実際に発生している波はこれまでのような規則波ではなく、下図のように様々な周期と波高の波が重なり合った不規則な波となります。この不規則波を取り扱う方法としては、統計的な代表値によって一群の波を表現する方法(波別解析法)、エネルギースペクトルによって表現する方法(スペクトル解析法)があります。ここでは、波別解析法について説明していきます。
波別解析法は個々の波を記録するところから始まります。波の定常性を確保するために、通常20分間波浪を計測し、その波の数は200〜300に上ります。波を定義する方法としてはゼロアップクロス法とゼロダウンクロス法があります。
ゼロアップクロス法は平均水位を波形が上昇しながら超えたときを始点として波長を決める方法であり、日本ではこの方法が採用されています。一方、ゼロダウンクロス法は平均水位を波形が下降しながら超えたときを始点として波長を決める方法であり、砕波を含めた浅海波や長波を取り扱うときに適しています。そのため、国際的にはこの方法が採用されています。
この定義した多数の波を統計的に使用するためには代表波を決める必要があり、代表波としては最大波、1/10最大波、1/3最大波、平均波が挙げられます。
①最大波(Hmax、Tmax)は計測された波の中で最大の波高と周期をもつ波です。この波は海岸・海洋構造物の設計波として用いられます。
②1/10最大波(H1/10、T1/10)は計測した波を波高の大きい順に並べ、全体数の1/10を大きい方から平均したときの波高と周期をもつ波です。
③1/3最大波(H1/3、T1/3)は計測した波を波高の大きい順に並べ、全体数の1/3を大きい方から平均したときの波高と周期をもつ波です。この波は有義波とも呼ばれ、波浪を推算するときに用いられます。
④平均波(Have、Tave)は計測された波を全て平均したときの波高と周期をもつ波です。
ロンゲット・ヒギンスは1つの波群の中で波高がそのような頻度で出現するかを確率密度関数の一つであるレイリー分布によって理論的に求めました。その結果、20分間計測したときの平均波高、平均周期、波の数があれば最大波、1/10最大波、1/3最大波の波高と周期を統計的に求めることができるようになりました。このレイリー分布は次式によって表されます。
波高をレイリー分布の確率密度関数で表していきます。波高の確率密度関数の図も示しておきます。
任意の値Hよりも大きな波高が出現する確率は、次のようにして求められます。
従って、1/3最大波の波高は次のように表すことができます。
計算の結果、1/3最大波と1/10最大波の波高は次の関係が得られています。
次に、最大波の波高について考えていきますが、確定値を与えることはできません。しかし、統計的に最頻値を用いて表すことができます。
このとき、γはオイラー定数であり、0.5772となります。
上式より最大波の波高は観測される波の数が多くなるほど、値も大きくなることが分かります。また、構造物を設計するときは安全 性を考慮して、次式が用いられています。例えば、防波堤は1.8H1/3、海洋鋼構造物は2.0H1/3の値が使用されています。
波の周期を確率密度関数で表した式もあるのですが、波群の中の周期のばらつきは波高よりも小さく、平均周期の0.5〜2.0倍の範囲にあることが多いです。そのため、経験則として以下の式がよく用いられています。
では、例題を1問解いていきます。
例題1:20分間の水位観測の結果、平均周期が10 [s]、平均波高が5 [m] であった。この場合の1/3最大波(有義波)、1/10最大波、最大波の波高を求めよ。
値を代入するだけですので、直接計算していきます。
まとめとして、不規則波を取り扱う方法としては、波別解析法とスペクトル解析法があります。波別解析法は個々の波を記録し、ゼロアップクロス法またはゼロダウンクロス法によって波を定義していきます。この定義した多数の波を統計的に使用するためには代表波を決める必要があり、この代表波には最大波、1/10最大波、1/3最大波、平均波があります。これら代表波の波高と周期はレイリー分布による計算の結果、平均周期と平均波高があれば簡単に求めることができます。