貯水池による問題としては富栄養化現象、冷水放流現象、濁水長期化現象、堆砂現象が挙げられます。貯水池はこれら問題によって水質が低下しないように水温、滞留時間、栄養塩濃度、pH、日射量などが測定されています。
①富栄養化現象
富栄養化現象は貯水池などが貧栄養状態から富栄養状態へと移行する現象のことをいいます。富栄養化が進行した貯水池は窒素化合物やリンなどの栄養塩濃度が高いため、太陽光の当たる水面付近では植物プランクトン(シアノバクテリア)が光合成によって急激に増殖していきます。その結果、太陽光の当たる水深はどんどん小さくなっていき、嫌気性微生物が増える要因となります。
異常増殖したプランクトン群集は死滅、沈降し、水底で有機物の酸化分解が進行していきます。このとき、有機物の酸化分解に酸素を消費します。そのため、 溶存酸素量(DO:水中に溶存する酸素量)が急激に低下し、水面付近以外の好気性細菌は死滅することとなります。さらに悪化すると、ヘドロが堆積して増殖に酸素を必要としない嫌気性細菌が優占し始めます。この嫌気性微生物が発生させるメタンガスや硫化水素は悪臭の原因となります。プロセスをまとめると次のようになります。
富栄養化対策としては浅層曝気設備が最もよく使用されます。一般に、夏季の貯水池の水温は水面で最も高く、水深が深くなるにつれて低くなります。そのため、水の密度差によって上下の水が混合しにくくなり、水温が急変する水温躍層が形成されます。水温躍層より表層は藍藻類の増殖に適した高水温となり、光が届く有光層内で藻類や植物プランクトンの増殖が活発になります。浅層曝気設備は曝気をすることにより浅層の循環を促進して表層水温を低下させ、藻類や植物プランクトンを無光層へと連行します。また、表層の藻類や植物プランクトンの濃度を希釈する効果や酸素供給効果もあります。その結果、増殖を抑えることができるようになります。
②冷水放流現象
一般に、春から夏にかけて貯水池の表層が温められ、温度躍層を形成します。一方、深層は無光層であるために暖められることはなく、常に低い温度を一定に保っています。通常、河川における動植物の営みや稲作等は河川水温の季節変化に適合した形で成立しています。そのため、貯水池の深層から冷水を放流することで河川における生態系、水稲栽培、漁業に影響を与えることがあります。この現象を冷水放流現象といいます。
冷水放流現象は表層付近から取水をすることで回避することができます。ただし、表層の水量には限りがあり、洪水期制限水位(洪水期に洪水調節容量を確保するために常時満水位よりも低くした水位)への移行時や利水補給などにより表層の温かい水がなくなると、下層の冷水を放流しなければいけません。この場合、支障の無い時期にあらかじめ冷水を放流し、温水を残しておくなどの工夫が必要となります。
一方、秋から冬にかけては河川の水温よりも温かい水を放流する温水放流現象を生じる場合があります。この場合は、河川水と同程度の温度を形成している層から取水することでほぼ回避することが可能です。
③濁水長期化現象
一般に、洪水によって生じた自然河川の濁りは長くても数日程度で回復します。しかし、貯水池で流入した濁水を貯留するために、洪水が終わった後も長期間濁水が放流されることがあります。これを濁水長期化現象といいます。濁水長期化現象を定量化して具体的な障害を明らかにすることは非常に困難です。濁度についても環境基準は定められていませんが、生態系への影響として付着性藻類の減少や魚類の忌避行動などが考えられています。
濁水長期化現象に関する対策としては密度流排出があり、密度流排出は貯水池の温度管理により温度躍層を排水部分に近づけておく方法をいいます。洪水期に流入する濁水は貯水池の表層より水温が低いため、濁水はそのまま温度躍層付近を流れ、直接排水されていきます。その結果、表層の清水は貯水池に残り、濁水長期化現象を短縮することが可能です。
④堆砂現象
貯水池は微粒子のシルト質土を除き、流送されてきた土砂を貯水池内に蓄えてしまいます。これを堆砂現象といい、貯水池の本来の目的である貯水容量を減少させてしまいます。また、下流河川への土砂供給を貯水池が断っているため、河床低下、海岸侵食、砂丘減少などを引き起こす原因にもなっています。堆砂を取り除く方法としては排砂バイパス、排砂ゲート、密度流排出などがあります。排砂バイパスは洪水時の流水を別のルートから排出する方法、排砂ゲートはゲートを開けて洪水時の掃流力により貯水池に溜まった土砂を排出する方法です。どの方法も洪水時に行われており、過去に平常時に排砂を行い訴訟が起きたことが影響しています。
まとめとして、貯水池の水質を管理するためには富栄養化現象、冷水放流現象、濁水長期化現象、堆砂現象の四つの問題を適切に対処する必要があります。