実験室には大型の暗室を設置して、その中で光学実験を行っています。主な研究テーマは下記の三つです。
1.金属ナノ粒子のサーモプラズモニクス
2.光マニピュレーション技術の開発(光ピンセット、熱泳動など)
3.数値シミュレーション(有限要素法、およびブラウン動力学計算)
まず1.ですが、金属ナノ粒子には、自由電子が「集団的な波」としてコヒーレントに振動している「局在表面プラズモン」があります。この振動は、可視~近赤外域(400 ~ 2000 nmくらい)の特定の波長の光を照射すると共鳴的に励振されるため、ナノ粒子は光電場を増幅する「光アンテナ」として機能します。手に取れるサイズの金塊の色は「金ピカ」ですが、金をナノメートルサイズの微粒子にすると、この「局在表面プラズモン共鳴」のために鮮やかな赤色を呈します。
金ナノ粒子は強く光を吸収および散乱するため、光センシングや光エネルギー変換を効率化するために利用できます。当グループでは主に、金ナノ粒子が光を吸収して熱に変換する「光熱変換」を研究しています。プラズモンの熱的な性質に注目した研究なので、「サーモプラズモニクス」と呼ばれています。当グループでは、光学顕微鏡で個々の単一ナノ粒子を観察し、集光したレーザーをナノ粒子に照射して、光熱変換の挙動を観測しています。
続いて「2.光マニピュレーション」について。海面の波や大きな音(音波)は、波動現象なので物体に圧力を作用させます。同様に「電磁的な波」である光も、微弱ながら「放射圧」と呼ばれる圧力を持っています。レーザー光をレンズで集光して照射すると、ナノメートルからマイクロメートル程度の微小な物質であれば、この放射圧によって「非接触につまむ」ことが出来ます。この技術は「光ピンセット」と呼ばれており、発案者のAshkin博士は2018年にノーベル賞を受賞しています。この光ピンセット技術は、生体高分子や、量子ドット・ナノダイヤモンド・カーボンナノチューブなどのナノ材料の捕捉、輸送、分析に応用されています。当グループでは、従来の光ピンセット技術に、微小領域の光加熱に誘起される熱対流や熱泳動といった現象を組み合わせた、ナノ物質の新しいマニピュレーション技術の開拓に取り組んでいます。
最後に「3.数値シミュレーション」について。当グループは実験研究を行っていますが、新たな仮説を立てたり、実験結果を定量的に解釈するために、数値シミュレーションにも注力しています。例えば、COMSOL Multiphysicsという有限要素法ソルバーを用いて、金属ナノ粒子に光を照射した際の電場の増強効果や、光から熱へのエネルギー変換について計算モデルを開発しています。
他にも、光ピンセットや熱泳動している個々のナノ物質の拡散挙動を調べるために、PythonやMATLAB等を用いてブラウン動力学計算の数値シミュレーションも行っています(公開しているPythonコード)。学生の研究テーマとしては、このような数値計算が主なものもあるので、「シミュレーションやプログラミングがメインの卒業研究がやりたい」という学生の方にも、ぜひラボに加わってほしいと思っています。