河川や湖沼の水質は様々な指標を用いて判定されます。ここでは、主なものだけを述べていきます。
①色・味・匂い
色、味、匂いは個人差のある指標ではありますが、水質の状態を判別するためには非常に重要な要素です。また、採水して数時間または数日間静置した後に観察し、沈殿物の有無や濁りの変化を調べることも有用な判断材料となります。
②透明度・透視度
どちらも水の濁りを示す指標です。透明度はセッキ板(透明度板)と呼ばれる直径25 [cm] の白色の円盤を徐々に水中に沈めていき、見えなくなったときの深さ [m] で表されます。透視度は透明度計に試験水を入れ、真上から見て二重十字が明瞭に識別できる最大の水深 [cm] で表されます。
③水温
水温はそこに到達するまでの過程を推測するときに便利な指標となります。特に地下水の水温は一定であり、流入の有無を判断するときに使用されます。また、水中に生息する生物にとって水温は極めて重要な要素であり、生育する生物の種類を左右します。ちなみに、稲作をするためには17℃以上の水温が必要であり、農業用水の取水などには注意しないといけません。
④pH
pHは水の酸性、中性、塩基性(アルカリ性)を示す指標であり、次式によって定義されています。通常、5以下は酸性、5〜8は中性、8以上は塩基性となるのですが、地下水のように大気から隔離された水は生物作用により二酸化炭素が溶けんでいる場合があります。その結果、pHが低く測定されてしまうので、pHを測定する前は十分に通気する必要があります。
このとき、[H+] は水溶液中の水素イオンのモル濃度 [mol/l] です。
⑤電気伝導度
電気伝導度は水の電気伝導のしやすさを表す物理量であり、 [S/m] で表されます(Sはジーメンスと読む)。通常は25℃の水に対して用いられ、上流域では10〜30 [μS/cm]、下流域では200〜400 [μS/cm] 程度となります。これは流下しているときにカルシウムイオン、マグネシウムイオン、カリウムイオン、塩化物イオン、硫酸イオン、炭酸水素イオンなどの様々な物質が溶け込んでいるためです。ちなみに、電気抵抗との単位の互換性は次のようになっています。
⑥DO(溶存酸素量)
DOは水中に溶けている酸素量を表しており、単位は [mg/l] または [ppm] が用いられます。汚染水中には多量の有機物が含まれており、分解する際に酸素を消費します。その結果、汚染水のDOは清水より低い値になるのですが、このメカニズムを利用して水質汚濁の目安として使用されています。1気圧の純水で水温0℃のときは9.09 [mg/l]、水温20℃のときは14.62 [mg/l] となります。
河川においては、上流域の渓流では水面が波立つために溶存酸素量は高く、下流域に近づくにつれて有機物の流入が増えるために溶存酸素量は低くなります。目安としては、7 [mg/l] 以上でサケ・マスなどが孵化できる環境、5 [mg/l] 以上で河川水が良好に保てる環境、3 [mg/l] 以上で魚介類が生息できる環境、2 [mg/l] 以上で好気性微生物が活動できる環境、2 [mg/l] 以下で嫌気性細菌が活動できる環境となります。
⑦BOD(生物化学的酸素要求量)
細菌は独立栄養細菌(主な炭素源として二酸化炭素を利用する細菌)と従属栄養細菌(主な炭素源として有機物を利用する細菌)に分けられます。BODは水中に存在する有機物を従属栄養細菌によって酸化(分解)するときに消費された酸素量を表しており、間接的に水中の有機物量を示しています。
BODは密閉した水を暗所(光合成によって新たに酸素を供給されないため)で静置し、5日間経過させ、そのときのDOの減少量で表されます。河川は流下時間が短く、その間に酸化される有機物のみを対象とすればいいため、BODは河川水質の指標として利用されます。
また、アンモニア酸化細菌は酸素を消費してアンモニアを硝酸に変える細菌であり、BODは必ずしも有機物の量のみを表しているわけではありません。そこで、有機物の酸化に伴う酸素の消費量をC-BOD、硝化反応に伴う酸素の消費量をN-BODと分ける場合もあります。
⑧COD(化学的酸素要求量)
CODは水中に存在する有機物を酸化剤によって酸化するときに消費された酸素量を表しています。BODは従属栄養細菌が酸化できる有機物だけだったのに対し、CODは酸化剤によって全ての有機物を酸化するため、間接的に水中の全有機物量を示しています。そのため、流れのある河川(難分解性有機物を分解できる時間がない環境のとき)はBOD、流れのない海岸や湖沼(難分解性有機物を分解できる時間がある環境のとき)はCODを水質指標として使用します。
酸化剤としては過マンガン酸カリウム(CODMn)と二クロム酸カリウム(CODCr)があり、世界標準はCODCrとなっています。CODCrは最も酸化力が強いためほぼ全量の有機物を酸化することができますが、一方でクロムは環境問題や公害問題の代表物質でもあります。そのため、日本では、環境指標を測るために環境汚染物質を使用するのは良くないとの観点から、CODMnが最も使用されています。
⑨TOC(全有機炭素)
BODやCODは従属栄養細菌や酸化剤を使って間接的に有機物量を測定する方法でしたが、TOCは水中の有機物を酸化したときに発生する二酸化炭素の量を測定することにより有機物量を測る方法です。測定するときは有機物を高温で燃焼させ、その際に発生する二酸化炭素を赤外線により分析します。
⑩ORP(酸化還元電位)
ORPは水中の酸化力または還元力の強さを表す指標であり、酸化状態は正、還元状態は負の値になります。酸化還元が起きるときの電子の移動によって生じた電位差(電圧)を測定しており、単位は [V] または [mV] によって表されます。pH7.0、水温25℃で酸素が飽和した水のORPは理論的には0.8 [V]、通常は0.4〜0.6 [V] の値となります。
⑪SS(浮遊性質量)
SSは水中に浮遊する粒径2 [mm] 以下の不溶解性物質の量を表しており、水の濁り具合を示す指標として使用されます。そのため、SSが高いと水質汚濁が進んでいるといえます。SSが高ければ水中の生物の呼吸が困難になり、光合成による酸素の供給がされないために嫌気性細菌が優占しやすくなります。
⑫大腸菌群数
大腸菌群数は大腸菌および大腸菌に性質が似ている細菌の数を指し、単位は [MPN] を使います。[MPN] は確率論によって求められた最確値を表しています。河川での大腸菌群数は類型毎に基準値が設けられています。
まとめとして、河川の水質は色・味・匂い、透明度・透視度、水温、pH、電気伝導度、DO、BOD、COD、TOC、ORP、SS、大腸菌群数があります。