強相関電子系におけるトポロジカル量子現象
当研究室では、電子同士が強く影響し合う「強相関電子系」における新奇な量子相の解明を目指して研究を行っています。特に、物質の幾何学的な性質を扱う「トポロジー」と電子相関が結びついた「強相関トポロジカル系」は、分数化準粒子励起やトポロジカル秩序といった、現代物性物理学の最前線となる量子現象の宝庫です。
私たちは、極低温環境下における「精密計測」と試料合成による「物質設計」を両輪として、これら新奇な量子相の学理構築と機能開拓を目指して研究を行っています。
非従来型超伝導
超伝導は自然界で最も劇的な相転移現象の一つです。従来のBCS理論の枠組みを超えた「非従来型超伝導」が見つかって以来、その発現機構の解明が物性物理学の中心的課題となっています。当研究室では、例えば以下のようなエキゾチックな超伝導状態の研究に取り組んでいます。
スピン三重項超伝導
超伝導状態では二つの電子がペアを組むことが知られていますが、通常はこれらの電子のスピンは互いに反対方向を向いたスピン一重項状態を取ります。一方、スピン三重項状態で電子対を組む超伝導はスピン三重項超伝導と呼ばれ、トポロジカル超伝導の有力な舞台であると期待されています。 当研究室では、ウラン系超伝導体などのスピン三重項超伝導体の候補物質を対称に、極低温・磁場下の精密測定を通して超伝導対称性の解明やトポロジカル準粒子励起の検出を行い、超伝導発現機構の解明を目指します[1]。
[1] S. Suetsugu et al., Sci. Adv. 10, eadk3772 (2024).
カイラル超伝導
時間反転対称性が自発的に破れた超伝導状態であるカイラル超伝導状態では、トポロジカルに非自明なエッジ状態や渦糸状態の実現が期待されています。当研究室では、極低温や高磁場などの極限環境下の実験を行うことで、カイラル超伝導の実験的検証を行います。
スピン三重項のクーパー対。有限のスピン角運動量を持つためスピン自由度を持つ超伝導状態を実現する。
量子スピン液体
ハイゼンベルグの不確定原理に由来する強い量子ゆらぎのために絶対零度においても局在スピンが秩序化・凍結しない量子スピン液体では、スピンが長距離に渡って量子エンタングルメントした全く新しい量子力学的なスピン状態が現れます。このような量子スピン液体状態は誤り耐性を持つ量子計算への応用が期待されており、ここ最近で大きな研究分野に発展しました。当研究室では、例えば以下のような新奇なスピン状態の研究に取り組んでいます。
量子スピン液体状態におけるエキゾチック準粒子励起
量子スピン液体状態では、本来の電子スピンが持つ自由度とは全く異なる自由度で記述されるスピノンやマヨラナ粒子などといった、スピンが分数化したエキゾチック準粒子が現れるため大きな注目を集めています。当研究室では、超精密な熱ホール効果測定や極低温下における磁気・熱測定を通して、分数化準粒子励起の探索やトポロジーの解明に行います[1, 2]。
[1] K. Imamura, S. Suetsugu, et al., Sci. Adv. 10, eadk3539 (2024).
[2] S. Suetsugu, et al., arXiv:2407.16208 (2024).
解説記事 末次祥大, 笠原裕一, 松田祐司, 「キタエフ量子スピン液体の熱輸送現象 」
固体物理 57 (11), 615-631 (2022).
量子スピン液体相近傍で創発する新奇磁気量子相
量子スピン液体状態の近傍において、量子磁化プラトー相やスピンネマティック相などの特異なスピン状態の実現が期待されています。例えば、スピン同士の相互作用に競合が存在する幾何学的フラストレーションの効果が顕著となるカゴメ格子上の反強磁性体では、量子力学的な起源を持った量子磁化プラトー状態が現れます。当研究室では、このような量子スピン液体相の近傍で実現する新奇量子相の探索およびその物性解明に取り組んでいます[1]。
[1] S. Suetsugu, et al., Phys. Rev. Lett. 132, 226701 (2024).
量子スピン液体状態。スピンが絶対零度でも揺らぎ続けている。
磁場中のカゴメ反強磁性体で創発するマグノン結晶状態。六角形(赤色)の中に局在したマグノン(青色)が周期的に配列している。
強相関電子系における新奇量子秩序相
強相関電子系では電子同士が強く相互作用するために電子が集団として量子状態(量子多体状態)を形成します。上述の超伝導や量子スピン液体などはその代表例ですが、その他にも様々な対称性を自発的に破った量子秩序相の実現が期待されています。当研究室では、例えば以下のような新奇量子秩序相の解明に取り組んでいます。
カゴメ金属における虚数電荷密度波状態
幾何学的フラストレーションを有する強相関電子系では、電荷・スピン秩序が抑制されるために非自明な量子秩序相が現れます。例えば、二次元カゴメ格子を持つ強相関金属では、電子の飛び移り積分の虚数成分が変調した、虚数電荷密度波状態を実現することが期待されています[1]。この虚数電荷密度波状態は、結晶格子内においてナノスケールのループ状電流が非散逸に流れるループ電流秩序相に対応し、非自明なベリー曲率に由来したトポロジカル電子応答が現れることも期待されています。当研究室では、このようなカゴメ金属で現れる新奇量子秩序相[1]の解明に取り組んでいます。
[1] T. Asaba, et al., Nat. Phys. 20, 40-46 (2024).
カゴメ格子のループ電流秩序相。ここでは3方向に電流が流れるtriple-q 状態を示している。