもなかったんです。当時は会社員をしながらアイドルをやっている子がまわりにいなかったから、それがどのくらい大変なのか、そもそも可能なのかどうかもわからなくてこわかったんですけど、やってみて無理だったらすぐ辞めようと思いながら、そのまま両立の道を歩んできたというだけで。私はムラヌシさんに曲をもらったり、これをやろうと指示されないとやらないんですよね。この活動で生きていける人は自分から動く人だと思うんです。
――とはいえ、ここ数年はラップを自ら研究したりしてきたわけじゃないですか。最大限の努力をされてきたと思うんです。
らら:いいものが作りたいというのと、もっとうまくなったらもっと楽しくなるのかなとか、そういう気持ちはありますよ。
――そうか、技術を向上させることと、この活動で食べていくわけではないという考えは両立しますもんね。ただ、それをするにも体力的なリミットがきてしまったということなんですね。
らら:ここ1、2年くらい、なにかがあったらそろそろ引退しようかなとタイミングをうかがっていた感じです。初めてのソロアルバム(『THE ROOM』、2023年)を作ったあたりから意識し始めて、この前のレコード制作のクラウドファンディング(『10年間ありがとう!「さとうらら」レコード制作プロジェクト!』)がひとつのきっかけでした。
――『THE ROOM』を作ったことで達成感を得られたところがありました?
らら:それはほんとうにすごくあって。私の入り口ってまったくヒップホップじゃなかったから、そんな私がラップのソロアルバムを作れたというのは感動がありました。それと、当時はムラヌシさんと私のなかで、ゆくゆくはO'CHAWANZを復活させるというのが頭にあったんですよね。でも、それが難航してしまって、しかも、かなちゃん(なかたかな/MCかにゃんぱす)も抜けることになったんです。私は「かなちゃんとだったらおもしろいものが見れそうな気がする」と言って一度引き留めたんですけど、かなちゃんもなかちゃんで、グループに入れると思ってここに来たのに、なかなか始まらないのがかわいそうで。ずっと待ってくれていたんですけど、限界がきてしまったんですよね。
――きっかけはひとつではなく、複合的にいろいろなことが重なるなか、レコード制作のクラウドファンディングがひとつの区切りになったと。
らら:「クラファン達成できませんでした。さとうらら引退します」となるより、やっぱり達成できて辞めるほうが明るくて前向きな感じがするじゃないですか。そうなれたらいいなと願っていたら、みんなのおかげで達成できました。
――ららさんから運営サイドに辞意を伝えたときはどうだったのでしょう。
らら:たしか、何かの曲のレコーディングのあとにご飯に行ったんですよね。
ムラヌシ:おれのほうから、この活動を継続するのがなかなか難しいかもという話をしたら、ららが私もそろそろ……と言い出すという感じでした。
らら:そうそう。同じタイミングでした。
ムラヌシ:個人的に今回のアルバムが最後になるかなというのはあったし、ららとしてもきっと限界点までいったというか、すごくいいものができたんじゃないかなというのがあったんですよね。それで、クラファンのストレッチゴールも達成して、ららなりのワンマンライブを開催することが決まったので、それをラストワンマンにしようとなって。
――そう聞くと、ファンの人がクラウドファンディングで支援したことが引退を後押ししたみたいな、おかしなことになってしまいませんか?
らら:いや、達成してもしなくても私は辞めると決めていたので。もし達成しなかったら、しょんぼりな雰囲気で辞めることになったと思うので、その違いがあるかどうかです(笑)。
――クラウドファンディングを経て完成した『Good Enough』は、ここまで活動してきたことの結晶ですよね。ラップも曲も端的に見事だと思いました。
ムラヌシ:本人が泣きながら作詞してましたから。
らら:泣きましたよ。会社もあるし、ムラヌシさんと2日に1回は会わないといけないですし(笑)。レコーディングでもあまりいいのが浮かばなくて進まなかったりして。制作期間中にちょっと体調を崩してしまったりもして、これは両立の限界なのかもと思いました。私は書きたいことが湧いて出てくるタイプではないので、ムラヌシさんがテーマを絞ってくれるから作詞できているんですけど、それでも今回は大変で。
――フロウはご自身で考えているんですよね。過去の楽曲にはなかったような技法があちこちにあって、明らかに学んできたことが反映されていると思います。
ムラヌシ:知らぬ間に「ららフロウ」みたいなものができてますよね。久しぶりにいちこがライブに参加して、ららの曲をやったんですけど、ちょっと戸惑ってましたからね。「ららちゃんの曲難しいな」って。
らら:曲作り月間のときはいつも以上にヒップホップの曲を聴いて、いつかこんな感じでやってみたいかもっていうのをメモしたり、お気に入りに登録したりしてましたね。
――例えば、同じループの上でも言葉数を変えることで展開が生まれたりするわけで。なにかを聴いて、ここがいいなと思ったとしても、それを実際に落とし込んで自分の言葉で書ける人は多くないので、それはすごいことだと思います。
らら:そうなのかな。私は書くのも遅くて、『Good Enough』のときも「これだ! これしかない!」というのが浮かばないと書かないので、1時間で1行みたいな感じで全然進まないんですよ。ムラヌシさんに助けを求めて、イメージを擦り合わせたり、こういうワードがおもしろいかもと話し合ったりしながら進めていきました。ほんとうに大変だったので、そう言ってもらえるのは嬉しいです。制作中は締切がない日常ってどんなに天国なんだろうって思いながら過ごしてるんですけど、いざ完成して、みんなに褒めてもらえるとまた作ってもいいかなって思うんですよね。それで気づいたんです。そのループだって(笑)。
――制作の苦しみと喜びもループしていたと気づいた(笑)。最初のアルバム『EPISODE V』の頃から比べるとものすごく成長したと思います。いま聴き返すと、ららさんだけじゃなくてほかのメンバーもつられて声が高かったんだなとわかりますし(笑)、以降、とんでもない成長曲線を描いてきましたよね。産みの苦しみもしっかりと意味があったのだなと。
らら:ありがとうございます。O'CHAWANZの最初の頃は、コウテカみたいにできる人が作詞してくれたほうがよいものが作れるのに、なんでムラヌシさんはそうしないんだろうと思っていて。でもいまは、この形だからこんなに長く続けてこられたんだなと思います。もし歌詞を書いてなかったら、いつでも辞めれたと思うし、ヒップホップもここまで好きになってなかったと思います。
つづく…