マンドリルの行列の観察から得られた新たな証拠:重層社会か単層社会か?

Hongo S. (2014) Primates

要旨の日本語訳

アフリカのヒヒの仲間では、単雄ユニット(OMU、オス一頭とメス複数頭からなるハーレム)を群れの中に持っている重層社会(マントヒヒやゲラダ)や、OMUが存在しない単層社会(キイロヒヒなどのサバンナヒヒ類)といった、社会システムに多様性があることが知られる。しかし、中央アフリカの深い熱帯林では直接観察による記録が困難なため、マンドリル属(マンドリルとドリル)の社会については、いまだ明らかにされていない。

私は、マンドリルの社会の特徴と社会システムを解明するため、集団が開けた場所を横切った時に撮影したビデオ映像を用いて、集団の性年齢構成、行動、行列のパターン(通過順序など)を分析した。

その結果、行列は非常に密集しており、その非常に大きな集団(169-442頭)には、オトナオスがわずか3-6頭(全体の1.4-1.8 %)、ワカモノオスが11-32 頭(6.5-7.2 %)しか含まれていなかった。重層社会特有であるオスの「囲い込み行動」は観察されず、また、行列中の小クラスターのほとんどは重層社会のOMUには類似しておらずメスとコドモのみから構成されていた。さらに、マンドリルたちが警戒しながら通過した行列の通過順序は、最も警戒心が強いアカンボウを抱えたメスが行列の後方、成獣オスと亜成獣オスは行列の前方にそれぞれ別れて集中しており、これは単層社会の行列に類似していた。

これらの結果は、「メスの割合が高く、非常に凝集した集団」というのがマンドリル社会の共通した特徴であり、マンドリルがメスどうしのつながりが強い単層社会を持つことを示唆する。ただし、彼らの離合集散の動態(群れのサブグルーピングの頻度やメンバー構成など)については、サバンナヒヒ類の単層社会とは異なる可能性があり、今後の研究課題である。


この研究についての雑談

この研究は、2010年、2011年、2012年にそれぞれ1度ずつ、マンドリルの集団全体の行列が撮影できた時のビデオ映像を分析して書いた論文です。わたしのマンドリルに関する最初の論文であり、最初の英語論文でもあるので、なかなか思い入れがある研究です。また、結果的に山極さんから直接指導を受けて執筆した、最初で最後の論文ということにもなり、感慨深いと言えば感慨深いです。

ガボンには2009年から2013年までに計6回、のべ26ヶ月間ほど行っていたわけですが、行列の撮影に成功したのはこの3度のみでした。多くの場合、こちらが道に出た時には既に多くの個体が道渡りを終えてしまった後で、トホホと肩を落とす日々でした(それ以前に集団に計47回しか会えてないっていう・・・)。それだけにこの3つの映像は、それぞれの場景をいまでも鮮明に思い出せるほど強く記憶に刻まれています。

これらの行列を見たときから「マンドリルは重層社会じゃないな」と強く感じたわけですが、その印象を客観的に示すのはけっこう大変でした。たった3例しかデータが無いわけですから、そこから一般的なことを主張するのはかなり慎重に行わなければいけません。様々な検討項目や解析法を試行錯誤し、近縁種の古い先行研究にあたって、なんとか論文になりました。著者は私一人の論文ですが、実際には多くの方の支援やアドバイスによって出版までこぎつけることができた論文です。

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