研究のきっかけ&エピソード
研究のきっかけ
助手になって2年目に、青山安宏先生の元で、固体中での分子認識を実現すべく、水素結合に基づく多孔質結晶性分子集合体の研究を始めたいと思いました。きっかけは、Whitesides先生の論文を読んで感動したことが始まりです。数ヶ月の苦悩の思考の末、1つの考えに辿り着きました。青山研で使っているカリックス[4]レゾルシンアレーンの部分構造であるレゾルシンを水素結合部位として用い、スペーサーとして将来的に機能部位として役立ちそうなアントラセンを用い、この2つをアントラセン環の9,10-位で直に連結すると、レゾルシン環が発散的な配向に配置されているため2次元水素結合ネットワークとアントラセン環キャビティーを形成するであろうとの予測を立て、かつ、アントラセン環のペリ位(1,8-位)の水素とレゾルシン環との立体障害により2つの環が理想的には直交するため、直交因子に基づく立体障害によりその多孔性2次元水素結合ネットワークは相互貫入しないとの予測を立て、水素結合性直交型芳香族3成分系(Orthogonal Aromatic Triad System)という分子設計指針を立てました。そこで生まれたのが、9,10-ビス(3,5-ジヒドロキシフェニル)アントラセン、通称ビス(レゾルシノール)アントラセンです(TL 1993, JACS 1995)。合成には、恩師の玉尾先生の熊田-玉尾クロスカップリング反応を用いました。そして、筑波の講師時代に、この直交型芳香族3成分系という概念をさらに発展させるべく、水素結合部位を放射状に配して結晶ネットワーク構造の予測を可能にし、また、3次元水素結合ネットワークへの展開を可能にする系として、ヘキサアリールベンゼン系ホストの着想に至りました(ACIE 1999)。
まだ論文にしていないデータが4〜5報あり、とても重要で面白い結果なのに論文にする機会を逃してしまいました。静大1期生の生田君、3期生の遠藤君、西村君、ごめんなさい。この2〜3年で必ず論文書きます。
エピソード1
実は最初の発案は、ビス(レゾルシノール)アントラセンではなく、5,15-ビス(レゾルシノール)-オクタエチルポルフィリンでした。このアイデアを青山先生に提案したところ、前任教授の生越先生の手前、ポルフィリンは避けたいとのこと。そこで再思考して生まれたのが、ビス(レゾルシノール)アントラセンだったのです。
エピソード2
筑波の講師時代に、分子集合体の研究に携わった修士学生はカプセル研究で登場した白坂君ただ一人です(学部卒は、三輪君と佐藤君)。白坂君は一人で、分子集合カプセルとヘキサアリールベンゼン系有機ゼオライトの両方の研究を見事に立ち上げてくれました(キーワードは分子集合性ナノ空間)。白坂君の修士論文は、5つの論文(ACIE 1, Chem. Commun. 1, JACS 1, TL 2)になり、小林研のバイブルとして静岡大の後輩たちに読み継がれ、ボロボロになっています。白坂君は、学部4年の時はテルルの化学をやっていて全くデータが出ず、修士になってから超分子化学の研究を始めました。やっとデータが出始めたのは修士1年の10月頃からです。1年半No dataでも腐らず本当にがんばってくれました。その後の1年半の研究成果は博士号に値します。研究に対する姿勢、実験の質・量ともに、最高の学生でした。教授退官の関係で白坂君は私の元では博士課程に進学できないことは分かっていたので、その後白坂君は、博士課程を私の恩師の玉尾先生のところで送り、ホウ素の有機構造化学・材料科学で博士号を取得しました。実験もそうでしたが、食べる量と飲む量も規格外でした。
(注) なお、「研究のきっかけ」と「エピソード」に出てくる登場人物は、ほとんど論文発表した内容に関与した卒業生です。これから論文にするデータはホームページで公表できないため、苦労して結果を出してくれた卒業生や現役生の名前は登場しません。ご容赦ください。