波が深海波から浅海波に伝搬してくると、水深の減少により底面流速や底面せん断応力が増大し、底質の移動が始まります。これを移動限界といい、このときの水深を移動限界水深といいます。移動限界水深は100 [m] 程度に及ぶこともありますが、ここでは構造物の設計に関与する10 [m] 程度の水深についての現象を述べていきます。また、移動限界水深は室内実験や現場試験の結果から次式で表すことができます。
このとき、dは底質の粒径 [m]、hiは移動限界水深 [m]、αとnは実験定数です。
移動限界水深は底質の移動状態によって四つに分類することができます。
①初期移動:底質のいくつかが移動し始める状態
②全面移動:底質の表層粒子が移動する状態
③表層移動:底質の表層粒子が集団で同時に移動する状態
④完全移動:水深の変化が明確になるほど移動する状態
実験定数であるαとnは移動状態によって値が異なってきます。異なる理由としては移動限界の判定の違いや条件の違いが挙げられるのですが、その中でも下表の値がよく用いられています。
また、定常流での底質に作用する抗力と重量の釣り合い条件から得られるシールズ数を用いると、底質の初期移動の限界を表すことができます。シールズ数は以下の式変形により求めることができます。
このとき、FTは全波力 [N]、FLは揚力 [N]、Kは初期移動に関する定数、τbcは移動限界せん断応力 [N/m2] です。
また、粒子が小さいことから揚力は無視できるとすると、次のように式変形が行なえます。
このとき、sは水中比重、ψcは移動限界シールズ数です。
底面が滑面の場合のシールズ数は0.07、粗面の場合のシールズ数は0.05程度となります。
では、例題を1問解いていきます。
例題1:海底勾配1/20の海岸に沖波波高2.5 [m]、周期5 [s] の波が入射するとき、底質が完全移動するときの水深と波高を求めよ。ただし、底質の粒径は0.8 [mm] とする。
まずは、沖波波長を求め、移動限界水深の式に代入します。
次に、浅水係数を求めていきます。浅水係数は移動限界水深の式と同じ値にならないといけないため、繰り返し計算によりkhiを求めていきます。
では、移動限界水深とそのときの波高を計算します。
まとめとして、水深の減少すると底質の移動が始まります。これを移動限界といい、このときの水深を移動限界水深といいます。移動限界水深は初期移動、全面移動、表層移動、完全移動の四つに分類することができ、それぞれの実験定数が求められています。また、定常流の場合はシールズ数を用いると、初期移動の限界を知ることができます。