規則波が変形する(波高が減少する)理由としては浅水変形、屈折、回折、海底摩擦、砕波、反射などが挙げられます。ここでは、浅水変形、屈折、回折、海底摩擦、反射について解説していきます。
①浅水変形
深海波は海底の影響をほとんど受けずに進行していくのに対し、浅海波は海底の影響を受けて波高、波長、波速が変化します。一般に、規則的な波が深海領域から浅海領域に入ってくる(水深が減少する)と、波長は短くなり、波高は増大します。この水深変化による波形の変化を浅水変形といいます。
浅水変形はエネルギー保存則とエネルギー輸送量から次のように求めることができます。
このとき、H0は深海波の波高 [m]、Ksは浅水係数です。
浅水係数は深海領域では当然1となり、浅海波に進む過程で1割から2割ほど減少します。これは、深海波の波速より群速度が速くなるからです。さらに水深が小さくなると、浅水係数は増大の一途をたどります。浅水係数が大きくなると波高も大きくなるため、微小振幅波理論が成り立たなくなります。そのため、ストークス波理論やクノイド波理論を扱う必要がでてきます。
②屈折現象
浅海波が等深線に対して斜めに入射すると、波の進行方向が屈折し、波高が変化します。この現象を屈折現象とといい、波速は光と同様にスネルの法則から求めることができます。また、波向線の間隔は三角関数から求めることができます。
また、浅水変形と同様にエネルギー保存則とエネルギー輸送量から、屈折による波高の変化を求めていきます。
このとき、Krは屈折係数です。
屈折係数は三角関数を使って次式のように変形できます。
③回折現象
波は島や防波堤で遮られても、その背後に回り込んでいきます。このような現象を回折現象といい、海岸保全施設による背後の波高変化を推定することは構造物の効果を検討する際に重要となります。回折の基礎方程式はヘルムホルツ方程式と呼ばれ、水深は一定で速度ポテンシャルが構造物から無限に離れた点で0になると仮定することにより解が得られます。ヘルムホルツ方程式は次式によって表されます。
回折係数は回折波の波高と入射波の波高の比で表され、これら波高は複素関数Fによって求められます。しかし、複素関数の計算が非常に面倒なため、回折係数は図式解法で算定される場合が多いです。
このとき、H1は回折前の波高 [m]、Kdは回折係数です。
上の回折図は規則波の場合です。不規則波の場合は規則波より回折係数が大きくなるので、実際の波に適用するときには注意が必要です。
④海底摩擦
波が深海領域から浅海領域に入ってくると、海底摩擦の影響を受けて波は減衰します。水深が一定の海域を⊿xの距離だけ波が伝搬するとき、波高変化は次式によって表されます。
このとき、Kfは波高減衰率、H0は減衰前の波高 [m]、fは摩擦係数です。
⑤反射現象
構造物が存在したり、海底地形が急変するところでは、波のエネルギーの一部は反射または伝達され、残りは粘性、摩擦、砕波などによって消費されます。この現象を反射現象といい、反射率と伝達率は次式によって表されます。
このとき、KRは反射率、HRは反射波の波高 [m]、KTは伝達率、HTは伝達波の波高 [m] です。
反射率は経験則より以下の方法で求めることができます。
このとき、tanβは海底勾配です。
では、例題を2問解いていきます。
例題1:等深線が平行な海岸に波高3 [m]、周期6 [s] の沖波が入射角40°で進行するとき、水深5 [m] での浅水係数、波向角、屈折係数、波高を求めよ。
まずは、沖波の波長と波速および必要な諸量を計算していきます。
次に、浅水係数を求めていきます。
さらに、スネルの法則から波向角を求め、屈折係数を計算します。
では、波高を求めていきます。
例題2:波高3 [m]、周期12 [s] のうねり性の波が水深25 [m] の海域を伝搬している。この波が5 [km] 進むときの波高減少率はいくらか。ただし、摩擦係数は0.02とする。
まずは、繰り返し計算により波高、波数、浅水係数を求めていきます。
次に、波高減少率を求めていきます。
まとめとして、波が深海領域から浅海領域に入ってくるときの水深減少による波高変化を浅水変形、浅海波が等深線に対して斜めに入射するときの波高変化を屈折現象、海岸保全施設の背後に回り込むときの波高変化を回折現象、波が深海領域から浅海領域に入ってくるときの摩擦による波高変化を海底摩擦といいます。