1.3 水の毛細管現象

毛細管現象とは、液体中に細い管(毛細管)を入れると、管内の水面が管外の水面より高くなったり低くなったりする現象をいいます。

水の中にガラス管を入れると、管の円周付近の水面がほんの少し上昇します。このガラス管の円周に発生する力は1.2 水の表面張力で説明した表面張力です。また、鉛直方向に作用する表面張力の合力を付着力といいます。毛細管現象は液体とガラス管の関係が非常に重要です。水とガラス管は親水性ですので濡れようとして水面は上昇します。一方で、水銀とガラス管が疎水性なので水を弾こうとして水面は下降します。

余談になりますが、水面上昇よって生じた曲面をメニスカスと呼びます。メニスカスはギリシャ語で三日月を意味し、水面が上昇したときは凹型メニスカス、水面が下降したときは凸型メニスカスを形成します。一般的に、凹型メニスカスは下面の目盛りを読み、凸型メニスカスは上面の目盛りを読みます。そうしないと、読む人によって目盛りの値が異なってきます。実験実習の際に注意してみて下さい。

では、表面張力による水の上昇量を力の釣り合い式から求めていきます。​

まず、水面が最高点まで上昇したとします。このとき、鉛直方向に働いている力は付着力と水の重量の2つです。実際には、管内の水面に大気圧が作用しているのですが、パスカルの原理により同じ大きさの圧力が管内の下面にも作用します。パスカルの原理とは、『密閉された容器に圧力をかけるとその容器の形に関係なく他のすべての部分に伝える』という基本原理のことです。そのため、大気圧は無視することができ、重量と付着力の釣り合いの式から表面張力による水の上昇量が求まります。

このとき、Dは管の直径 [m]、hは水の高さ [m]、Tは表面張力 [N/m] です。

毛細管現象により変動する水面は、密度、重力加速度、管径が小さいほど大きく上下に変動することがわかります。例題を問いてみましょう。

例題:4 [℃] の水に管径1 [mm] のよく磨いたガラス管をたてるとどのくらい水面が上昇するのか計算せよ。ただし、水の密度と表面張力の温度による変化量を考慮すること。

表面張力による高さの式に値を代入すれば上昇量が求まります。

まとめとして、液体中に細い管に入れると管内の液体表面が上下に変動します。この現象を毛細管現象と言います。毛細管現象は水が持つエネルギーを測定する時に非常に役立ちますので、頭の片隅に入れておいて下さい。

少しだけマニアックな話をします。飛ばしても構いません。

①毛細管現象はどのくらいの管径まで起きるのでしょうか。

まず、管径が大きい場合を考えましょう。上の式からわかるように、管径が大きければ大きいほど上昇する水面の高さは減少していきます。ですので、管径が大きくても毛細管現象は起きるのですが、観測できなくなると考えるのが妥当でしょう。次に、管径が小さい場合です。毛細管現象は管径10 [nm] 程度でも起きることが確認されているそうです。それより小さくなると水分子と管径が同じくらいの大きさになるため、通常の毛細管現象とは挙動が変わってくるそうです。ちなみに、水分子の大きさは約0.3 [nm] です。

②毛細管現象で永久機関を作り出すことは可能なのでしょうか。

永久機関とは、外部からエネルギーを貰うことなく仕事を永遠にし続ける装置のことをいいます。昔の人は、毛細管現象を用いて永久機関が作り出せるのではないかと考えました。まず、水に直径0.01 [mm] のガラス管を入れたとします。すると、毛細管現象により水面が上昇高さが1.5 [m] まで上がります。このとき、ガラス管を1 [m] の高さで切断します。しかし、水は1.5 [m] まで上がろうとしますからガラス管から溢れ出てくることでしょう。溢れた水は下に落ちていき、また、毛細管現象により水が吸い上げられていきます。その結果、外部からエネルギーを与えることなく仕事をし続けることができる機関ができてしまいます。

物理学を少しでも勉強すればわかるのですが、永久機関を行う装置はこの世界では作り出すことができません。毛細管現象を利用した装置も同じです。では、なぜ永久機関にならないか説明しましょう。毛細管現象というのは、上でも説明したとおり、表面張力によって水面が引っ張り上げられる現象のことです。この表面張力というのは、ガラス管との接触角によって発生しています。水が1mの高さまで上がれば、ガラス管がないため次は空気と触れ合うことになります。1.2 水の表面張力でも説明したとおり、空気と触れ合った水は安定になろうとして表面積を小さくし始めます。そのため、水がガラス管から溢れでることなく、ガラス管の上で水はとどまってしまうのです。。