3.5 平面線形では幅員、曲線半径、片勾配などの基準を設けてきましたが、その中でも非常に重要なのが視距です。視距は運転者が車線の中心線上1.2 [m] の高さから同じ車線の中心線上にある高さ0.1 [m] の物の頂点を見通すことができる距離であり、道路構造令では下表の値以上を基準としています。運転者は道路を目で追いながら自動車を操作するため、幅員や曲線半径が基準を満たしていても十分な視距が確保されていなければ、その道路の安全性や快適性は損なわれているといえます。
視距には制動停止視距と追越視距があります。制動停止距離はドライバーが道路上の物体を認識してから停止するまでに必要な距離であり、次式によって求めることができます。また、反応時間を2.5 [s] とすれば、さらに式を簡略化することができます。
このとき、Dは制動停止視距 [m]、tは反応時間 [s]、Vは走行速度 [km/h]、fは縦すべり摩擦係数です。
縦すべり摩擦係数の値はタイヤ条件、路面条件、制動条件、積雪状況によって異なる値をとり、道路構造令では下表のように設定しています。このとき、湿潤状態の路面を考慮して、走行速度は設計速度が80〜120 [km/h] のときは設計速度の85%、40〜60 [km/h] のときは設計速度の90%、20〜30 [km/h] のときは設計速度の100%を採用しています。
設計速度が20または30 [km/h] の第3種第5級および第4種第4級の道路は1車線道路であり、対向する自動車がお互いに相手を認識してから制動停止するため、視距は2倍必要となります。しかし、第3種第5級および第4種第4級の道路は良い線形の道路を作ることは難しく、そこまでの視距を確保することが難しいため、道路反射鏡(カーブミラー)など何らかの方法によって対向車を確認できるようにすれば、設計に用いる視距はそれぞれ20 [m]、30 [m] にまで下げることができます。
追越視距は運転者が車道の中心線上1.2 [m] の高さから同じ車道の中心線上にある高さ1.2 [m] の物の頂点を見通すことができる距離をいい、計算するときは4つの距離を計算する必要があります。
①追越しが可能であると判断し、加速しながら対向車線に移行するまでの走行距離、②追越しを開始してから完了するまでの対向車線上の走行距離、③追越完了時の追越車と対向車の車間距離、④追越車が追越しを完了するまでの対向車の走行距離であり、次式によって表されます。
このとき、Dは追越視距 [m]、d1は加速走行距離 [m]、d2は対向車線走行距離 [m]、d3は対向車間距離 [m]、d4は対向車走行距離 [m]、V0は被追越車(追越しされる自動車)の走行速度 [km/h]、t1は加速時間 [s]、aは平均加速度 [m/s2]、Vは追越車または対向車の走行速度 [km/h]、t2は対向車線走行時間 [s] です。
また、最小追越視距は次式によって表されます。
このとき、D'は最小追越視距 [m] です。
各走行速度に対する追越視距および最小追越視距は下表のようになります。
追越視距は非常に長いため、道路設計をするときに全ての区間で確保することは不経済といえます。そこで、運転者が不快にならないよう適度に追越視距を確保する必要があり、2車線道路においては最低1分間走行するうちに1回、やむを得ない場合でも3分間走行するうちに1回は追越視距の区間を確保することが望ましいです。全延長に対する追越視距区間で表せば、下表のように30%以上、やむを得ない場合でも10%の区間を確保する必要があります。
まとめとして、視距は運転者が車線の中心線上1.2 [m] の高さから同じ車線の中心線上にある高さ0.1 [m] の物の頂点を見通すことができる距離であり、制動停止視距と追越視距があります。どんなに高規格な道路でも視距が確保できなければ安全性、快適性が損なわれるため、非常に重要な要素といえます。