2025年5月10日(土)第12回学分会研究会の活動報告
学術研究と教育実践の往還は、よりよい英語教育を目指すうえで不可欠です。しかし、これはまさに「言うは易く行うは難し」の難題でもあります。
今回の研究会では、研究者として英語教育の哲学的な探究を続け、一方で「現場教師」として精力的に実践報告を発信しておられる柳瀬陽介さん(京都大学・国際高等教育院)をお招きし、学術研究と教育実践の往還に向けた努力を語っていただきました。
日時:2025年5月10日(土)13:00〜16:10
形式:会場とzoomによるハイフレックス
会場:高槻市立総合市民交流センター(クロスパル高槻)3階302会議室
テーマ:英語教育における学術研究と教育実践の往還をめざして
総合司会:向井留衣 さん(運営委員)
参加者58名(会場35名、オンライン23名)
《講演》柳瀬 陽介 さん(京都大学)
「足を靴に合わせない」--実践者の認識を活かす実践者研究の原理と方法--
「英語教育学界は、実践者に非現実的手法を押し付けてきた」との切り込みから講演はスタート。「多くのランダム化比較研究(RCT)は実際には無作為化されておらず事例研究扱いが妥当。にもかかわらず必要な文脈や語りを伴わない」と続けた。そこで柳瀬さんは、RCTに固執せず、多様な認識論が存在することに目を向け、偶発性の世界の中で意味を見出す実践者研究の可能性を主張。教育と研究の実践から謙虚に学ぶ姿勢が不可欠だと締めくくった。合理性・客観性とは何なのかについて考え直すきっかけとなる講演であった。
《指定討論》惟任 泰裕 さん(大阪成蹊大学)
柳瀬さんの議論を踏まえて、具体的な問いを設定した。今日の教育上の課題は、「『科学という思想』とどう向き合うか」ということであり、「教育実践についての『豊かな語り』をどのように実現するか」と問うた。そのうえで柳瀬さんの議論が、形式的な「教育思想上の科学主義」を乗り越える知見を提示しうるものだと指摘した。
《顧問乱入・全体討議》進行:大津 由紀雄 さん(顧問)
江利川春雄さんは、英語教育学界における現状の歪みは、英文学中心だった英語アカデミズムを打破すべく60年代に確立した英語教育学が、自身もアカデミズム化して現場から遊離した結果だと指摘。
加賀田哲也さんは授業研究における「指導」という概念の混入に対する違和感を取り上げ、「指導」者の指摘をありがたくいただく機会から忌憚のない討論の機会に変質させるべきではないかと問題提起した。
大津由紀雄さんは、実践者である教員による研究は重要だが、それは必ずしも論文の形で結実をめざす必要はなく、大切なことは自己実践のメタ分析を心がけることだと述べた。ほかにも会場やオンラインからもさまざまな意見が出され、活発な議論がなされた。
2025年1月26日(日)第11回学分会研究会の活動報告
日時:2025年1月26日(日)13:30〜17:30
会場:高槻市立総合市民交流センター(クロスパル高槻)5階視聴覚室
テーマ:『心を育てる英語授業、はじめました:教師たちの挑戦と実践』(2025,研究社)の著者をお招きして
総合司会:向井留衣(運営委員)
参加者80名(会場42名、オンライン38名)
《実践報告》
「“できた”が実感できる英語授業」
牧野尚史さん(滋賀大教育学部附属中)
日々の授業で生徒の成功体験を積み重ね,自己効力感をアップさせることをめざした実践。生徒に学習の見通しをもたせ,目標のレベル設定も自己決定できるように工夫されている。授業では数々の足場かけが用意され,生徒が自己調整しながら学んでいく。
母語も効果的に活用したAll in English至上主義とは一線を画す実践に,会場からは驚きと共感の声があった。生徒へのアンケート調査の結果では,発表への取組や内容理解において実践の継続につれて生徒の「できた」が劇的に増加していった。
《講演》
「外国語(英語)教育と「人格の完成」」
三浦孝さん(静岡大学名誉教授)
加賀田哲也さん(大阪教育大学教授)
教育基本法第1条(教育の目的)に立ち返り,教育の目的と,外国語(英語)科教育の現状のギャップを鋭く指摘。「高校卒業段階でCEFR A2」という目標や文法問題の演習に終始した指導が「人格の完成」に結びつくのか。
そこで,英語力養成と人間性育成の両立を図るHumanistic Language Teaching (HLT)の理念とその4つのポイント(有意味タスク中心の授業,魂に触れる教材,協働学習,全人格的存在へのリスペクト)が共感を呼んだ。
HLTに基づく多数の実践も生徒作品とともに紹介された。「もし自分がヒーローだったら?」「自分が親になったら我が子に言ってあげたい言葉は?」などの課題設定が,生徒たちの心を揺さぶり,英語を通じて自分自身を見つめ直すきっかけになることを示した。
《全体討議》
進行:大津由紀雄(顧問)
フロア参加型の全体討議は,会場の一体感を感じられる熱い討論の場となった。参加者からは日々の実践を踏まえて,3人の発表者への質問や意見が寄せられた。討論は更問形式で進められ,理論・理念と実践を往還しながら協同学習や評価についても深く活発な議論となった。立場や役職の垣根を超えた相互尊重のもとでの自由で批判的な(critical)議論こそ,本会の魅力。
2024年12月7日~8日秋合宿の活動報告
和歌山県有田川町にある江戸時代の古民家「やすけ」を一棟借り切り,秋合宿を行いました。囲炉裏を囲んで語り明かす秋合宿は,今回も満員御礼です。
〈1日目〉
買い出しをして,有田川の二川ダムで紅葉狩りとピクニック。全長160mの吊り橋「蔵王橋」から眺める景色は美しく爽快でした。その後,宿泊先の「やすけ」へ移動し,夕飯の支度。ダッチオーブンを仕込んで,「しみず温泉」で湯を嗜みながら出来上がりを待ちます。
温泉から戻ったら,出来上がったジューシーな鶏の丸焼き,串焼きと鍋,そして二升の熱燗に舌鼓を打ちながら,車座になって語り合います。学分会を今後どう発展させていくか,研究成果の発表環境をどう整えるか,理論と実践の往還をどうすすめるか,などなど。まさに「同じ釜の飯を食った」仲間となりました。
〈2日目〉
日本棚田百選「あらぎ島」の風景を楽しんだあと,「かなや明恵峡温泉」にて露天風呂を満喫。旅の締めくくりにしらすや山椒,和歌山ラーメンなど,地元の名物料理を堪能しました。
〈学分会秋合宿初体験記〉 大津由紀雄
合宿っていいですよね。分けても,他人を尊ぶ気持ちだけあれば,年齢や肩書などを気にすることなく,自由にものが言い合える仲間たちとの合宿。
それにみんなで作って味わう美味しい料理に,温泉までついてくればいうことなし。学分会の将来を祝うように雪が舞い,虹の架け橋まで現れました。しあわせ,しあわせ!
〈参加者より〉 今泉洋
もともと語学や教育を専攻していたわけではない私が,一緒に旅ができるような仲間をこの世界でも持つことができたのは望外の喜びです。温泉の泉質も素晴らしく,成績処理の疲れを癒すことができました。
2024年10月12日第10回学分会研究会の活動報告
日時:2024年10月12日(土)11:00〜17:00
形式:会場とzoomによるハイフレックス
会場:高槻市立生涯学習センター3階研修室 (桃園町2-1:高槻市役所総合センター内)
内容:授業づくり、昼食懇親会、授業紹介・全体討議(部分参加可)
テーマ:「協同学習」「ことばへの気づき」「人間理解」を取り入れた授業づくり
単元:仮定法、My Dream
司会:向井留衣(運営委員)
学生・教員・研究者など、さまざまな立場や校種の参加者同士が連携し、授業デザインを作成しました。
「協同学習」「ことばへの気づき」「人間理解」をキーコンセプトにした3つのグループに分かれて授業をデザインし、その後に模擬授業と全体討議を行いました。授業づくりの過程で情報やアイデアを交換し、明日の授業に活かせるヒントだけでなく、授業づくりの際に押さえるべき教育観や子ども観など汎用的な力も高め合いました。
《課題提示》
冒頭で上野舞斗(事務局長)が基盤となる各コンセプトの趣旨を説明し、議論の土壌を整えました。そして、そのコンセプトを授業実践に落とし込む際の諸課題を大西里奈(代表)が提案しました。その一部を紹介します。
協同学習班:協同的で深みがあり、追実践が可能なジャンプ課題の設定。
ことばへの気づき班:単発的な小ネタではなく、体系的に扱う。
人間理解班:自己表現欲求を充たす多様な方法を考慮した課題設定。
《協同学習班・中学校教科書》
ファシリテーター:江利川春雄
仮定法についての協同的な授業展開を考えました。導入ではラップの音楽に合わせて基本的な文法事項を確認。メインはビンゴシートを使ったインタビュー活動で、中学生の憧れや関心が強い人物やキャラクターを選び、もしその人になったら何がしたいかを対話します。ジャンプ課題は「徹子の部屋」に出演した設定で質問への回答をライティングし、全体に対してプレゼンテーションをする、という流れです。
《ことばへの気づき班・高校教科書》
ファシリテーター:大津由紀雄
仮定法の概念に日英語の比較を通して迫ります。日英どちらも動詞の時制の違いで現実との距離感を表現できる点では共通しています。たとえば「もし5億円あるなら」では実現する可能性が表現され、「もし5億円あったなら」では現実とは異なる想像上の事柄を表現します。仮定法は仮定だけでなく、心的距離の調整や現実とは異なる状態、実現のための条件の提示などの機能をもち、そのツボはifではなく、動詞や助動詞の時制のズレにあることに到達しました。
《人間理解班・小学校教科書》
ファシリテーター:加賀田哲也
「クラスのみんなと将来したいことや夢について伝え合おう」のテーマを設定。その表現形式や発表形態はプレゼンやポスターなど各自の選択に委ねます。模擬授業では教員役がスキットでモデルを示し、児童役の参加者がペアでI want toを使った対話を展開しました。自己の考えを言語化し、他者とお互いの夢について語り合うことで、相互の人間的な理解を進めました。
《模擬授業・討議》
午後には各グループの成果を発表しました。模擬授業と全体討議でたっぷり2時間20分!それぞれのコンセプトの根幹に関わる深い議論を展開しました。不明なところは忌憚なく指摘し合います。もちろん相互のリスペクトや信頼関係の上に成り立つ忖度なしの議論での学び合い・高め合いです。
昼食懇親会の間にも考え、議論を続けた参加者からは「とにかく楽しかった!」「みんながフラットに、敬意をもって話に参加していたのも素敵だった」などの感想がありました。
研究会の後には韓国料理サムギョプサルで乾杯しました。授業づくりの過程、この研究会・懇親会の全体が協同的で、ことばへの気づきがあり、人間理解の実践そのものでした。
2024年8月12日第9回学分会研究会の活動報告
日時:8月12日(月・祝)15:00〜17:30
会場:大阪のクロスパル高槻とZoomによるハイフレックス形式で開催
テーマ:AI時代だからこそ人間的な関わり合いを大切にする外国語教育を!
登壇者:学分会運営委員:
上野舞斗(事務局長),岩橋一樹(幹事),惟任泰裕(事務局),大西里奈(代表)(登壇順)
司会:大津由紀雄(顧問)
内容:話題提供・討議
4人が「考え・創る,いまとこれからの外国語教育」についてそれぞれの仕事や研究領域から話題を提供。
参加者37名
《話題提供1》
上野舞斗(四天王寺大学)「AIと外国語教育について考えていること」
「外国語=英語」になった歴史的な理由の一つは財政的な問題だ。教員数増は訴え続けなければならないが,AIにはこの問題を解決し,英語を含む豊かなことばの世界を「外国語科」で伝えられる可能性がある。ことばへの気づきとAIリテラシー能力を養い,自らの可能性を拡げる外国語教育へ。
《話題提供2》
岩橋一樹(京都先端科学大学)「語用論からみたことばへの気づきとは」
大学における教養教育としての英語の授業では,疑問文に対する返答の内容を理解するうえで推論プロセスを意識するのが重要であることを示した。さらに,日常会話における疑問文に対する返答でも,文脈との関わりで言外の意味が理解されることに対する気づきが重要であると主張した。
《話題提供3》
惟任泰裕(大阪成蹊大学)「なんで英語教育史やるの?」
「なんで英語教育史やるの?」という素朴な問いに対して,メタ認知の獲得(今を相対化し,自分を知る)という意義を提示した。私たち自身も歴史の一部として,歴史をつくる主体となるために,「私たちの今」につながる歴史を研究することが大切だと考える。
《話題提供4》
大西里奈(大阪大学ほか)「協同学習で紡ぎ,学びの輪を編む」
協同学習を核とした授業改善・学校改革の到達点と今後の課題を提示した。教員自身が既存の枠組みに捉われず,批判的思考力を働かせ,時代と現場に即して協同学習を発展させていくことが大切であると呼びかけた。
《討議》
加賀田哲也(顧問)から各登壇者への質問を皮切りに,運営委員や司会の大津も乱入しながら,それぞれの課題の本質に迫り、高め合う批判的な議論が展開された。フラットな関係性で自由に発言できる場であることこそ,学分会のめざすところである。後半のフロアを交えた討議では,学生・現場教員・研究者からの発言があり,現場と研究を繋ぐ貴重な機会となった。
全体討議の充実を今後の課題とし,次回の記念すべき第10回研究会の開催に向けて邁進していきたい。
2024年5月26日第8回学分会研究会の活動報告
日時:2024年5月26日(日) 15:00~17:30
場所:大阪教育大学天王寺キャンパスとZoomによるハイフレックス形式で開催
参加者118名
《話題提供:加賀田哲也さん》
演題:人間教育としての外国語教育
人間形成をめざす外国語教育(HLT)の各論を紹介・再考。「児童生徒の豊かな人間性を育み,民主的で平和な多言語・多文化共生社会を構築する」ことを目的とした,かかわり合い,伝え合い,つながり合う外国語教育観を披瀝。
《話題提供:江利川春雄さん》
演題:競争と格差から協同と平等へ
現在の英語教育政策はトップ人材やエリート育成を進め,教科書内容は難化,全国学力調査の正答率は低下,生徒の英語嫌いは増加している。子どもたちの学ぶ姿と教員の実践を紹介しながら,協同型の授業への転換を提案。
《話題提供:大津由紀雄さん》
演題:英語教育にもっと認知科学を
外国語教育の目的を「母語の性質をメタレベルで捉え,母語の力を十分に発揮できるようにするため」と位置付ける。英語教育のさまざまな側面に認知とメタ認知が重要な役割を果たしていることを明確に認知すべしと主張。
《フロア乱入型鼎談》
フロアを交えた活発な議論が繰り広げられた。「人間理解」に関連して,政治や言論界の一部には学校教育を通して国家や企業に都合のよい「人間性」を求める傾向があり,その点に警戒すべきだと指摘があった。たしかに現行学習指導要領には「人間性」「主体性」といった内面にかかわる項目と評価も盛り込まれているため,重要な指摘だ。
協同学習に関して,一人で学びたい子の扱いについて質問が出された。これに対して,協同学習は一人で学ぶ時間も保障し,「自由な立ち歩きタイム」では一人,ペア,グループなどの学習形態を選べることが回答された。
2024年1月6日、7日新春コラボ研究会
日時:2024年1月6日15:00〜18:30、7日10:00〜14:30
場所:倉敷物語館(美観地区)多目的ホールとZoomによるハイフレックス形式で開催
参加者170名
【フロア参加型シンポジウム】
大津由紀雄さん(慶應義塾大学名誉教授)
江利川春雄さん(和歌山大学名誉教授)
テーマ:おかしすぎるぞ、いまの英語教育政策!わたしたちならこう変え
《小学校実践報告》
吉見 香奈子 さん(四国・小学校)「小学校外国語活動を支える地域の力」
《中学校実践報告》
岩﨑 しおり さん(広島・中学校)「初めて取り組んだ仮定法の導入」
《高校実践報告》
中川 エステル さん(島根・高校)
「"Can education promote establishing world peace?":英語教育を通して真の平和を考える」
2023年10月29日第6回学分会研究会の活動報告
日時:2023年10月29日(日) 15:00~17:30
場所:クロスパル高槻とZoomによるハイフレックス形式で開催
参加者31名
【講演】惟任泰裕さん(大阪成蹊大学)
「『自己表現』のルーツをたどる:長谷川清と英語の『自己表現』」
要旨:1973年から翌年にかけて,長谷川氏が『新英語教育』誌上で連載した「自己表現の歴史と理論」は、「自己表現」の実践を歴史的に省察し,理論化を図った先駆的な著作物で,「『自己表現』とはなにか」を考えるうえで重要な手がかりとなります。今日的な問題を考えるうえでも,先人の優れた実践から学ぶことは,少なからず意義のあることです。
さて,今日の「自己表現」は多様な意味を持った言葉ですが,そのルーツをたどると,新英研のいう「自己表現」が,生活綴方の流れを受けた「教育運動」の理念として成立したことが本講演で示されました。新英研における「自己表現」の探究は,技能主義やエリート主義に対する批判を背景として,「外国語教育の四目的」を実質化しようとした教師たちの実践的な努力の結晶であることも本講演で示されました。このような歴史的事実は,今を生きる私たちのあり方を示唆し,英語教育で「人間を育てる」ことの重要性を改めて教えてくれているように思われます。今日的な教育政策を批判するためにも,学習者に立脚した「カウンター・カルチャー」としての「自己表現」を改めて大切にしていく必要性を惟任さんは主張しました。
今回の研究会では,柳沢民雄先生にもZoomでご参加いただきました。柳沢先生からは,長谷川氏と同時代を生きた教師としてコメントをしていただきました。まさに,新英研運動とそれを担った実践家の姿が目に浮かぶ内容で,このお話を聞けただけでも,今回の研究会の意義があったと深く感謝しております。その際には,「長谷川さんの考えがよく分かる著作」として,『英語教育で何を教えるのか―英語教育変革への視点と構想』(1988:高文研)をご紹介いただきました 。
【高校実践 】向井留衣さん(兵庫県立東灘高等学校)
「パラグラフライティング はじめの第一歩:協働的な意見文ライティング活動」
実践報告として,高等学校でのパラグラフライティングの導入について発表いただきました。初めてパラグラフライティングを本格的に学ぶ高校2年生を対象とした試みです。
発表冒頭では,自己表現や言語技術の重要性を含む今回の実践に至った背景・動機が語られ,「読み手に分かりやすい文章を構成する力」「分かりやすく論理的に文章を書く力」を育むことを目的とした授業内容が紹介されました。上山晋平先生(広島・中学校高校)の実践を参考としながら,対象となった生徒の現状に即してアレンジを加えた取り組みです。生徒は,話し合い活動を通してブレインストーミングを行い,その内容を参考に50-100語程度のパラグラフライティングを行いました。
後半部分では,生徒の書いた文章や生徒アンケートの分析が共有されました。授業を通して,より詳細で論理的な文章を書くことができるようになった生徒がいた一方,アイディア出しの過程や,日本語で考えたことを英語の文章としてまとめる過程で難しさを感じる生徒がいたことが分かりました。
今後の課題・方針として,個々の困難さを解消しながら,さらに充実した自己表現が展開されるよう,学び合いを組み込んでいくなどの工夫を重ねることが必要であると述べられました。
今回の報告では,新英語教育11月号特集の内容に加えて,生徒の作品やPeer Reviewの様子がさらに詳しく紹介され,教室での生徒の様子を想起しながら,議論が行われました。参加者の方々の実践や想いを伺う時間も多く取られ,評価や機械翻訳の使用に関する話題をはじめとして,幅広い質問や感想が寄せられました。
2023年9月2日第5回学分会研究会の活動報告
日時:2023年9月2日(土) 15:00~17:30
形式:高槻市立生涯学習センター第1会議室とZoomによるハイフレックス
参加者48名
【講演】加賀田哲也さん(大阪教育大学)「人間教育としての英語教育 」
【中学実践 】髙田悠さん (追手門学院中学校・高等学校 )「『小学校700語問題』とシン・ICT」
【講演】加賀田哲也さん(大阪教育大学)
「人間教育としての英語教育 」
人間形成的外国語(英語)教育について,理論と実践を分かりやすく,そして大変温かい内容でご講演いただき,参加者一同心を動かされました。はじめに,加賀田さんの外国語教育観が披瀝され,外国語(英語)教育の「目標」と「目的」を,再考する機会をいただきました。関連するさまざまな論考が紹介される中,全人教育としての言語教育(HLT : Humanistic Language Teaching)について,多岐にわたる目標や,指導上の留意点,成果を詳しくご教示いただきました。
HLTに基づく言語教育の目標には,認知的・情意的・相互作用的・社会参加的・地球市民的目標があり,かかわり合い,伝え合い,つながり合う英語教育目的論(加賀田試案:2011)として,「英語教育を通じて,児童・生徒の豊かな人間性を育み,民主的で平和な多言語・多文化共生社会を構築する」を提示されました。
活動設計の最も大事な点として,児童・生徒の自己肯定感を軸に,「自分のこと」について関連づけながら表現すること,自己関与性が大きい活動の設計が指摘され,具体的な実践や学生の作品もご紹介いただきました。
参加者からは,「知識・技能を身に付けることも大切ですが,英語を学ぶことによって豊かな人間性を身に付けることを外国語教育の目的として,日々の実践に取り組んでいきたい」,「人間を『人材』(労働力商品)としか見ず,スキル主義に走る英語教育政策だからこそ,一人ひとりの個性と人間性を大切にし,『かかわり合い,伝え合い,つながり合う』ことばの教育の大切さを再認識しました」といった感想が寄せられました。
【中学実践 】髙田悠さん (追手門学院中学校・高等学校 )
「「小学校700語問題」とシン・ICT」
ICTを活用した取り組み,そして「小学校700語問題」について発表をされました。ICTにはC ( = Communication )の要素が入っている点を強調され,さまざまなアプリケーションソフトや授業での活用例を紹介いただきました。タイトルの「シン・ICT」の「シン」には,「新」「真」「震」「神」などの意味を込められており,アイデアと工夫次第でICT活用の可能性は広がります。 実際にICTを用いた相互的な活動を参加者同士が体験し,その利点と注意点について議論しました。後半は「小学校700語問題」,小学校英語で登場する700語が「既習」として中学教科書で扱われていることについて,小学校の先生方も交えて,意見の交換を行いました。どちらの事項にも共通して,児童・生徒のことを今後ともよりいっそう注意深く観察し,すべきことを探っていく必要があると主張されました。参加者からは,「『シン』に『心』が入るとなお素敵だなあ」,「来年度からの新しい小学校英語教科書では,東京書籍が825語を盛り込むなど『小学校800語(128語増)問題』に発展する可能性がある」ことが指摘され,追求していくべき重要な問題提起をいただきました。
2023年5月13日第4回学分会研究会の活動報告
日時:2023年5月13日(土) 15:00~17:30
形式:大阪教育大学附属高等学校天王寺校舎とZoomによるハイフレックス
参加者51名
【高校実践】加藤晃浩さん(大阪教育大学附属高等学校天王寺校舎)
「母語への気づきを促す英語授業の取り組み」
【AI活用】上野舞斗さん(四天王寺大学)
「Chat GPTの活用例:A to C」
【教材紹介】梅田礼子さん(和歌山大学)
【特別企画】中村浩一郎さん,大津由紀雄さん「大津さんと考えよう〜英語教師のための言語学〜」
【高校実践】加藤晃浩さん(大阪教育大学附属高等学校天王寺校舎)
「母語への気づきを促す英語授業の取り組み」
ご紹介いただいた実践は教科横断型のもので、日本語の特徴を生徒に気づかせることには国語科の先生が携わり、英語の特徴を生徒に気づかせることに加藤さんが携わりました。この実践を通して生徒は、英語の特徴をお互いに話し合うことで、日本語と英語における発音や読み方や語順や構文、否定文の作り方の違い、母語の力を高め、母語と英語を対比することの大切さに気づきました。
【AI活用】上野舞斗さん(四天王寺大学)
「Chat GPTの活用例:A to C」
話題のChat GPTの「いろは」について話されました。Chat GPTは、言語ベースなので、調べ物のために使う場合、事実との齟齬が多く発生します。そこでアドオンの追加などの工夫が必要となります。Chat GPTを使いこなす鍵は、なんと言ってもどんな指示(プロンプト)を与えるかです。その工夫によって、教科書本文の加工や、ルーブリックの作成、オリジナルの英会話アプリの作成などが可能となります。
生成AIの使用には多くの問題、危険も伴いますが、「使わせない」では使えるようになりません。むしろ、使い方を知らない方が危険です。上野さんは、今後、学習者の成長度合いを見て、いつ、どのように触れさせるかを検討する必要があると締め括られました。
【教材紹介】梅田礼子さん(和歌山大学)
「リズムに乗せてラップで覚える不規則動詞の活用 −アンコール−」
梅田さんのラップ・パフォーマンスに参加者もノリノリ♪多重知能(MI)理論から、教室に集まる多様な認知特性を持つ学習者へのアプローチの一つとして紹介・実演されました。
【特別企画】中村浩一郎さん,大津由紀雄さん「大津さんと考えよう〜英語教師のための言語学〜」
ファシリテーター中村さん,コメンテーター大津さん,そして会場・オンラインの参加者で,多岐にわたる議論が展開されました。まず始めに,『新英語教育』連載「英語教師のための言語学入門」について,「いま,なぜ英語教師を言語学の世界に誘うのか」という問いを切り口に,大津さんにお話しいただき,その後意見交流を行いました。英語教師が知るべきこと・思考すべきことに関連し,知識や技術だけに留まらない「ことば」に関する様々な視点を持つことが挙げられました。また,国語科との連携方法やChatGPTとの付き合い方も取り上げられました。今回のお話も踏まえ、連載やご紹介いただいた文献により,引き続き学び思考を深めたいと感じました。
2023年3月25日お花見バーベキューの活動報告
当日の様子は下の写真をスワイプしてご覧ください。
日時:2023年3月25日(土)
12:30 JR大阪城公園駅改札前集合→大阪城観光→14:00〜17:00 BBQ
→18:30~20:00 鶴橋コリアタウン散策
設立初年度最後のイベントは、4年ぶりの解禁となった大阪城公園でのお花見BBQです。小学生の子どもたちを含む11名の参加で満員御礼、学分会顧問の大津由紀雄さんも横浜から新幹線で駆けつけてくれました。
当日は曇り空ではありましたが心地よい気温で雨にも降られず、例年よりも開花が早い桜は7分咲き。会場は程々の賑わいで、桜をゆっくり堪能できる絶好のタイミングでした。
大阪城公園内を散策した後、BBQエリアで乾杯!お肉や焼きそば、お寿司に…2升の燗酒も!美しい桜の下、美味しい食事とお酒をいただきながら歓談し、親睦を深めました。
でも、単なる「呑み会」ではありません。学問を語り合い、メンバーの将来と外国語教育の未来を論じ、学分会設立初年度の総括と今後の展望を話し合い、楽しくも深い生きた学びの時間となりました。これが学分会の魅力の一つとも言えます。夏の研究会(第5回研究会)開催の相談も進み、レポーターも決まりました。
陽が沈んだ頃にはディープな大阪、鶴橋へ移動し、異文化体験(!?)をしながら、新英研の今後を議論し、雑誌『新英語教育』で取り上げたいテーマを挙げ合うなど、話は尽きるどころかどんどん広がり、深まりました。
2023年2月4日3回学分会研究会の活動報告
日時:2023年2月4日(土)15:00~17:30
形式:大阪教育大学附属高等学校天王寺校舎とZoomによるハイフレックス
参加者42名
【研究発表】大西里奈さん(神戸大学大学院生・高校教員)「高校英語科における協同学習の効果と課題」
【特別企画】著者・江利川春雄氏と読む『英語と日本人:挫折と希望の二〇〇年』
コメンテーター:向井留衣さん(兵庫教育大学大学院生・高校教員)
【教材交換】(1)梅田礼子さん(和歌山大学)
(2)橋山芳子さん(滋賀・高校教員)
【研究発表】大西里奈さん(神戸大学大学院生・高校教員)
「高校英語科における協同学習の効果と課題」
協同的な学びを通して,生徒たちは教科自体の学びを深めると同時に,競争よりも協同の価値を認識するようになることが示唆されました。高校英語科における協同学習の効果を,生徒に対するアンケートや統計を用いてエビデンスに基づき明らかにした点は,学問と実践の双方への貢献だと言えます。さらに、協同学習の再定義にチャレンジしました。
【特別企画】著者・江利川春雄氏と読む『英語と日本人:挫折と希望の二〇〇年』
コメンテーター:向井留衣さん(兵庫教育大学大学院生・高校教員)
コメンテーターや参加者の皆さんから寄せられた新著に関する質問や感想に,著者・江利川春雄氏にお応えいただきました。幕末から始まり,現在の教育事情,未来への展望まで,多岐にわたる視点から「英語と日本人」を捉え直す機会となりました。さらに、コメンテーター,著者,そしてフロアとのやり取りを通して,新学習指導要領実施による初等・中等教育の現状に関する課題を再認識するとともに,今後求められる変化は何か,考察を深めました。また,人工知能(AI)と上手く付き合いながら,利用していくという外国語教育の在り方も提案されました。コメンテーターの明るい人柄とツボを押さえた的確な進行で,著者のホンネが見事に引き出され,アットホームな雰囲気で大いに盛り上がりました。
【教材交換】
参加者のオリジナル教材や日頃の授業で使用しているプリントを持ち寄り,教材とアイデアを交換し,お土産をお持ち帰りいただきました。
提供者(1)梅田礼子さん(和歌山大学)
動詞の活用を楽しみながら学ぶビンゴをワークショップ形式で紹介。
提供者(2)橋山芳子さん(滋賀・高校教員)
授業で扱った歌や動画を紹介。国連での恐竜の演説「絶滅を選ぶな!」など,膨大な授業資料を蓄積したお得感満載のお土産に参加者も大満足。
2022年12月10日第2回学分会研究会の活動報告
日時:2022年12月10日(土) 15:00〜17:30
形式:四天王寺大学あべのハルカスサテライトキャンパスと
Zoomによるハイブリッド
参加者62名
【スピーカー】
大津 由紀雄 氏(関西大学客員教授「ことばの教育」代表理事)
江利川 春雄 氏(和歌山大学名誉教授・日本英語教育史学会名誉会長)
【講演会・対談】
今回の学分会学習会は大津氏の講演と対談の豪華2本立て!大津氏の専門分野である認知科学(第1言語獲得・統語解析・言語教育)の視点から、演題「母語の獲得と外国語の学習」で大いに語っていただきました。ことばの教育について討議し、学び合いました。ユーモアに溢れた大津節は必聴!聴衆の笑いと知的興奮を呼び起こしました。当日は熱心な多数の聴衆が会場やズームで講演や対談に耳を傾け、質疑応答の際にも多数の参加者から質問やコメントを頂き、講演会も対談も盛会に終わりました。
【伝説のケンカ】
今夏開催された新英語教育研究会第58回全国大会。そのメインイベントのフロア参加型シンポジウムには大津由紀雄氏・鳥飼玖美子氏、斎藤兆史氏・江利川春雄氏の「4人組」が登場。「外国語教育の未来を語り合う」をテーマに、それぞれの専門領域から丁々発止の激論が繰り広げられた。大津氏の「ケンカ始めてもいいかな?」を皮切りに、江利川氏も「参入させてよ!」と、知見に富んだ真剣勝負の論争が白熱。盛り上がりが最高潮に達した頃、タイムアップのゴングが鳴り響く。興奮冷めやらぬ参加者は延長戦を渇望。関西新英研学分会で、大津氏・江利川氏の徹底対談が実現しました。
【学習会の様子】
学習会当日にはトムとジェリーのケンカが行われました。大津氏は今回の学習会で、乳幼児がどのようにして母語を習得していくのかということや、母語の習得と外国語学習の相違点、外国語学習の目的についてお話しされました。大津氏の講演の後の対談では、江利川氏と大津氏の白熱した論争の延長戦が行われました。学習会の後の懇親会ではお二人で仲よく酒を酌み交わしておられました。また、当日はサプライズで江利川氏と大津氏の写真付きケーキも用意しました。その模様は写真をスワイプしてご覧ください。
スピーカー
江利川 春雄 氏(和歌山大学名誉教授・日本英語教育史学会名誉会長)
大津 由紀雄 氏(関西大学客員教授「ことばの教育」代表理事)
プロモーションビデオを公開しています。
2022年11月19日-20日紅葉合宿の活動報告
日時:2022年11月19日(土)10:00~11月20日(日)14:00
場所:和歌山県有田川町
【1日目】
二川ダムでの昼食 紅葉狩り 蔵王橋(吊り橋)訪問
ダッチオーブン・串焼き(囲炉裏使用)・鍋の夕食
しみず温泉入浴
ゲーム大会(蛇を完成させるゲームなど家族連れの方も楽しめるゲーム実施)
古民家(佐太夫)宿泊
【2日目】
あらぎ島公園観光 かなや明恵峡温泉入浴
当日の様子を写真やYouTubeで公開しています。
囲炉裏を囲んでのトーク、紅葉合宿の様子、夏の大会の総括、今後の意気込みといった関西新英研のすべてを1つに凝縮した動画でかなり中身が濃いです。
2022年10月29日第1回学分会研究会の活動報告
日時:2022年10月29日(土) 15:00〜17:30
場所:四天王寺大学あべのハルカスサテライトキャンパスと
Zoomによるハイブリッド開催
参加者31名
【高校実践】山井 惇平 さん(大阪教育大学附属高等学校天王寺校舎)
「試行錯誤と挑戦の一年目」
【中学実践】西俣 俊介 さん(大阪市立東中学校)
「音読指導を見直そう!」
【ミニ講演】江利川 春雄 さん(和歌山大学名誉教授)
「英語論争史はおもしろい」
【高校実践】
山井 惇平 さん(大阪教育大学附属高等学校天王寺校舎)
「試行錯誤と挑戦の一年目」
高校教員一年目で試行錯誤してきた授業づくりや、今年度英語科としても取り組んでいるCLILについて考えていることや取り組んでいることについてお話しさせていただきたいと思います。
【中学実践】
西俣 俊介 さん(大阪市立東中学校)
「音読指導を見直そう!」
ふだん行っている音読指導で生徒に人気があるのはどのような音読ですか?また、音読指導の際に重点はどこに置いていますか?いまいちど自分自身の音読指導を見直し、分析し、考察し、共有しましょう!よりよい指導者(教育者)となり、こどもの成長につながるよう…
【ミニ講演】
江利川 春雄 さん(和歌山大学名誉教授・学分会顧問)
「英語教育論争史はおもしろい」
明治から100年以上も続く英語教育論争は、知的で人間臭い真剣勝負の連続だった。今なお繰り返される論争、混迷する英語教育の展望を拓くためには、歴史を紐解くことが必要だ。新資料と新たな知見を豊富に交えた待望の新刊 『英語教育争史』。どこよりも早く本書を数倍楽しむtipsや、他では聞けない執筆秘話をお話しいただきます。