博士課程のおもいで

(本記事は、コラム集企画『日本の博士課程〜若手シンポジウム’21 カウントダウンカレンダー〜』の2月8日の寄稿文です。)


本記事は真にポエムな内容ですのでご注意ください(他の皆さんのコラムで様々なノウハウを共有して頂けたので1人くらいこういう内容があっても許されるかなと思い、ついやってしまいました)


何者?


松井孝太と申します。現在は名古屋大学大学院医学系研究科の生物統計学分野で講師をしております。


はじめに、統計・機械学習若手シンポジウム共同開催責任者として企画セッションのオーガナイザーを務めていただいた東京大学の手嶋毅志氏に深くお礼申し上げます。手嶋氏の尽力無しでは企画セッション及び本連動企画は成立しませんでした。


さて、私は2011年4月に名古屋大学大学院情報科学研究科計算機数理科学専攻の博士後期課程(2017年に改組。現在は情報学研究科数理情報学専攻)に入学しました。修士までは人文系の学部・研究科に所属していたため、博士課程から研究室を移った形になります。力不足で3年間では学位取得要件を満たすことができず、2014年3月で同専攻を単位取得退学し、仕事をしながら学位取得を目指す方針に切り替えました(最終的には2017年3月に博士(情報科学)の学位を取得しました)。

そこから名古屋工業大学、名古屋大学、理研での勤務を経て現在に至ります。


なぜD進したのか?


特に高尚な理由やキャリアアップの考えがあったわけではなく、ノリ・テンション・勢いで進学を決めました。後付ですが、自分の能力とその限界について何か「納得感」のようなものが欲しかったのかもしれません。少なくとも当時の自分の中では博士課程にチャレンジしなければ一生後悔するだろう、そして一度就職してしまえば二度とチャレンジするタイミングは来ないだろう、という謎の確信がありました(それはたぶん正しかったと今も思っています)。博士課程を出た後のこともその時になってから考えれば良いと楽観していましたが、当時D進について相談をした数学科の先輩から「一生フリーターでいる覚悟があるならD進してもいいと思う」と言われたことは今でも強烈に記憶に残っています。


進学先の選定


上で書いた通り私は人文系の研究科に所属していたため、周りに相談できる人もおらず、博士課程進学にあたって参考にした情報はほぼ全てネットで入手できるもののみでした。私の修士課程での研究テーマが「不確実性の下での数理計画法」だったため、これをキーワードとしている研究室を片っ端から検索してリストアップし、県外も含めて何箇所か研究室訪問をしました。最終的に名古屋大学を進学先に決定しましたが、決め手となったのは実家から通学可能なこと(当時の博士課程学生のお金事情は今とは比ぶべくもないものでした)と、複数回の研究室訪問を経て「なんとかやっていけるかも」感が得られたことです。

博士課程での生活 1


在学中はひたすら「勉強」しました。研究テーマとしては修士課程で取り組んでいた「不確実性の下での数理計画法」を継続することにしたのですが、実態としてはとにかくがむしゃらに本を読み、論文を読み、計算をしてそれをゼミや個別セミナーで説明する生活だったと記憶しています。そうしているうちに論文が書けるくらいの結果が出るだろうと楽観していたのですが、これは大いなる間違いでした。よく「勉強と研究は違う」と言われますが、これはその通りで、特に大きな(かつ致命的な)違いは勉強は出口がなくてもできてしまうことだと思っています。いつのまにか最初に設定したと思っていた出口は霧散し、問題意識のない一般化を追求するような勉強に走りがちになっていました。今では様々な媒体で研究の仕方を学べるようになっており、それは大変素晴らしいことですが、個人的には進学する前に読みたかった...


結局、D2の冬に修士課程から継続していたテーマを完全に放棄し、全く新しいテーマ(機械学習)に取り組むことを決断しました。ただ、今振り返ると、このときにテーマを変えたのは英断だったと思えます。学位取得に時間はかかってしまったものの、結果的にこれがきっかけでしっかりと機械学習に取り組むことになり、そのおかげで今なんとか生き残れているからです。


博士課程での生活 2


私の博士課程における特筆すべき点として、長い付き合いになる友人K氏との出会いがあります。

K氏はD2の4月に他大学から異動されてきたところを共通の知人を通して知り合いました。機械学習に興味を持っているということで研究室のゼミや勉強会に招待し、以降実に多くの時間を氏と議論して過ごしました。氏とは何本か共著で論文も書きましたし(その一つは学位論文の主要パートになりました) 、今も共同研究を進めています。このような目に見えるアウトプットが出せたことももちろん喜ばしいことですが、私にとってはお互いの都合が合えば何時間でも議論できることが何よりも重要であり、そのような存在と博士課程在学中に出会えたことは大変な僥倖だったと思っています。



これから博士課程へ進む方へ


昨今、博士課程に関する様々な情報に気軽にアクセスできるようになり、その辛さや厳しさがクローズアップされがちではありますが、これから博士課程へ進む方々にはぜひ博士課程ひいては研究生活を楽しんでいただきたいと思っています。例えば私は在学中は参加できる学会や研究集会にはほとんど全て参加しました。人と話すこと、誰かと議論することは研究の一つの醍醐味(すなわち協力プレイとしての楽しみ)であり、そうした活動の中で形成されたネットワークは今も生きていて自分の研究生活にポジティブな影響を与えてくれています。実は統計・機械学習若手シンポジウムはそのための一つの場を提供することを目的に開催している側面もあるので、大いに利用して頂きたいと思っているのです。


そういうこともあって若手の方には学会行きましょう!と言い続けていたのですが、コロナ禍で学会の有り様が大きく変わってしまいました。

若手シンポも昨年から2年続けて完全オンラインとなり、どうすれば従来のような学会体験を再現できるかまだ答えが見えません。しかし、できるだけ多くの若手研究者の「踏み台」にしてもらえるよう今後も継続して開催していく所存です。