8.3 円弧すべりの安定計算

円弧すべりはすべり面の位置や半径を変化させ、最小となる安全率を探すことで安全性を検討していきます。また、安全率が最小となるすべり面を臨界円といいます。仮定したすべり面を求める方法としては、二次元の安定解析法としてフェレニウス法簡易ビショップ法簡易ヤンブ法、三次元の安定解析法としてホフランド法があります。ここでは、二次元の安定解析法について紹介します。

①フェレニウス法

フェレニウス法はフェレニウスによって提案された解析法であり、分割法やスウェーデン法とも呼ばれます。モーメントの釣り合い式から円弧すべりの安全率を誘導した式であり、計算が簡単なためによく用いられています。しかし、計算結果の誤差が大きいデメリットもあります。まずは、回転モーメントと抵抗モーメントを求めていきます。

このとき、M0は回転モーメント [N・m]、Mrは抵抗モーメント [N・m]、lは分割片のすべり面長 [m]、θは分割片のすべり面傾斜角 [rad] です。

従って、安全率は次式で表わされます。

また、間隙水や地震を考慮したときのすべりに対する安全率は次式のようになります。

しかし、この考え方ではすべり面の角度が大きくなると間隙水圧が過剰に算出されてしまい、場合によっては垂直応力がマイナスとなることもあります。この不具合を解消するために、間隙水圧を浮力として扱い、次のようにして安全率を求めます。

この方法を修正フェレニウス法といい、日本では標準的な安定計算手法として採用されています。

②簡易ビショップ法

簡易ビショップ法は安全率を反復法によって求める手法であり、修正フェレニウス法より誤差が小さく実用的な式です。通常のビショップ法は分割片の両側に作用するせん断力も考慮した式なのですが計算が面倒であり、せん断力を考慮しなくても誤差が少ないため簡易ビショップ法が広く利用されています。まずは、鉛直方向の釣り合い式を考えていきます。

ここで、底面での釣り合いを考えると、簡易ビショップ法の安全率の式が求まります。

③簡易ヤンブ法

簡易ヤンブ法はすべり面が複雑な非円弧すべりにも対応する安定解析の式です。また、簡易ビショップ法と同様に、簡易ヤンブ法も分割片の両側に作用するせん断力を考慮しません。簡易ヤンブ法は水平方向と鉛直方向の釣り合いから安全率を求めます。

このとき、Qは水平外力 [N]、f0は修正係数 [単位なし]、Lはすべり面の先端から亀裂までの距離 [m]、dは直線からすべり面までの距離 [m] です。

修正係数は安全率を補正するために乗じた係数であり、d/Lが0.02以下のときは1.0となります。また、d/Lは下図のように求めます。

その他の円弧すべりを解析する手法としては、スペンサー法などがあるのですが、実務ではほとんど利用されませんので割愛します。

まとめとして、実務で使われる円弧すべりの解析案としてはフェレニウス法、修正フェレニウス法、簡易ビショップ法、簡易ヤンブ法があります。