海岸の防護・保全に関する法律としては海岸法、河川法、災害対策基本法などがあります。海岸の開発・利用や管理・運営に関する法律としては港湾法、漁業法などがあります。海岸環境の保全・整備に関する法律としては環境基本法、水質汚濁防止法などがあります。
①海岸法
海岸法は海岸保全のための基本法であり、1956年(昭和31年)に「津波、高潮、波浪などから海岸を防護すること」を目的に制定されました。制定当時は海岸のレジャー利用の規模が小さく、その頻度も夏のみに限られていましたが、時間が経過するにつれて利用者の増加、新しい構造物の設置と海岸法の枠組みでは縛ることができなくなっていきました。その状況を踏まえ、1999年(平成11年)には「海岸環境の整備と保全」「公衆の海岸の適正な利用」を追加した抜本的な内容に改正されました。さらに、2014年(平成26年)には減災機能を有する海岸保全施設の推進、海岸保全施設の適切な管理・運用の推進、水門などの操作規則の策定を追加した内容に改正されました。
②河川法
旧河川法は1986年(明治29年)に治水を目的に制定されました。また、1897年(明治30年)には砂防法(砂防施設などの管理・運用を目的とした法律)と森林法(森林の生産力向上を目的とした法律)が制定され、この三つを合わせて治水三法と呼んでいました。旧河川法は河川を一級水系、二級水系と重要度によって分類し、その重要度によって管理する機関を決めていました。ところが、1911年(明治44年)になると電気事業法(電気事業および電気工作物の保安の確保を目的とした法律)が施行され、全国各地で水力発電を目的とした河川開発が行われるようになります。また、上下水道の需要も高まったこともあり、1964年(昭和39年)には利水を取り入れた新河川法が制定されました。その後、1997年(平成9年)には河川環境の整備と保全を目的に加えた改正がなされました。
③災害対策基本法
災害対策基本法は1959年(昭和34年)に「国土や国民の生命を災害から保護するために防災計画の作成、災害予防、災害応急対策、災害復旧、防災に関する財政金融措置、防災行政責任の明確化などの体制を確立すること」を目的に制定されました。同年は伊勢湾台風(死者は約4,700人、行方不明者は約401人、負傷者は約39,000人にのぼる最悪の被害をもたらした台風)により被災しており、この法律の制定には伊勢湾台風が背景にあります。
④港湾法
港湾法は1950年(昭和25年)に「港湾の秩序ある整備と適切な運営を図るために港湾の種類、港湾区域および管理者の指定、港湾の開発・維持管理・運営、航路の開発などの体制を確立すること」を目的に制定されました。
⑤漁業法
漁業法は1949年(昭和24年)に「漁業の総合的な利用による発展をするために漁業生産力の向上、漁業の民主化などの体制の確立すること」を目的に制定されました。漁業水産に関する基本法であり、漁業権や入漁権はこの法律によって保護されています。なお、漁業法の以前にも1901年(明治34年)に旧漁業法が制定されており、漁業法の根幹を形成しました。
⑥環境基本法
環境基本法は1993年(平成5年)に「環境保全について基本理念を定め、国・地方公共団体・事業者・国民の義務を明らかにすること、現在および将来の国民の健康や生活を確保をすること、人類の幸福に貢献すること」を目的に制定されました。環境基本法が制定される以前は、公害対策を公害対策基本法、自然環境対策を自然環境保全法で行っていましたが、複雑化・拡大化する環境問題に対応することができませんでした。環境基本法が施行された後は、公害対策基本法は廃止され、自然環境保全法は環境基本法の趣旨に沿って改正されました。その他の環境基本法に関連する法律としては、1957年(昭和32年)に制定された自然公園法、1997年(平成9年)に制定された環境影響評価法があります。
⑦水質汚濁防止法
水質汚濁防止法は1970年(昭和45年)に「工場排水や事業者からの排水および地下浸透水を制限し、生活排水対策を実施すること、公共用水域および地下水の水質汚濁を防止すること、国民の健康を保護するとともに生活環境を保全すること、事業者の賠償責任を定めること、被害者を保護すること」を目的に制定されました。水質汚濁防止法ではシアン化合物(カドミウムおよびその化合物)、有機リン酸化合物、鉛、六価クロム、ヒ素、水銀、四塩化炭素、ベンゼン、ホウ素、フッ素、セレン、アンモニアなどが規制されています。ちなみに、環境基本法の施工後は1958年(昭和33年)に制定された水質保全法、工場排水規制法が廃止されています。また、公共用水域とは河川・港湾・湖沼・水路などの総称を意味しています。ただし、下水道は含まれません。
まとめとして、海岸に関する法律としては、海岸法、河川法、災害対策基本法、港湾法、漁業法、環境基本法、水質汚濁防止法などがあります。