両目で一つの物体を見るとき、左右の目では見え方が異なっており、人間はこれを立体感として認識しています。従って、写真測量で用いる連続した空中写真を使えば、オーバーラップ部分により実際の物体と同様の立体感を得ることができます。これを実体視といいます。実体視を行うためには、左目用の写真と右目用の写真が必要であり、1対の写真で実体視できる範囲は左目用写真の主点と右目用写真の主点の間となります。
遠い点Aと近い点Bを両目で見るとき、人間の両目は約65 [mm] 離れているので、点Aと点Bの見え方は左右の目で異なってきます。左目の網膜に投影される像と右目の網膜に投影される像の大きさの差を視差といい、次式によって表すことができます。また、点Aから両目への光軸がなす角をα、点Bから両目への光軸がなす角をβとすれば、収束角は次のようになります。
人間は視差と収束角によって遠近を認識することができます。ちなみに、人が認識できる最小収束角は20''程度といわれています。
実体視の方法としては、肉眼立体視、レンズ式実体鏡、反射式実体鏡があります。反射式実体鏡は下図のように、両写真の主点間が25 [cm] 間隔かつ一直線上になるように写真を置くことで立体視ができる方法です。また、写真基線長は次式によって求めることができます。
このとき、b0は写真基線長 [m]、aは画面の大きさ [m]、Pはオーバーラップ [%] です。
さらに、実際の主点間の距離である撮影基線長は写真基線長に縮尺を掛ければ求めることができ、次式で表されます。
ここで、例題を2問解いていきます。
例題1:画面の大きさ23 [cm] ×23 [cm] の航空カメラで平坦な土地を撮影し、空中写真を下図のように置いたときのオーバーラップを求めよ。
主点基線長を計算した後に、オーバーラップを求めていきます。
例題2:焦点距離15 [cm]、画面の大きさ23 [cm] ×23 [cm] の航空カメラを用いて、海抜高度3,500 [m]、オーバーラップ60 [%] で標高200 [m] の平坦な土地を撮影したとき、撮影基線長はいくらか。
縮尺を計算した後に、撮影基線長を求めていきます。
視差を用いた高低差の式を下図から導出していきます。まずは、△O1a1p1と△O2a2p2を足してできた△a1Oa2と△O1AO2が相似であることを用いて式を立てていきます。
同様に、△O1b1p1と△O2b2p2を足してできた△b1Ob2と△O1BO2が相似であることを用いて式を立てていきます。
この式を変形することで、高低差hを求めることができます。
また、A点の視差とB点の視差の差を視差差といい、視差差を用いても高低差を求めることができます。まずは、△a1O2a2と△O1AO2が相似であることを用いて式を立てていきます。
同様に△b1O2b2と△O1BO2が相似であることを用いて式を立てていきます。
このとき、視差差は次式によって表されます。
上式を変形し、高低差の式に変えていきます。
さらに、縮尺の式を代入して次式を得ます。
高低差が撮影高度に比べて非常に小さいと仮定すれば、分母の視差差を無視することができます。
この式が視差差を用いたときの高低差の式となります。では、例題を2問解いていきます。
例題3:海抜高度3,000 [m] の飛行機から焦点距離15 [cm] の航空カメラで2,000 [m] 間隔に2枚の空中写真を撮影した。写真上のA点の視差が120 [mm] のとき、A点の標高を求めよ。
計算に必要な諸量は文章中にありますので、そのままA点の標高を求めていきます。
例題4:カメラの焦点距離が15 [cm]、画面の大きさ23 [cm] ×23 [cm]、オーバーラップ60%、縮尺1/20,000の一対の空中写真がある。撮影した煙突の頂部と底部の視差はそれぞれ21 [cm] と20 [cm] であった。このときの煙突の標高を求めよ。
まずは、撮影高度、視差差、写真基線長を求めていきます。
では、視差差から煙突の標高を求めていきます。
まとめとして、連続した2枚の空中写真を使って立体感を得ることを実体視といいます。空中写真から標高を求めるときは視差を用いる場合と視差差を用いる場合があります。