概要:
信州大学松本キャンパスでは、不定期で信州トポロジーセミナーを開催しております。
今後の予定:
2025年度のこれまでの講演(それ以前の講演に関してはこちらをご参照ください)
2025年4月30日(水)16:30--18:00
講演者: Luigi Caputi(Bologna 大学)
会場: 理学部A棟4階 数理・自然情報合同研究室(A-401)
題目: Bridging between überhomology and double homology
概要: Überhomology is a recently defined triply-graded homology theory of simplicial complexes, which yields both topological and combinatorial information. When restricted to (simple) graphs, a certain specialization of überhomology gives a categorification of the connected domination polynomial at -1; which shows that it is related to combinatorial quantities. On the topological side, überhomology detects the fundamental class of homology manifolds, showing that this invariant is a mixture of both. From a more conceptual viewpoint, we will show that a specification of überhomology of simplicial complexes can be identified with the second page of the Mayer-Vietoris spectral sequence, with respect to the anti-star covers. As a corollary, this allows us to connect überhomology to the double homology of moment angle complexes as defined by Limonchenko-Panov-Song-Stanley. This is joint work with D. Celoria and C. Collari.
2025年5月23日(金)16:30--18:00
講演者: 南範彦(大和大学)
会場: 理学部A棟4階 数理・自然情報合同研究室(A-401)
題目: 純粋にトポロジーだけの範疇で定義される代数幾何的不変量
概要: トポロジストにとって,特異コホモロジー群は学部3年の遠い昔の授業で習う基本的な道具となっている.ただ余りにも親しくなりすぎて,たかがホモトピー不変量なので,それだけでは繊細な情報は得られないだろうと,思われる方も多いかもしれない.
しかしながら,Artin-Mumdord は,3次元整特異コホモロジーのtorsion部分が非特異射影的複素多様体のクラスに制限すると双有理不変量となることを,(広中の)特異点解消定理とweak factorization という定理を用いて示し,これを用いて,Luroth問題の反例を
1970年代前半の遠い昔に構成した.これを眺めると,一般の次元の整特異コホモロジー(のtorsion部分)に対しても,それらが非特異射影的複素多様体のどのような不変量になっているのか気になってくる.
とは言うものの,特異コホモロジー群の代数幾何への応用としてトポロジストにより親しみ深いのは,1960年代前半の 雑誌 Topology の創刊号に掲載された,Atiyah-Hirzebruch による,整Hodge予想への反例であろう.Atiyah-Hirzebruch の議論での本質は,1990年代前半に Totaro によりより鮮明にされたように,複素コボルディズム群から複素向き付け理論たる整特異コホモロジーへの,所謂 Thom reduction の余核に,(Godeaux-Serre variety等の特別な場合には) 整Hodge予想不成立の情報が反映されていることであった.Atiyah-Hirzebruch の与えた反例や,その後多くの研究者によって与えられた反例の多くは,4次元複素コボルディズム群から4次元整特異コホモロジーへの Thom reduction の余核の非自明性を示すものであった.これらを眺めていると,4次元の場合,そして一般の次元の場合の,複素コボルディズム群から整特異コホモロジーへの,Thom reduction の余核が,非特異射影的複素多様体のどのような不変量になっているのか気になってくる.
本講演では,これらの極めて素朴な質問に対して,統一的な立場からの肯定的な解答を与える.実際,本講演の背景に有る技術的主定理は,Chow motive に於いて定式化される極めて代数幾何的なもので,その応用例は大雑把に言って,代数幾何的に記述される最初の2つを含む,以下の3つに分類される:
・ Voevodskyの mixed motives の圏,或いはより一般に Binda-Park-\O st\ae ver の log motives の圏,或いは Kahn-Miyazaki-Saito-Yamazaki の motives with modulus の圏で表現される,一般(コ)ホモロジー論.特に,斎藤秀司氏の定理が保証する,Kahn-Saito-Yamazaki の reciprocity sheaf のコホモロジー.
・ Beilinson予想に呼応して提案されたChow groupのfiltrationによる subquotient で定義される cycle map類似の余核と核.特に, (整)Hodge予想,(整)Tate予想を定式化する cycle mapの余核と核.
・ 最初に述べたような,整特異コホモロジー(のtorsion部分)や,複素コボルディズム群から整特異コホモロジーへのThom reduction の余核と核, 等のトポロジカルな例たち.特に後者の場合は,そのクロマティック階層化.
本講演では,これらのうち最後の,トポロジカルな応用に専念し,これらの応用を統一的に記述する技術的主定理が,双有理幾何学と双正則幾何学を補間する,高次余次元双有理不変量として記述されることも説明する.
「双有理幾何学と双正則幾何学を補間する,高次余次元双有理不変量」
という考え方は,極めて素朴では有るが,これを前面に出した研究は今まで殆ど無かったのではないかと思う.しかしながら,こうした考えた方は,トポロジストにも有益となる可能性が有る.例えば,トーリックトポロジーに於いては,双有理幾何の観点では全てのトーリック多様体は同一視されてしまい,面白くないが,双正則幾何学の立場からは豊かで手の届きそうなもので,それを(より困難な)トポロジカルな立場から理解しようとするのがトーリックトポロジーと言えるかもしれない..双有理幾何学と双正則幾何学を補間する階層的なアプローチを試みるのも,自然に思える.
2025年6月20日(金)16:30--18:00
講演者: 上野龍(北海道大学)
会場: 理学部A棟4階 数理・自然情報合同研究室(A-401)
題目: 恒等写像の統計2重調和性
概要: 統計多様体$(M,g,\nabla)$とレヴィチヴィタ接続とは限らないアファイン接続$\nabla$を付与したリーマン多様体$(M,g)$である.統計多様体上にはチェビシェフベクトル場と呼ばれる重要なベクトル場$T$が存在し,統計多様体の等積構造を表す.そして,$T=0$が成り立つとき,統計多様体は等積条件を満たすという.
リーマン計量$g$のレヴィチヴィタ接続を$\nabla^g$としたとき,統計多様体$(M,g,\nabla)$から統計多様体$(M,g,\nabla^g)$への恒等写像のテンション場は$-T$であることが分かった.リーマン幾何学では,テンション場が消えるという条件により調和写像が定義される.しかし,統計多様体の幾何学においては,テンション場のみでは写像のクラスを定義できない.代わりに,統計多様体間の統計2重調和写像がある変分原理によって誘導される.
本講演では,この恒等写像の統計2重調和性について得られた結果を紹介する.この発表は arXiv:2411.14156 に基づく.
2025年7月23日(水)16:30--18:00
講演者: 前川拓海(東京大学)
会場: 理学部A棟4階 数理・自然情報合同研究室(A-401)
題目: A six-functor formalism and the Bauer-Furuta invarint
概要: 低次元トポロジーにおけるゲージ理論では、微分幾何・関数解析・代数トポロジーの手法を組み合わせることで、多様体の微分構造に関するさまざまな不変量が構成されてきた。なかでも、BauerとFurutaにより導入された不変量は、Seiberg-Witten理論に起源を持ちながら、同変球面の安定ホモトピー群に値をとるものとして知られる。近年、このBauer-Furuta不変量の族版を用いた四次元微分同相群のホモトピー型の研究が大きな注目を集めているが、その理論的背景について、代数トポロジーの観点からの総括は、十分に行われていない。本講演では、このような安定ホモトピー的な族ゲージ理論不変量が、安定無限大圏に値を取る層のsix-functor formalismに基づいて自然に構成されることを説明する。
世話人:
松下尚弘(信州大学)