セオ ウセオク (Wooseok SEO)
京都大学大学院医学研究科
京都大学大学院医学研究科
Recent research highlight
SATB1 preserves CD4⁺ T cell fidelity and establishes Treg function in anti-tumor immunity
Wooseok Seo, Chengcheng Zou, Krutula Nair, Haruhiko Koseki, Terumi Kohwi-Shigematsu, Hiroyoshi Nishikawa, Ichiro Taniuchi
Life Science Alliance 2026年9月
ゲノムオーガナイザーSATB1が握るT細胞の運命と抗腫瘍免疫
「免疫細胞のアイデンティティは、どうやって保たれているのか?」—そんな根本的な問いからスタートしたのがこの研究です。主役は、ゲノムオーガナイザーとして知られる「SATB1」。この因子がTregの機能にどう関わるのかを解き明かしました。
本研究の最大の鍵は、CD4-CreによるT細胞の初期分化段階での影響を排除するため、Thpok-creを用い、「CD4系列が決定した後の成熟T細胞」でのみ特異的にSATB1を欠損させるマウスモデルを利用した点にあります。すなわち、『CD4系列へ決定した後から、FoxP3が発現するまで』という絶妙なタイミング(ウィンドウ)に着目したことで、従来のCD4-CreやFoxp3-Creモデルでは見逃されていたSATB1の真の役割を明らかにすることに成功しました。
そこから見えてきたのは、SATB1の驚くべき二面性です。通常のCD4+ T細胞において、SATB1は「Foxp3」の発現を強力に抑え込み、誤ったFoxP3の発現を防ぐストッパーとして細胞系列の忠実性(Fidelity)を守っていました。ところが、いざTreg(制御性T細胞)においては、FoxP3の補助因子へと転じ、免疫抑制バリアの構築に働いていたのです。結果として、SATB1を欠損させることでこのTregの免疫抑制バリアが破綻し、CD8+ T細胞(キラーT細胞)の機能が解放され、抗腫瘍免疫が劇的に増強されることを実証しました。
SATB1 enforces CD4+ effector T cell lineage stability by repressing Foxp3 via DNA methylation
Wooseok Seo, Chengcheng Zou, Krutula Nair, Haruhiko Koseki, Terumi Kohwi-Shigematsu, Hiroyoshi Nishikawa, Ichiro Taniuchi
Biochemical and Biophysical Research Communications 827 154026-154026 2026年8月
遺伝子の誤発現を防ぐエピジェネティックな「鍵」:SATB1によるT細胞のアイデンティティ維持
通常のCD4+ T細胞(ヘルパーT細胞)が、もし誤って制御性T細胞(Treg)のマスター遺伝子である「Foxp3」のスイッチを入れてしまったらどうなるでしょうか?本研究は、ゲノムオーガナイザー「SATB1」が、遺伝子の誤発現をいかにして防いでいるのか、そのエピジェネティック制御のメカニズムに迫ったものです。とりわけ、SATB1がFoxp3の発現を調節することは以前より知られていましたが、その詳細なエピジェネティックな分子機構までは明らかではありませんでした。
ここで我々は、Thpok-creを用いて、CD4系列決定後の成熟T細胞においてのみSATB1を特異的に欠損させるマウスモデルを作出しました。すると、通常の分化誘導シグナル(TGFβ)が存在しないにもかかわらず、Foxp3が勝手に発現し始め、「CD25- FoxP3+」という非典型的な集団が突如として出現しました。さらに遺伝学的解析によって判明したのは、このSATB1欠損によるFoxP3の「異常発現」が、DNA脱メチル化酵素である「TET2」および「TET3」を介した現象であるということです。
従って、SATB1はTET酵素の働きをコントロールしてDNAメチル化を適切に維持することで、誤ったFoxP3の発現を防ぎ、CD4+ T細胞としてのアイデンティティ(Fidelity)を強固に守っていたのです。
Genetic Disruption of Pdcd-1 Upstream Enhancer Boosts T Cell Function and Antitumor Responses
Chandsultana Jerin, Wooseok Seo, Hiroyoshi Nishikawa
Immunology Letters 107171-107171 2026年3月
PD-1の発現調節:ヘテロジネイティに着目したエンハンサー操作と抗腫瘍免疫
がん免疫療法の主役である「PD-1」。実は、細胞や状態によってその発現量は様々ですが、これまでその発現の不均一性(ヘテロジネイティ)の重要性は十分に考慮されてきませんでした。そこで我々は、T細胞が疲弊状態に陥った際に特異的にPD-1を発現させるエンハンサー(-23k Enhancer)に着目し、これを欠損させたマウスモデルを作製しました。腫瘍微小環境下で解析した結果、見事に「疲弊CD8+ T細胞」をはじめ、通常のCD4+ T細胞、Treg(制御性T細胞)、さらにはγδ T細胞に至るまで、PD-1の発現を顕著に減少させることに成功しました。
疲弊状態にある免疫細胞からPD-1の発現を根本的に弱めた結果、CD8+ T細胞の「疲弊状態」が大きく改善され、結果として強力な抗腫瘍免疫が誘導されたのです。本成果は、既存のタンパク質を標的とする抗体薬のアプローチとは異なる、「エンハンサー操作」によるPD-1発現制御が、次世代のがん免疫療法において極めて有望な治療標的になり得ることを力強く示す重要な知見です。
Research History
理化学研究所 生命医科学研究センター 免疫転写制御研究チーム (2009.11~2019.10)
生物の設計図であるゲノム情報がいかにして読み出され、精緻な生命システムを構築するかという「遺伝子発現制御の根本原理」の解明に従事しました。谷内一郎チームリーダーのもと、転写因子複合体の機能解析およびクロマチン高次構造の動態解析に注力し、免疫細胞(T細胞)への分化と活性のプロセスを分子レベルで明らかにしました。この期間に、遺伝子改変マウス作製技術と分子生物学的実験手法(Wet)に加え、ChIP-seqやATAC-seqなどのエピゲノム解析とバイオインフォマティクス解析(Dry)の技術を習得しました。自ら仮説を立て、検証のためのマウスモデルを作製し、最先端のゲノム解析で答えを導き出す「シームレスな解析する研究遂行能力」は、現在の私の研究の核となっています。
名古屋大学 大学院医学系研究科 分子細胞免疫学 (2019.11~2025.3)
理化学研究所で培った生化学および分子生物学的手法を基盤として、「疾患における分子機構の破綻」へと研究のスコープを広げました。西川博嘉教授の研究室では、がん微小環境における細胞の機能不全(疲弊)のメカニズムを、代謝、シグナル伝達、および転写制御の観点から解析しました。さらに、研究の過程で着想した「神経・免疫クロストーク」という独自の概念に基づき、文部科学省「研究大学強化促進事業」の支援を受けて「異分野融合研究ユニット」を立ち上げ、ユニットリーダーを務めました。同ユニットでは、古典的な生化学的手法と最先端の遺伝子工学を融合させ、異分野融合による新たな学術領域の創出を牽引しました。
創発 PI (JST創発的研究支援事業 塩見パネル) (2023.4~
https://www.jst.go.jp/souhatsu/research/panel_shiomi.html
JST創発的研究支援事業では、「領域特異的解析による転写ファクトリーの分子実体と機能の解明」に取り組んでいます。複数の遺伝子が核内の特定領域に集まり、効率的な転写制御を受ける「転写ファクトリー」仮説の分子基盤解明が目標です。 本研究の核心は、領域特異的免疫沈降法(Locus-specific ChIP)を駆使し、特定のゲノム領域に形成される転写複合体を直接捉えることにあります。これにより、従来のChIP-seqのような「平均化されたデータ」では見えない、特定の遺伝子座(ローカル環境)の動態を4次元的に定量することを目指します。本研究による免疫系の転写ファクトリーの解明は、新規免疫チェックポイント分子の同定や評価を可能にするポテンシャルを秘めており、がん免疫研究への応用を加速させています。
京都大学 がん免疫総合研究センター がん免疫多細胞システム制御部門 (2025.4~
2025年度より、本庶佑先生が創設した京都大学がん免疫総合研究センター(CCII)にて、がん免疫多細胞システム制御部門の准教授に着任し、西川博嘉教授の下で研究を継続しています。こちらでは、がん免疫を単一細胞の解析に留めず、個体レベルの「多細胞システム」として捉える新たな接近法に挑戦しています。私の強みは、臨床検体のオミクス解析から得られた知見を、自ら作製する精密な疾患マウスモデルで再現し、機能実証を行う一気通貫の解析スタイルです。現在はとりわけ、がん免疫を分子レベルの解析に留めず、概日リズムや加齢といった「時間軸」の視点から理解する「時間免疫学」の確立に注力しています。これらの研究を通じて、臨床現場の問いを科学的に解明するトランスレーショナルリサーチ(TR)を推進し、がんの治療のみならず、将来的ながん予防を実現できる世界の創造に貢献したいと考えています。
Research Methods
遺伝子改変マウスの作製(ES細胞、Crispr/Cas9)
分子生物学的解析(Western Blotting, ELISA)
細胞生物学解析(フローサイトメトリー, RNA-seq, scRNA-seq)
エピジェネティック解析 (ChIP-seq, ATAC-seq, Hi-C)
バイオインフォマティクス (NGSデータ解析)
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