Works - Selected

SculpturePaintingDrawingCollaboration

大人国巡り 2016
-The Couple #5

2016
95×210×70cm
セメント、顔料、ガラス、和紙

ことば:イリエナナコ


展示会場:ART FAIR 2016/東京国際フォーラム

兼子真一「大人国巡り2016 」によせて
成城大学民俗学研究所 山野井健五


兼子真一「大人国巡り2016」は彫刻と詞書で構成された空間に観る者が身を置き、物語が想起されることによって完結する作品である。モチーフは艶本「泉湯新話」の下巻「大人国巡り」であり、画は最も多くの作品を遺した浮世絵師、二代目歌川国貞(三代目 歌川豊国)。文章は何寄実好也こと、十字亭三九。


あらすじは次のとおりである。ある日、殿様から「先祖伝来の金仏を熱海に湯治させよ」という命を受けた家来の新助。熱海で知り合った美女と温泉で睦みあっていたところ、金仏はあふれたお湯に流され下水を通じて海へと流されてしまう。二人は責任を取るべく海に身を投げてしまった。

ところ変わって隅田川。船の上で事に及んでいた大女に救われた二人は、何故か小人になっていた。新助は大女の秘部が光るのを見て殿様の金仏が体内にあると思い、秘部に入ることを決意する。五臓六腑を駆け巡り、遂に肺の奥から熱海で流した金仏を見つけだす。


昨年、永青文庫で春画展が開催されなど、春画に対する注目度は非常に高まっている。兼子は春画に対して、混ざり合う人間を「塊として描くこと」と 「繊細な手足の表現」を発見した。対極的な2つの表現によって、ポルノグラフィを越えた広い世界を捉えたのである。2015 年作の「手足和合」は、この点を掘り下げた最初の作品である。


指は人間にとって外部と常に接触し、自他の違いを実感することで関係が生まれる場所である。指には関係を表す所作が数多くある。約束をする時に互 いの小指を交わらせる、指切りげんまん。手を合わせれば祈りとなり、印を結べばそこに仏が現れる。春画において、着物や場所、髪型など描かれた人物の社会 的な関係を知る手がかりは多く描かれているが、感情的な関係を知る手がかりは思いのほか少ない。詞書がある場合ことばで補われる場合が多いが、絵の中で感 情が現れる場所は手足の動きに限られ、観る者が絵の世界に没入する仕掛けとなる。


絵師たちは、手足の表現はどこで学んだのか。おそらく歌舞伎や踊りであったと考えるのが自然である。二の腕の返し方で男女の違いを示し、手足を反 らせ、くねらせるなどの動きによって人の老若や感情を表現するなど、肉体による言語ともいうべき存在である。芝居に接することが多かった絵師にとって、役 者が舞台で行なう表現方法を画面の中で効果的に伝わるように翻案していった。つまり、手足の動きは風土で培われてきた歴史があり、兼子は歴史の中に蓄積さ れた表現を彫刻として形にし、詞書を付けて物語を仕立てた。


作品はそこで完結しない。この物語は触媒であり、彫刻を観た者の中にある経験や歴史によって別の物語が形成され、初めて作品が完結するのである。モノとしての彫刻を超えて、作家と観る者との間で結ばれる関係こそが「大人国巡り2016」という作品なのである。


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