学術論文

Phase transition and melting in zircon by nanosecond shock loading

(ナノ秒衝撃圧縮下でのジルコンの結晶構造相転移と溶融挙動)

ジルコンは少量のウランを含み、ウランが放射壊変して鉛になることで数億年から数十億年前の時間を知る「時計」として利用できる重要な鉱物です。天然のジルコンには過去の隕石衝突の痕跡が残されている場合があり、その痕跡がどういった衝撃で残されるのかを知る事で、ジルコンから過去の隕石衝突の規模や年代を推定することができます。

本研究では、ジルコンの衝撃変成挙動を理解するため、強いレーザー光をジルコンに照射して5ナノ秒(1ナノ秒は1億分の1秒)という一瞬の衝撃を与え、その衝撃波がジルコンを超音速で通過する瞬間の結晶構造変化をX線を用いて観察しました。実験はX線自由電子レーザー施設SACLAで行ないました。

その結果、衝撃によってジルコンの結晶構造が一瞬で高圧相のレーダイトの構造に変化することが分かりました。また、今回用いた超短時間の衝撃では、従来の衝撃実験や高温高圧実験とは異なり、比較的大きな原子移動が必要である酸化物への分解が起こらないことが分かりました。

Visualization of transformation toughening of zirconia ceramics during dynamic fracture

(ジルコニアセラミックスの動的破壊過程での変態強化機構の直接観察)

ジルコニアセラミックス(ZrO2)は高い強度と粘り強さ(靭性)を併せ持つ材料として知られていて、歯科材料や医療器具、宝飾品や刃物などの日用品まで幅広く使われています。ジルコニアセラミックスの壊れにくい理由は、外から力が加わった時に起きる結晶構造の変化にあると考えられています。

しかし、これまでの研究では、ジルコニアセラミックスが壊れていくときの結晶構造を直接観察することはできず、破壊の前後の状態の比較から、壊れるときにどのような変化が起きるのかを推測していました。特に、衝撃のような瞬間的に大きな力が加わってジルコニアセラミックスが壊れる際に、どのような時間スケールで結晶構造変化が起きているのかは明らかになっていませんでした。

この研究では、強いレーザー光をジルコニアセラミックスに照射して衝撃を与え、破壊が進展していく際の結晶構造の変化をリアルタイムでX線観察することに初めて成功しました。実験は高エネルギー加速器研究機構のPF-ARで行ないました。その結果、結晶構造の変化が破壊の瞬間に起きることを実証し、ジルコニアセラミックスが高い破壊強度を示す理由を明らかにしました。この研究はApplied Physics Letters誌のfeatured articleに選ばれ、Scilightsに紹介記事を掲載してもらいました。(プレスリリース)(Scilights記事PDF)(EurekAlert)(AlphaGalileo

In situ observation of the phase transition behavior of shocked baddeleyite

(バッデレイアイトの衝撃による結晶構造相転移のその場観察)

放射光実験施設PF-ARのNW14Aビームラインに整備した衝撃実験システムを使って、バッデレイアイトという鉱物が衝撃を受けた際に起こす結晶構造相転移を観察しました。

バッデレイアイトは化学組成ZrO2の鉱物で隕石中や地球表層に存在します。隕石衝突を受けると鉱物のもつ組織が変わることが天然の鉱物の観察から分かっていましたが(White et al. 2018)、どういう理由で変化するのかは未解明でした。その変化の条件を明らかにすると、過去におきた隕石衝突の規模を推定できるようになるだけでなく、バッデレイアイトの特性から衝突の年代まで推定することができます。

この研究では衝撃実験を高エネルギー加速器研究機構のPF-ARで行ないました。その結果、衝撃を受けるとすぐに結晶構造が少しだけ変わって高圧相になり、衝撃が解放されるとすぐにもとの結晶構造に戻ることが明らかになりました。この結晶構造の可逆的な変化が天然の衝撃を受けた鉱物が示す組織の由来になっている可能性が考えられます。また、その圧力境界も決定することが出来ました。(プレスリリース

Development of shock-dynamics study with synchrotron-based time-resolved X-ray diffraction using an Nd:glass laser system

(高強度Nd:ガラスレーザーと放射光時間分解X線回折測定を用いた衝撃ダイナミクス実験システムの構築)

つくばにある高エネルギー加速器研究機構の放射光実験施設PF-ARでは、放射光という強いX線を使った実験がされています。時間的に非常に短い(~100ピコ秒)パルスのX線が使える特徴があり、電子や原子が動いていく過程を時間分解観察する実験が行われています (例えば、Nozawa et al. 2007Ichiyanagi et al. 2007, Ichikawa et al. 2011)。

この論文ではPF-ARにレーザー照射によって衝撃波が発生するような高強度なレーザーをNW14Aビームラインに整備して、物質が衝撃を受けている際に原子がどのように変化していくのかを放射光X線でとらえるための実験システムを構築しました。これにより、隕石衝突のような数10 GPaという高い衝撃圧力をレーザーによって再現し、その瞬間の結晶構造をX線回折法によって観察することができるようになり、レーザーとX線の照射タイミングを変えることでナノ秒という細かな時間分解能でダイナミクスを調べることができるようになりました。

X-ray diffraction study of the icosahedral AlCuFe quasicrystal at megabar pressures

(正二十面体AlCuFe準結晶の高圧力下でのX線回折実験)

2009年に準結晶鉱物アイコサヘドライトが隕石試料中から発見されました(Bindi et al. 2009)。準結晶とは一般的な結晶とは異なる原子配列を持つ固体で、地球を構成している石には見られない特殊なものです。そんな鉱物がどういった特性をもち、自然界でどうやって形成して、どんな過程を経て地球に落ちてきたのか?隕石がぶつかった時に経験するような温度・圧力状態にしたら原子配列は変わるのか?

そこで、この研究では実験室で合成した準結晶鉱物をダイヤモンドアンビルセルという装置とレーザーを使って高温高圧状態にし、その時の原子配列をX線を使って調べました。実験は播磨のSPring-8で行ないました。

結果、70 GPa(ギガパスカル)というかなり高圧まで構造を保つことが分かりました。それ以上の圧力では、構造が少しだけ変わるとその時の実験データから論文内で結論付けましたが、その後の実験から100 GPaまで準結晶構造を保つことが分かりました(Stagno et al. 2021)。