平野 信吾

特別助教 @ 神奈川大学 工学部 応用物理学科

E-mail: shingo-hirano [AT] kanagawa-u.ac.jp 


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研究費 (KAKEN)

更新情報

計算天体物理学:コンピュータ上の宇宙が語る、138億年の歴史絵巻

大規模な数値シミュレーションを行うことで、宇宙の大規模構造から星・ブラックホールが誕生する様子をスーパーコンピュータ上に再現し、宇宙138億年における様々な時代・スケールにおける天体の形成過程を理論的に調べ、最新の観測成果と比較・検証しています。数値シミュレーションは重力・流体・磁気流体・輻射流体・化学反応ネットワークなど大学で学ぶ物理学で構築されており、問題に応じて計算する素過程を選択して計算を行います。

宇宙の暗黒時代・一番星・夜明け

数ある天体の中でも、ビッグバン後数億年の宇宙に現れる第一世代の星々・ファーストスターを主軸にこれまで研究を進めてきました。ファーストスターは、2021年12月に打ち上げられたジェイムブ・ウェッブ宇宙望遠鏡や2030年代の次世代地上望遠鏡群の観測目標の一つとなっており、まさにこれから観測が可能になる天体です。

解説記事

レビュー講演

宇宙の第一世代の星々・ファーストスター

宇宙で最初に誕生する星々・ファーストスター (初代星) が宇宙初期の化学・銀河進化に及ぼす影響は、星質量が重要なパラメータとなって決まります。近年、初代星質量が直接計算されるようになりましたが、形成環境への依存性は十分検討されていませんでした。一方でその形成初期条件は始原的密度揺らぎとして一意に定まるため、多様な形成環境は厳密に計算することができます。

初代星形成過程を110例数値シミュレーションしたところ、星質量は太陽質量の10-1000倍に幅広く分布することがわかりました。これは宇宙論的な始原的星形成ガス雲の多様性と形成過程の環境依存性によるもので、包括的な数値実験を行うことで初めて明らかになりました。

「ひとりっ子」のファーストスター

ビッグバンから数億年後の宇宙に誕生する宇宙最初の星・ファーストスター形成時に、従来の数値シミュレーションでは数個から数百個の小質量のファーストスターが同時に誕生することが報告されていました。このシナリオから予言される小質量のファーストスターは現在の宇宙で見つけることができるはずなのですが、その痕跡は未だ観測されておらず、理論的な説明が求められていました。

本研究では、ファーストスター形成過程における磁場の新たな増幅機構を発見し、急増幅された強い磁場の効果によって小質量ファーストスターの形成が抑制されることを明らかにしました。 

モンスターブラックホールの種

宇宙年齢数億年という早期に太陽の数十億倍にもなる超大質量ブラックホールが見つかっていますが、これまで考えられてきた形成モデルはその存在を自然に説明することが難しく、何らかの物理機構を仮定していました。

私たちは宇宙の晴れ上がり期に残された超音速ガス流に着目しました。ガス流の速度が大きな領域では星形成が阻害され、数万太陽質量にまでガス雲が成長して初めて初代星の形成が始まります。このガス雲では太陽質量の3万倍以上を持つ初代星が誕生し、最終的には重力崩壊を起こして超大質量ブラックホールの前駆天体となる巨大ブラックホールを残します。

原始星・降着円盤・アウトフロー

アルマ望遠鏡によって原始星近傍の詳細な構造が観測されるようになりました。その中には既存のモデルでは説明のつかない現象が報告されています。そこで3次元磁気流体シミュレーションを行うことで、若い原始星の周りで起こる現象を調べています。

図はシミュレーションの結果で、原始星の周りの降着円盤(緑)から伸びる磁力線(紫)と、磁気遠心力風によって駆動されたアウトフロー(赤)の様子を表しています。降着円盤とアウトフローは磁場分布によってコントロールされ、観測より報告される複雑な構造をシミュレーション上に再現することに成功しました。