Fe2O3やFe3O4などの酸化鉄を含む鉄鉱石を溶鉱炉(高炉)によって溶融・還元したものが鉄(銑鉄)です。鉄は1.7%以上の炭素を含んでいるので非常に硬いのですが、同時に脆い性質も持っています。熱を加えると少し力を加えただけで崩れてしまいます。しかし、炭素が多い分溶けやすいので、鋳物の材料として利用されます。
鉄に含まれる炭素や不純物を製鋼炉で取り除き、炭素含有量が1.7%未満になったものを鋼と呼びます。鋼は常温では簡単には曲がらず、熱を加えることでより強靱になります。
鋼には炭素(C)の他にケイ素(Si)、マンガン(Mn)、リン(P)、硫黄(S)が微量に混ざっており、これらを鋼の五元素といいます。また、水素(H)や窒素(N)が混入すると鋼の機械的性質が著しく阻害されます。これらの作用をまとめると以下の通りになります。
①炭素
鋼にとって最も重要な元素であり、含有量が1%上昇すると引張応力が1,000 [N/mm2] 増加します。一方で、衝撃や伸びには弱くなります。
②ケイ素
約2%まで含有することができ、鋼に耐熱性を与えます。また、含有量が1%上昇すると引張り応力が100 [N/mm2] 増加します。
③マンガン
焼きがよく入るようになる元素であり、値段が安価です。また、鋼の靭性(大きな変形でも破壊しない性質)を高めることができ、高張力鋼には1.2〜1.5%ほど含有されています。Sによる脆性(小さな変形で破壊する性質)を防ぐ効果もあります。
④リン
鋼には有害な元素であり、低温脆性(常温より低い低温時に脆くさせる性質)を起こします。また、集団結合する性質が強いために含有量が0.03%以下に制限されています。
⑤硫黄
リンと同様に有害な元素であり、赤熱脆性(900℃〜1000℃の高温時に脆くさせる性質)を起こします。そのため、含有量が0.03%以下に制限されています。
⑥水素
微量に存在するだけで鋼の性質に大きな影響を及ぼし、水素脆性を起こします。そのため、真空溶解や脱ガス溶解などの脱水素によって対策が行われています。
⑦窒素
空気中に存在する窒素が侵入することで、各種の窒素化合物を生成します。その結果、青熱脆性(常温より少し高い200℃〜400℃のときに脆くさせる性質)や低温脆性の原因となります。
ちなみに、鋼は普通鋼と特殊鋼に分類することができます。鉄(Fe)に炭素(C)だけ入った鋼が普通鋼であり、普通鋼にニッケル(Ni)、クロム(Cr)、モリブデン(Mo)、バナジウム(V)、タングステン(W)などの元素を添加したものが特殊鋼です。特殊鋼は添加する元素によって色々な特性をもたせることができます。
まとめとして、鉄鉱石を還元したものを鉄、鉄の炭素や不純物を取り除いたものを鋼といいます。鋼には炭素、ケイ素、マンガン、リン、硫黄が含まれており、これらを鋼の五元素と呼びます。