健康長寿社会を支えるスマートヘルスケアシステムは、SDGs 目標3「すべての人に健康と福祉を」を実現するために必要不可欠です。本部門ではこのような社会の実現を支えるスマートヘルスケアシステムの実現を目指し、①広範にわたる生体情報のセンシング、②ハードウェアのブラッシュアップ、③デバイスに対するエネルギー・情報伝送、④安定的でキュアな情報通信のそれぞれの要素技術研究と、トータルシステムを想定した分野横断的な連携研究を行います。
すべての人に健康と福祉が保証される社会の姿は、人々が日常の健康を獲得できることと、疾病によって生体機能の低下または喪失が生じた場合でも当たり前のように QOL (quality of life) の高い社会生活を営むことができるものであると本部門では考えます。目指す研究課題の一例に、生体情報および体内埋込み型医療機器の、遠隔での監視と機器制御が挙げられます(下図)。その遠隔監視・制御によって、医療機器を装着した患者に安全安心な生活が提供されます。こうしたハードウェアに対しては、高効率なエネルギー伝送や、集積回路の小型化・低消費電力化が必要です。また、遠隔医療に不可欠な通信・制御には双方向でセキュアな無線通信システムの活用が想定されます。
特に本部門では以下の研究に取り組みます。
日常の健康を診断するための、熱や代謝など広範な生体情報のセンシングシステム
特定の臓器の機能に障害が生じた場合にこれを代替する人工臓器とその非接触エネルギー供給
情報伝送・すべての人の健康長寿を支える、遠隔医療のためのセキュアで強固な無線通信システム
本部門では分野の垣根を越えた研究の推進を目指し、本学総合研究機構(当時。現・総合研究院)バイオシステム研究所やインテリジェントシステム研究部門以来、先進医療デバイスや無線通信に取り組んでいる研究者に加え、新たに熱・代謝などの生体情報センシングを専門とする生理学や材料工学、代謝学の研究者の参画を得て研究活動を開始しました。さらに、工学・理学系研究者は遠隔医療を含むスマートヘルスケアシステムの実現のために、デバイス動作のための電力伝送、小型化・低消費電力化のための集積回路・信号処理、高品質でセキュアな無線通信に向けた研究を担います。
研究目標 Aims
①広範にわたる生体情報のセンシング
運動は健康長寿に対し万能薬的な効果を有します。運動による健康増進・長寿のメカニズムを明らかにするための研究を行います。
非侵襲に測定することができる生体情報の一つであるヒトの熱を測定することにより、疾病の診断に資する代謝の算出を目指します。
ECG (electrocardiogram) やPPG (photoplethysmography)、EDA (electro dermal activity)、末梢体温、呼吸などの種々の非侵襲に取得可能な生体情報の測定をもとに、一般には測ることが困難な「心の健康」の見える化を目指すとともに、ヒトの行動変容を促す施策の提案に資する研究を行います。
②ハードウェアのブラッシュアップ
各システムの多機能化は、大型化や消費電力増大を招きます。高周波アナログ回路の小型化・低消費電力化は不可欠な検討課題であり、低雑音増幅器やミキサなどを含むGHz帯の高周波フロントエンドの小型化・低消費電力化に向けた研究を行います。
センサシステムからの情報を信号処理するにあたり、アナログ信号をデジタル信号に変換する変換回路ADCやディジタル信号からアナログ信号へ変換する変換回路DACの高分解能化や低電力化を目指します。
集積回路を低価格で供給するために避けられない歩留まりの向上を目的とした、ばらつき解析やばらつきに強い回路についての研究を進めます。
③デバイスに対するエネルギー・情報伝送
埋込み型人工心臓や小動物用埋込み型運動量計などの体内埋込み型デバイスに対し、経皮的にエネルギー伝送や制御を可能するために、体内外間での情報伝送を行うシステムの構築を目指します。
経皮エネルギー伝送により発生する高周波磁界による生体影響を、センシンググループと共に検討します。
④安定的でセキュアな情報通信
情報通信環境の通信機器に関するハードウェア的側面に関し、高信頼度化のための高機能誤り制御や強力通信機能を設けた無線通信方式を目指します。
情報通信・交換をインターネットを介して行うソフトウェア的側面に関し、複数研究拠点を接続するサイト間VPNを構築することで、仮想専用回線による「本部門独自の仮想通信環境」を構築します。
各グループは個別の検討に加え、各々の研究結果の知見を相互に活用することによるシナジー効果を追求するために、グループ間での検討会や発表会を定期的に行い目的の達成を目指します。