おすすめの本の紹介
ネガティブな言葉も人を楽にする
カフカのネガティブな言葉を集めた一冊。
本は初めから終わりまでネガティブな言葉に溢れているのに、秀逸な解説と行き過ぎたネガティブさが相まって、読みながらつい笑ってしまう。不思議な魅力を持つ本です。
13章以下に出てくる、食事や睡眠に関する苦悩の言葉は、カフカではなく「現代人の言葉」といっても通じるものばかりが登場します。そこに翻訳者・頭木弘樹さんの解説があり、自分の似た悩みもこう捉えたら良いのだな、と前向きになれる章もあります。
そして、解説を読むとなるほどと納得するのですが、なぜかカフカは「病気」には絶望していません。この章からは、古今東西変わらない心の弱さの構造が見えてきます。心の弱さを知り、受け入れたいと思う人にぜひ読んでほしい一冊です。
小気味よい台詞まわしが特徴
戦後ロンドンで結婚相談所を運営する二人の女性、上流階級のグウェンと、戦時中は諜報活動に従事していたアイリス。
二人は逮捕された青年の無実を信じ、真犯人探しに挑むのですが、テンポ良い会話のやりとりに誘われ、ページをめくる手が止まらなくなります。
中でも、「塀のなかにいるのはどんな感じでしたか?」という問いに対し、逮捕された青年の返答が実に秀逸なのですが…紹介すると犯人を明かしてしまうので、ぜひ読んで、ユニークな返しを確認してほしいと思います。
探偵ふたりの相乗効果に魅せられる
直感を大事に突き進む昔ながらの刑事ワシントン・ポーと、天才分析官ティリー・ブラッドショーが、連続殺人の謎に挑む…というストーリー。明晰な頭脳と頑なまでに論理的思考を持つ女性博士と、直感タイプの男性刑事というのは、テレビドラマ「BONES」を思い起こさせます。目まぐるしく移る場面展開も、ドラマ好きにおすすめ。
最初は凸凹コンビだったのが、次第に二人の息が合ってくる変化も見どころです。特に、2作目では、窮地に陥ったポーが助けを求めると、ティリーがポーの予想に反してすぐ駆け付ける…というシーンがあります。あまりの早さに驚くポーに「あたしがあのメッセージを送ったら、ポーはすぐに出発しないの?」と言うティリー。
ミステリー小説ですが、身近な人に助けを求めることが苦手な人におすすめします。
謎解きと再生の物語
家族の問題を抱える主人公のジョーと、余命わずかなため仮釈放され最期を過ごすカール。二人が出会い、ジョーは次第にカールの無実を信じて真実を…と書くと、よくある小説に聞こえます。
しかし読むうちに、過去の事件はあくまでサイドストーリーに過ぎないと思うのです。第一印象は大して良くなかったのに、進めるうちに自然と感情移入して応援してしまう。ミステリー小説ではなく、ミステリーを用いた再生の物語です。
終盤の「もし死んで向こう側に天国があったなら、それはそれで結構なことじゃないか。だがもし、天国にいるつもりでこの人生を生きず、死後に何もなかったら…」というカールの台詞は、心にじんわりと沁みます。
フィン・ベルの「死んだレモン」が好きな方に。