不規則波を表現するもう一つの方法がスペクトル解析法です。不規則波の水面波形は異なる波高、波数、周波数をもつ無限の正弦波の重ね合わせと考えることができ、次式のように表すことができます。
このとき、aは波の振幅 [m]、kは波数 [m]、θは波の進行角度 [rad]、fは波の周波数 [Hz]、εは波の位相です。
いま、周波数と進行角度がある任意区間にあるとき、全エネルギーを次式のように定義します。
上式より波高または振幅はエネルギーで表すことができます。このように定義されるS( f ,θ)を波のエネルギースペクトルの密度関数といい、特に上式は周波数と方向角の関数であることから方向スペクトルといいます。この方向スペクトルは周波数スペクトルを用いて次式のように表すことができます。
S(f)は周波数スペクトル [m2/s] であり、様々な式が考案されています。ここでは、代表的な周波数スペクトルを示していきます。また、G(θ|f)は方向分布関数と呼ばれています。
①ピアソン・モスコビッツ型
これは外洋で一定風速の風が長い距離を吹送して、波が発達しきった状態の周波数スペクトルを表しており、船体に取り付けた水圧式波高計によって測定された風波を解析して求めています。風波については5.3 風波を参照して下さい。ピアソン・モスコビッツ型の式は次のように表されます。
このとき、U19.5は海面から高さ19.5 [m] における風速 [m/s] です。
②ブレットシュナイダー・光易型
これは外洋で風が有限な距離を吹送して、波が発達している状態の周波数スペクトルを表しており、ブレットシュナイダーが提案した係数を光易が修正して提示しました。この式は実測あるいは推算によって統計的に代表波の波高や周期が与えられているときに使用することができます。
また、光易は一般形の近似式として以下の式も提案しています。
このとき、Fは吹送距離 [m]、U10は海面から高さ10 [m] における風速 [m/s] です。
③JONSWAP型
これは北海道の波浪共同観測計画(JONSWAP)の観測結果に基づいて提案された周波数スペクトルであり、次式によって表されます。
このとき、Tpは周波数スペクトルのピーク周期 [s]、fpは周波数スペクトルのピーク周波数 [Hz] です。
JONSWAP型も風が有限距離を吹送したときの波の発達過程を表した周波数スペクトルであり、γ=1のときはブレットシュナイダー・光易型とほぼ同じ値となります。
方向分布関数の標準形としては光易型が良く用いられています。
このとき、Sは波のエネルギーの方向集中度を表すパラメータ、Γはガンマ関数です。
なお、Smaxは次のような値が提案されています。
まとめとして、スペクトル解析法は不規則波の水面波形を無限の正弦波を重ね合わせることで表現しており、そのエネルギーが各周波数に対してどうのように分布しているかを表したものを周波数スペクトルといいます。また、周波数スペクトルは方向の情報をもたないので、方向分布関数を乗じてあげれば方向スペクトルが求まります。