海岸を保全するための防護方式は線的防護方式と面的防護方式に大別されます。
1965年頃の海岸保全の考え方は、海岸線上に直立する堤防・護岸と消波工を組み合わせて施工する線的防護方式が主流でした。この方式は最小限の用地幅で海岸堤防を建設するため、経済的かつ即効性があり、海岸保全の推進が容易でした。しかし、線的防護方式は施工後の時間経過とともに砂浜、捨石、消波工の順に消失し、最終的に水深の増加により波の打ち上げ高や越流量が増加しました。
また、それらの対策として堤防の嵩上げなどが行われましたが、海辺の景観は一変し、人と海を隔離する要因となりました。さらに、生態系も変化してしまい、海岸環境は悪化の一途をたどりました。
1970年代になると海岸侵食や漂砂のメカニズム解明に関する研究が活発に行われ、新たに面的防護方式が提案されました。面的防護方式は海岸線から離れた場所に離岸堤や潜堤を設けることで砂浜を創出し、波の打ち上げ高や越流量を減少させる方式です。そのため、堤防の高さを低くした緩傾斜にすることができ、海辺の景観を損なうことなく海岸保全が行えます。
海岸保全工法としては、①堤防および護岸、②防波堤、③水門、④突堤、⑤離岸堤および潜堤、⑥人工リーフ工法、⑦ヘッドランド工法、⑧サンドバイパス工法などがあります。
①堤防および護岸
堤防と護岸は高波や波の遡上による海水の侵入や海岸侵食を防止するために、海岸線に平行して設けられた構造物をいいます。両者は機能的にほぼ同じであることから、明確な区別はありません。
堤防および護岸は表法面の勾配と使用材料によって傾斜形、直立形、混成形に分類されます。傾斜形は表法面の勾配が1:1より緩やかな場合を指し、石張り式、コンクリート張り式、アスファルト張り式、階段式などがあります。一方、直立形は表法面が1:1より急な場合を指し、重力式(自立式)、扶壁式、ケーソン式などがあります。混成式は傾斜形と直立形を組み合わせたものです。
一般に、堤防は傾斜形と混成形、護岸は直立形が多いです。また、基礎の洗掘対策としては根固め工と消波工が挙げられます。根固め工には捨石やコンクリートブロック、消波工には異型コンクリートブロックがよく用いられます。
②防波堤
防波堤は波のエネルギーを反射または消散するための構造物であり、港内の静穏と船舶の安全を確保します。高潮や津波のような長周期波は水深が浅くなると波高が増大するため、大きな堤防や護岸を建設するよりも防波堤を築く方が経済的に良い場合が多いです。
③水門
長周期波対策として防波堤がありますが、防波堤を使用するためには市街地における用地の確保、防波堤による地盤沈下量の確認、都市景観などの問題を解決していく必要があり、事業を実施できない場合が多いです。水門は防波堤を建設できないときの長周期波対策として河川に設ける構造物をいい、長周期波の侵入を防止する機構と水門外の湾や河川に排出する機構に分けられます。
④突堤
突堤は海岸線に直角に突き出して設ける構造物であり、沿岸漂砂を制御する際に建設されます。突堤を建設すると、漂砂の上手側は砂が堆積し、下手側は砂が侵食します。そのため、突堤は単独で用いられることはなく、突堤群として使用されます。突堤群の設置は堆積・侵食の進行を早める恐れがあるため、突堤の長さ、高さ、配置間隔などをきちんと設計する必要があります。
ちなみに、突堤の構造形式としては、砂や底質を通過させる透過形、通過させない不透過形に大別されます。一般に、透過形は施行および維持管理が容易です。
⑤離岸堤および潜堤
離岸堤は海岸線に平行に設ける構造物であり、沖側に建設することで砂が堆積し、海岸侵食を防止することができます。突堤と同じように群として用いられることが多く、構造形式には連続形と不連続形があります。また、離岸堤の背後には舌状砂州やトロンボを形成することがあります。なお、常に水没している離岸堤を潜堤といい、潜堤の天端幅が30〜50 [m] 程度になると人工リーフと呼んでいます。潜堤は景観を損なうことなく海岸侵食を防止することができます。
⑥人工リーフ工法
人工リーフ工法は人工リーフを建設することで長周期波を砕波し、海浜の安定化を図る工法です。この工法はサンゴ礁の消波機能から着想を得ており、レクリエーションや生物の生息場など多目的に利用されています。最近では、人工リーフの表面被膜をコンクリートから自然石に変更することで、さらなる生態系の保全が図られています。
⑦ヘッドランド工法
ヘッドランド工法は直線的な海岸に人工岬(ヘッドランド)を設置することで循環流を発生させ、砂を堆積させる工法です。
⑧サンドバイパス工法
サンドバイパス工法は浚渫による土砂を侵食した海岸に運搬し、連続的に補給することにより港湾埋没対策と海岸侵食対策を同時に行う工法です。
まとめとして、日本の海岸保全の防護方式は線的防護形式から面的防護形式に遷移していきました。現在の海岸保全工法としては、堤防および護岸、防波堤、水門、突堤、離岸堤および潜堤、人工リーフ工法、ヘッドランド工法、サンドバイパス工法などが挙げられます。