土中に水の流れがあるとき、流れの向きに沿って応力が作用します。この応力は2つに分けることができます。1つは、土粒子と土粒子の接点を通して伝えられる粒子間応力です。粒子間応力は一般的に有効応力と呼ばれます。もう1つは、間隙を満たしている水に伝えられる中立応力です。中立応力ではイメージしにくいので、土質学では間隙水圧と呼ばれます。下図は水の流れが発生しておらず、力は釣り合っているとします。このとき、微小要素にかかる応力を式で表すと次のようになります。
このとき、σは全応力 [kN/m2]、σ'は有効応力 [kN/m2]、uは間隙水圧 [kN/m2] です。
また、この式から有効応力も求めることができます。
次に、水の流れが発生しているときを考えていきます。水の流れは2つあり、矢板の外側の水位が高い場合と低い場合に分けられます。水位が高い場合は矢板の外側から内側に向かって水が流れようとし、低い場合は矢板の内側から外側に水が流れようとします。図にすると次のような感じです。
水位が高い場合
水位が低い場合
このとき、土粒子は水の流れる方向に圧力を受けます。この圧力を浸透水圧または浸透圧といい、浸透水圧の分だけ有効応力が増減します。水位が高い場合は浸透水圧が浮力のような働きをするため、有効応力は減少します。一方、水位が低い場合は下向きの圧力が加わるため、有効応力は増加します。
浸透水圧は土の微小要素の位置により値が変化し、動水勾配と静水圧の式から求めることができます。また、浸透水圧が作用するときの有効応力も次式で求まります。
このとき、Uwは浸透水圧 [kN/m2]です。
有効応力が増加するときはいいのですが、減少するときに問題が発生していきます。矢板の水位をどんどん高くすると浸透水圧が高くなり、有効応力は0に近づいていきます。このとき、砂のような粘着力のない土では、上向きに作用する浸透水圧によって土粒子が水に浮いたような現象が起こります。このような現象をクイックサンドといい、クイックサンドが起こらない限界状態は動水勾配から求めることができます。
限界動水勾配は土粒子の比重と間隙比が求まれば計算することができます。また、クイックサンドは限界動水勾配より動水勾配が大きくなれば生じることとなります。
クイックサンドは砂が沸騰したような現象を呈していることからボイリングとも呼ばれており、砂質土の弱いところを通って生じたボイリングをパイピングと言います。また、粘土のような透水性の低い土は、土粒子間に粘着力があるためにクイックサンドのような現象は起きませんが、代わりに上向きに作用する浸透水圧によって土表面が徐々に膨れ上がるときがあります。この現象をヒービングと呼びます。クイックサンド(ボイリング、パイピング)やヒービングによる土の破壊が予想されるときは、浸透水圧を減らすか、地盤に荷重を加え有効応力を大きくするなどの対策をする必要があります。
では、例題を1問解いて終わりとしましょう。
例題:下図のような砂地盤に根入れ深さDの矢板を入れるとき、クイックサンドに対する安全性を検討せよ。ただし、水位差はH、間隙比は0.7、土粒子の比重は2.7とする。
まずは、有効応力を求めていきましょう。
水中単位体積重量γsubは限界動水勾配の式を使って次のように式変形することができます。
有効応力σ'が0以上であれば安全であるため、D>H/2で安全となります。
まとめとして、土には有効応力(粒子間応力)と間隙水圧(中立応力)の2つの応力が常に作用しています。この土中に水の流れがあると浸透水圧が作用し始め、浸透水圧が上向きに作用すれば有効応力は減少し、下向きに作用すれば有効応力は増加します。また、有効応力が0になると、砂のような透水性の高い土ではクイックサンド、粘土のような透水性の低い土ではヒービングが起きます。