分子生物学からみる爬虫類の環境適応
演者:山岸 弦記(群馬大学 生体調節研究所)
爬虫類は、哺乳類・鳥類とともに羊膜類と呼ばれる動物群を形成し、一生を陸上で過ごすことができる。この意味で、爬虫類はわれわれ人間にも比較的近いグループである。しかし、爬虫類は外温性動物で体温を外界に左右される。この点で爬虫類は我々からは遠く、むしろ魚類や両生類に近い特徴をもつ。この中途半端な立ち位置ゆえに、爬虫類の発生や生理に関わる分子機構には独自性が多くみられる。私はそうした独自性に注目し、その意義の解明を目指してきた。本講義ではそうした爬虫類研究の動向を紹介しつつ、なぜ「研究」をするのか、学術や産業以外に日常生活における意義についてもお話ししたい。(お問い合わせ先・先進工学部生命システム工学科・宮川信一)
発生学における形態学
演者:村嶋 亜紀(名古屋市立大学 大学院医学研究科)
医学部でサンショウウオを育てる――そう聞くと、ちょっと場違いに思えるかもしれない。しかし、日本における脊椎動物の形態学は医学部の解剖学教室を舞台に発展してきたと言っても過言ではない。解剖学では多数の献体を通してヒトの形態を観察するが、そこには毎回新たな発見があり、まったく同じ形態を示すものは一つとして存在しない。個体ごとの「揺らぎ」に触れるとき、同時にヒトという種に保存される“型”の存在を認識させられる。この“型”はどのようにしてつくられてきたのだろうか。本講義ではその問いに迫るべく、下大静脈の発生を題材に、1893年に Hochstetter が示した古典的比較解剖学研究から、発生工学を取り入れた我々の研究に至るまで、血管形態形成がどのように理解されてきたのかをたどっていく。発生工学が発展した今だからこそ、形態学の考え方は、新しい視点と大きなヒントを与えてくれる。本講義を通して、サンショウウオとヒトを結ぶ「かたち」の物語を一緒に考えてみたい。(お問い合わせ先・先進工学部生命システム工学科・宮川信一)
フィールドから分子までを貫く好奇心駆動型の研究のススメ
演者:豊田 賢治(広島大学 大学院統合生命科学研究科)
計算機の情報処理技術や顕微鏡などに代表されるイメージング技術、そして塩基配列や低分子化合物の網羅的解析技術、生成系AIの爆誕により、1人の研究者が扱える技術やデータ量がどんどん増えている。その一方で、最近では「研究分野の過度な選択と集中が日本の科学力を低下させている」、「これからの日本ではノーベル賞級の研究が生まれない」、「雇用の不安定な研究者を目指す学生が減っている」など日本の科学研究の未来を憂うニュースを耳にする機会が増えている。私はせっかく研究者になったのだから、自分が面白いと思える研究をやり続けてやると心に誓って活動している。動物プランクトンの代表選手とも言えるミジンコのオスとメスが決まる仕組みの研究で博士号を取得し、国内外で研究員を続けてミジンコ研究の面白さにドップリと浸かっていた。そして研究を進めるうちにミジンコと同じ甲殻類であるエビやカニなどは水産的重要性が高いにも関わらず国内の研究者がかなり少なく、面白い現象の数々が手付かずの状態で放置されていることを知り、ケガニやズワイガニ、イセエビ、クルマエビなどを用いた研究を開始した。我が家の食卓には決して並ぶことのないこれら高級食材を100匹単位でサンプリングして、精製したホルモンなどを生体に注射してその生理作用を調べたりする実験は基礎と応用の同居した魅力的な研究だった。また、佐渡島や能登半島にある臨海実験所で職を得たこの4年は豊かなフィールドでの調査に魅了され、実験室でピペットマンを握っていた生活から網を持って野外で生き物調査に勤しむ生活に変わった。現在はフィールド調査から野外の生物が示す生命現象を記載し、その現象の背景にある分子メカニズムを明らかにしていく研究スタイルを固めつつある。この講義では能登半島や佐渡島、隠岐島といった日本海側と、この4月から始めた広島を中心とした瀬戸内海の干潟の生物調査から得た採れたてホヤホヤのデータを紹介する。大潮(満月・新月)の夜に海岸に集まるカニ、寄生虫に乗っ取られて去勢されて性転換される散々なカニ、寄生虫に行動操作されているカニ、ヤドカリとタコの攻防などなど、好奇心の赴くままに突き進める研究の面白さを感じてくれたら幸いである。
(お問い合わせ先・先進工学部生命システム工学科・宮川信一)
多数のご参加ありがとうございました。参加者数は340人、ポスター演題90題でした。
ポスター発表賞の受賞者
最優秀賞 本重日菜(西浜研)
優秀賞 光武稔生(佐藤研)
渡邉陸(佐竹研)
伊藤愛華(宮川研)
霊長類と共生するビフィズス菌における宿主の食性に応じた生存戦略
演者:佐々木 優紀(京都大学大学院生命科学研究科,助教)
本研究部門の中嶋からの紹介です。興味のある先生方、学生さん、ぜひご参加ください。(https://jp.foundation.canon/news/topics/index.html)
本研究部門の白石、有村が世話人としてBINDS東京理科大学セミナーが開催されました。(https://www.binds.jp/files/Information/pdf/47bfae6f7523b584d1e46068cd9fa3b8.pdf)
植物二次代謝産物の生合成進化と生存戦略から考えるその重要性
演者:岡田 憲典(京大学農学生命科学研究科附属アグロバイオテクノロジー研究センター准教授)
野生生物の進化学
演者:清古 貴(農研機構 遺伝資源研究センター)