集積デバイスの不具合の原因の一つにソフトエラーと呼ばれる現象があります。ソフトエラーとは集積デバイスが放射線に曝された際に生じる一過性の誤動作や故障のことであり、機器中の半導体デバイス内に保持されているデータが放射線により誘起された過渡電流により書き換わることで発生します。地上には宇宙線が大気と反応することで生成された二次宇宙線(中性子、ミューオンなど)が降り注いでおり、近年の集積デバイスでは中性子がソフトエラーの主要因を占めると言われています。
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社会インフラとなっているデータセンタやスパコンでは、大規模化に伴う莫大な消費電力が問題となっており、デバイスの低電圧動作が強く求められています。爆発的に増加するIoT端末 (3年後には世界人口の3倍)も、低電圧動作を求めています。低電圧化と大規模化はソフトエラーを増加させる二重の要因にも関わらず、要求される信頼性は高まる一方です。更に自動運転や介護ロボットなど誤動作が人命に直結するアプリケーションも実用化目前です。実際、2008年にはソフトエラーによる航空機の突然急降下により100名以上の乗客が怪我をした事故も報告されています。二次宇宙線への耐性を高めた集積システムの開発は社会の強い要請であり、社会的に大きな注目を受けています。
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耐性を高めたデバイスの研究開発にはまず、ソフトエラー耐性を正確に評価する技術が不可欠です。本目的を達成するため、産業界と学界が連携して、集積デバイスの二次宇宙線起因ソフトエラー評価技術を確立と世界標準化に取り組んでいます。ソフトエラーは、単一のデバイスに対して単位時間あたりに発生する個数は極めて少ないです。そのため、加速器で発生させた量子ビームを照射し、短期間での評価を可能とする加速試験が不可欠となっています。一方で、地上に降り注ぐ中性子が再現できる加速器は世界に4台しかなく、デバイス評価需要に対応できていません。我々は地上の中性子を再現していない加速器を用いてもソフトエラー耐性が評価できる技術を確立しようとしています。さまざまな加速器による中性子源を用いて地上ソフトエラーレートが評価できる評価・校正技術の研究を進めています。中性子に加えて、ミューオンによって引き起こされるソフトエラーの評価技術の確立も目指しています。これにより二次宇宙線起因のソフトエラーレートを総合的に評価可能な技術が確立できます。信頼性向上に必要な評価フレームワーク開発し、宇宙線対策技術の学術的基盤の提供を目指します。