大地震が繰り返し発生する断層の滑り速度は数 nm/s(地震間)から数 m/s(地震時)まで約 10 桁変化するため、地震サイクル中の各ステージでは、支配的となる物理化学過程が変化すると考えられます。複雑な断層滑り挙動の理解を深めるため、力学的・熱的・水理学的・化学的要素のいずれかもしくは複数を考慮したモデル計算を行っています。
Kaneki & Noda (2025): 速度状態依存摩擦の状態発展則として aging law・Nagata law・modified slip law を採用した場合の二次元線形無限弾性体中の線断層の地震前クリープ挙動について、動的地震サイクルシミュレーションを用いて調べました。地震前クリープの加速・局所化・移動の特徴は、状態発展則によって変化する他、発展則が slip law に近い場合にしばしば発生するスイッチバックスロー破壊によっても多様化することを報告しました。
Kaneki & Noda (2023): 沈み込み帯における地震観測では、スロー地震の発生と局所的に高い間隙流体圧の関係がしばしば議論されます。本研究では主に浅部スロー地震に焦点を当て、水理学的モデル計算を行うことで、局所的な透水係数の減少が流体圧の局所的な上昇を引き起こすことを明らかにしました。シリカの析出による石英脈の形成など、透水係数を局所的に低下させる機構がスロー地震の発生に寄与している可能性を示唆するものです。
Kaneki (2021): 断層帯での温度測定による滑りパラメータ推定について、理論的に調べました。滑り時間と断層帯の厚みがそれぞれ地震後に経過した時間と拡散長に比べて十分小さい場合、滑り弱化摩擦を考慮した厚みのある断層帯での熱伝導は、均質な無限媒質中に平面熱源が貫入した時の解析解(ソース解)で近似できることを示しました。将来のものも含めた断層の科学掘削ではこれらの条件が満たされると考えられるため、ソース解を用いて滑りパラメータを求めることは妥当と言えます。
断層滑りに伴う摩擦仕事は、鉱物の脱揮発・溶融反応、粒子の細粒化・摩耗・力学的非晶質化などで消費されます。断層滑りを模した室内岩石実験を行うことで、断層滑りに伴う岩石の物性変化およびそれが滑り挙動に及ぼす影響を調べています。
Kaneki et al. (2020): 摩擦実験後の模擬断層ガウジの XRD 分析から、ガウジ中での力学的非晶質化の進行と摩擦仕事との関係を定量的に評価しました。生成した非晶質物質の量は、ガウジの鉱物種・摩擦仕事に依存する一方、滑り速度には依存しないことが示されました。得られた結果から、天然の断層ガウジにおける力学的非晶質化と断層運動との関係を議論しました。
Kaneki & Hirono (2019): 炭質物を用いた摩擦実験および実験後試料の結晶学的分析から、初期熟成度の低い炭質物は断層滑りによって熟成が進行する一方、初期熟成度の高い炭質物は熟成度が減少することを明らかにしました。このような熟成度の変化は、炭質物に富む断層の摩擦強度や破壊伝播過程に影響を与える可能性があります。
堆積物やそれら起源の岩石中に存在する炭質物は、被熱履歴に応じてその熟成度を変化させます。熟成度の評価指標として、ビトリナイト反射率やラマンパラメータなどがあり、これらに基づいた地質温度計は、その普遍性や簡便性から広く用いられています。私は、特にデータ解析手法の確立に重点を置き、地質温度計の開発に取り組んでいます。
Kaneki & Kouketsu (2022), Kaneki et al. (2024): Kouketsu et al. (2014) 及び Aoya et al. (2010) が提案した、炭質物ラマンスペクトルに基づく岩石の最高被熱温度の推定手法に着目し、データの自動解析コードを開発しました。このコードを用いることで、解析バイアスを軽減しつつ、より簡便に炭質物ラマン温度計を使用することが可能となりました。
Kaneki & Noda (2020): ビトリナイト反射率から被熱履歴を推定する際によく用いられる EASY%Ro モデルについて、既存の近似式の近似誤差が最大で 34 °C に達することを報告しました。EASY%Ro モデルから直接温度を計算するコードを開発するとともに、近似誤差が 3 °C 以内の新たな近似式を報告しました。
地圏産業の初期投資の大部分は岩盤掘削によって占められるため、掘削工程の短縮は産業促進につながります。掘進速度モデルは、ビットの掘進速度を予測するモデルであり、その正確性・単純性は掘削工程を最適化する上で重要です。掘進速度モデルの高度化を通じた効率的な掘削操業への貢献を目指し、室内岩石実験を行っています。
Kaneki & Miyazaki (2026): PDC ビットの掘進速度が荷重の二乗に比例する宮崎モデルの適用可能性を検証するため、多様な条件下で室内掘削試験を実施しました。その結果、摩耗度が低いビットを除いて、岩石強度・ビット径・回転速度によらず二乗則が成り立つことがわかりました。また、室内試験と掘削現場での無次元化荷重が同等である場合、ビット摩耗度によらず、宮崎モデルの掘進速度の予測値は観測値と概ね整合的となることがわかりました。
地震時に解放される弾性歪エネルギーは、地震波による放射と断層での散逸へと姿を変え、後者の大部分は摩擦熱として消費されます。岩石中に存在する炭質物は被熱履歴に応じてその特徴を変化させることから、炭質物の熟成度を摩擦熱の指標として確立するため、地震時の断層滑りを模した室内岩石実験を行っています。
Kaneki et al. (2018), Kaneki & Hirono (2018): 炭質物の熱熟成反応における地震時の剪断および昇温速度の効果を、粉砕・加熱実験および有機地球化学的分析から評価しました。炭質物の熟成度をより確かな温度指標として用いるためには、これら双方の影響を考慮する必要があることを指摘しました。
Kaneki et al. (2016): 四国四万十帯久礼メランジュに発達する高角逆断層中の炭質物の加熱実験および有機地球化学的分析を実施しました。その結果、断層帯の経験温度は 500–600 ℃ であると推定され、これは先行研究の報告値と矛盾しない結果であったことから、炭質物を用いた断層の熱履歴評価の有効性を支持する結果となりました。
Kaneki & Hirono (2016): 炭質物を含む断層を模擬した試料の室内実験から、炭質物の粉砕・熱分解によって断層岩が黒色化するモデルを提案しました。地震性滑りによる高温履歴の有無を簡便に認定する目安として、野外調査時の断層の明度を用いることができる可能性を提案しました。
1. 断層滑りに関するモデル計算
Hirono et al. (2019): 低速での摩擦強度が弱い鉱物の実験データを入力値として、一回のイベントの動的破壊をモデル計算しました。弱い鉱物に富む断層では蓄積できる歪エネルギーは小さくなりますが、同時に破壊エネルギーも小さくなるため、破壊域および滑り量は大きくなりうることを指摘しました。一方、2011 年東北沖地震時の浅部での大滑りはこれらの鉱物の存在だけでは説明できず、地震時の間隙流体圧の上昇を考慮する必要がある可能性が示唆されました。
2. 断層滑りを模擬した室内実験
Miyamoto et al. (2022): ICDP DSeis 計画の一環として、南アフリカ共和国 Moab Khotsong 鉱山で 2014 年に発生した M5.5 Orkney 地震の余震域から回収された掘削コア試料の分析結果を報告しました。断層岩及び周辺の貫入岩は熱水変質を受けたランプロファイアであり、磁鉄鉱由来の高い帯磁率及び滑石由来の低い摩擦係数と速度強化の摩擦特性を示すことが分かりました。
Mngadi et al. (2021): ICDP DSeis計画の一環として、南アフリカ共和国 Cooke 4 鉱山から回収された掘削コア試料を用いて、回転剪断摩擦実験を実施しました。粉末状の模擬ガウジを岩石の間に挟んだ場合、インタクトな岩石同士を擦り合わせる場合に比べて、実験時の剪断強度が有意に減少する滑り速度が 1-2 桁ほど大きいことが確認されました。
Hirono et al. (2020): 台湾チェルンプ断層の粉末試料を用いた加熱実験および SEM 観察結果から、地震性滑りに伴う断層岩中の焼結反応の速度論パラメータを推定しました。焼結反応は主に地震後の断層の余熱で進行し、焼結反応それ自体による断層強度回復と、供給されたエネルギーによる他の回復過程の促進によって、地震直後の断層強度の回復過程に影響を及ぼしうることが示唆されました。
Hirono et al. (2016): 地震時の粉砕過程によって生じたと思われる天然の活断層中の非晶質微粒子について、地震間の間隙流体への溶解反応を反応速度論から評価しました。どちらの断層においても、非晶質化した微粒子は約 1000 年ほど溶け残る可能性があることから、発見された非晶質微粒子は過去の地震イベント時に生成された可能性があることを指摘しました。
3. 炭質物地質温度計の開発
Nakamura et al. (2026): 可視光波長のレーザーを用いた従来の炭質物ラマン温度計は、自家蛍光の影響によって低温(100 °C 以下)への適用が困難です。そこで、蛍光の影響を受けづらい深紫外波長のレーザーを用いて、新たな炭質物ラマン温度計を開発しました。この温度計では、薄片ではなく岩石片の分析で得られたデータを自動ピークフィッティングすることで、83-555 °C の範囲で最高被熱温度を自動推定することができます。
5. 断層岩中の摩擦熱の痕跡
Mukoyoshi et al. (2018): 炭質物のラマン分光分析から、付加帯中に発達する局所剪断帯の過去の地震時の最高温度を推定しました。四万十帯久礼メランジュの高角逆断層は 1300 ℃ 以上、房総半島江見層群の断層は 700 ℃ の温度履歴が検出されました。どちらの推定温度も先行研究の値と調和的であることから、炭質物を用いた断層の熱履歴評価の有効性が支持されました。
その他
Cerchiari et al. (2018): 2018 年 1-2 月に掘削船「ちきゅう」で開催された国際ワークショップ "Core-Log-Seismic integration at Sea" の報告論文です。IODP NanTroSEIZE 計画におけるいくつかの掘削地点での掘削パラメータおよびコア試料の船上測定の結果をまとめて報告するとともに、過去の航海の成果である掘削パラメータやコア試料を有効に活用することの重要性を指摘しました。