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第一回の生命のゆらぎ研究部門・公開シンポジウムは、“生命のゆらぎ”からみる生物の環境応答戦略〜というタイトルで開催します。学外からは若手の2名の先生、宮川一志先生(宇都宮大学)と森田慎一先生(基礎生物学研究所)にお越しいただき、生物が環境にどのように適応し、表現型を変化させるのか、その応答戦略に関する研究発表をしていただきます。また、私たち人間の活動の結果、環境中に放出された化学物質が生物に悪影響を及ぼすことが知られています。本シンポジウムでは、内分泌撹乱化学物質に関する学術基盤の確立に尽力された井口泰泉先生(横浜市立大学)に特別講演をしていただき、この問題の歴史と背景、現在の状況についてお話しをしていただきます。さらに部門講演として、早田匡芳先生、佐藤聡先生、昆俊亮先生、和田直之先生、上村真生先生にもご講演していただきます。今年度もポスターセッションがあります。学生さんたちも奮ってご参加いただきたいと思います。
本研究部門の白石、有村が世話人としてBINDS東京理科大学セミナーが開催されます。ぜひ、ご参加ください。(https://www.binds.jp/files/Information/pdf/47bfae6f7523b584d1e46068cd9fa3b8.pdf)
植物二次代謝産物の生合成進化と生存戦略から考えるその重要性
演者:岡田 憲典(京大学農学生命科学研究科附属アグロバイオテクノロジー研究センター准教授)
植物は動物と違って動けない。そこで生存に有利な多様な二次代謝産物(Specialized metabolites)を生産し巧みに生き延びている。栽培イネから単離されたジテルペンのモミラクトンは、病原菌感染時の化学防御物質、近傍植物の生育を妨げるアレロパシー物質として働き、さらに動物細胞に対しても増殖抑制活性を示す。生産起源を辿ると、野生イネや雑草イヌビエ、蘚類ハイゴケでも産生されることがわかり、予想外の発見であった。これら全ての植物が生合成遺伝子群を染色体上に機能的クラスターとして保持し、ストレス応答で協調的に発現する点も興味深い。
また、イネの根からは恒常的に微量のモミラクトンが根圏に滲出し、土壌細菌群に影響を与える可能性が高い。ハイゴケでは古い個体に蓄積したモミラクトンの上に新しいコケが広がる様子が、抗菌ベッドの上に寝ているようでもある。系統的に離れた植物種が共通してモミラクトンと遺伝子クラスターを保持することは、この物質が進化的に保存された重要な二次代謝産物であることを示唆する。
この背景から、クラスター遺伝子の転写制御解析を進めつつ、モミラクトン合成が植物にとってどの程度メリットをもたらし、周囲の生物群集にどれだけ影響しているのかを問い直すようになった。In vitroでは抗菌・アレロパシー活性が確認されるが、実環境レベルではどうかという素朴な疑問が残る。本講義では、植物・動物・微生物など多様な生物に影響するモミラクトンの生物活性と、その作用機作解明に向けた研究を紹介したい。
(お問い合わせ先・先進工学研究科生命システム工学専攻・有村源一郎)
霊長類と共生するビフィズス菌における宿主の食性に応じた生存戦略
演者:佐々木 優紀(京都大学大学院生命科学研究科,助教)
ビフィズス菌は腸内細菌の中でも代表的な有用菌であり、昆虫から霊長類に至る多様な宿主動物の腸内に棲息している。これまでに百種以上が知られており、近年のゲノム解析から、それぞれの菌種が宿主の異なる食性に適応し、難消化性糖質を利用するために特有の糖質分解酵素や糖輸送体を進化により獲得してきたことが示唆されている。しかし、こうした宿主食性への適応の分子機構については、いまだ十分に解明されていない。
本研究では、一部の霊長類がヒトとは異なる食性を有し、特に樹木の滲出物(植物由来糖質)を主な栄養源とする点に着目し、これまでほとんど解明されてこなかった非ヒト霊長類由来ビフィズス菌における糖質代謝機構の解明を試みた。植物由来糖質を炭素源としたスクリーニングおよび比較ゲノム解析により、資化性を示す菌株に特有の糖質分解酵素および糖質輸送体遺伝子が保存されていることを見出した。さらに、これらの酵素および輸送体について生化学的・遺伝学的解析を行い、植物由来糖質の資化における機能的重要性を明らかにした。
本セミナーでは、これらの成果を紹介するとともに、新たに同定した代謝経路がヒト由来の腸内細菌の既知の経路とどのように異なるのかを示し、非ヒト霊長類由来ビフィズス菌の独自の生存戦略について考察したい。
本研究部門の中嶋からの紹介です。興味のある先生方、学生さん、ぜひご参加ください。(https://jp.foundation.canon/news/topics/index.html)