BAL クェーサー接線方向近接効果の多視線観測 (佐藤良, 信州大学)
クェーサーから放射される強力な紫外線は、クェーサーの周囲数 Mpc に存在する銀河間物質(intergalactic medium; IGM)中の中性水素を過剰に電離する現象「近接効果」を引き起こす。降着円盤を face-on 方向から見ている典型的な Type1 クェーサーの接線方向中性水素の量が、視線方向の量に比べて多いことが知られているため、近接効果には方向による偏り(異方性)があることが示唆されている(Prochaska et al. 2013)。この異方性は、ダストトーラスによって紫外線輻射が遮られることによって生じるというのが、現在、最も可能性が高いと考えられるシナリオである。実際、降着円盤を edge-on 方向から見ている BAL クェーサーでは逆の傾向がみられ、このシナリオを支持している(Misawa et al. 2022)。
投影“ペア”クェーサーを用いた先行研究では、クェーサーの接線方向を1視線でしか調査できていなかったが、本研究では離角数分以内に複数個の背景クェーサーをもつBALクェーサーを研究対象とすることで、クェーサー接線方向の近接効果の異方性を初めて直接的調査することが可能となった。その結果、近接効果の異方性を示唆する結果が得られた。本講演では、サンプルセレクションの詳細に触れるとともに、解析の進捗状況を報告する。