日本列島には12種のフウロソウ属植物が生育し、種内分類群(変種や品種)も数多く報告されています。これまでに葉緑体ゲノム及び核ゲノムの部分領域を用いたいくつかの系統推定研究が進められ、種レベルの系統関係に分類学的な矛盾はないことが分かっています。しかし、解析解像度が原因となり、種内分類群の系統関係は不明でした。Kurata et al. (2021) は、葉緑体ゲノムの全ゲノムシークエンス及び核ゲノム由来のSNPs情報を用いて、日本産フウロソウ属植物の種内分類群レベルの系統関係を解明しました。
系統推定の結果、ホコガタフウロ(以下ホコガタ)とエゾグンナイフウロ(以下エゾグンナイ)については、分類体系の見直しが必要と示唆されました。ホコガタはコフウロの変種とされていますが、系統的には独立しており、形態的にも明確に異なっているため、独立した分類群として扱うことが妥当と考えられました。エゾグンナイはグンナイフウロの品種として扱われていますが、系統的には近縁種のチシマフウロ(以下チシマ)とともにクレードを形成しました。また、エゾグンナイは形態的にはチシマと明確に区別できることが分かっています。したがって、エゾグンナイはチシマの変種として扱うことが妥当と考えられました。
参考文献
Kurata S*, Vasques T. D, Sakaguchi S, Hirota K. S, Kurashima O, Suyama Y, Nishida S, and Ito M. (2021) Phylogenetic and taxonomic study of Japanese Geranium L. (Geraniaceae) using the chloroplast genome sequence and nuclear single nucleotide polymorphisms, Plant Systematics and Evolution, 307(63), DOI: https://doi.org/10.1007/s00606-021-01788-7
日本列島の草原面積は約43万ha(国土の約1%)であり、特に半自然草原は火入れや採草など人の手が入ることにより約1万年もの間維持されてきたと考えられています。この半自然草原内には、氷期に大陸から分布を拡大させ、その後の温暖化とともに日本列島に取り残されたとされる大陸系遺存植物など多くの貴重な植物が生育しています。しかしながら、近年の草原面積の減少に伴い、そこに生育する植物の絶滅の危険性が高まっています。草原内には、イネ科植物が優占するような草原環境だけでなく、くぼ地には湿地が形成され、多くの湿地性植物の生育地となっています。これまでに、草原性植物に関する保全遺伝学的研究は進められてきましたが、草原内の湿地性植物についてはあまり研究が進められてきませんでした。そこで、私たちは草原内の湿地に生育し、大陸系遺存植物と考えられ、絶滅の危険性が増大しているアサマフウロ・ツクシフウロの遺伝的多様性を評価し、さらに分布変遷過程の推定に関する研究を進めています。
参考文献
Kurata S*, Sakaguchi S and Ito M. Development of nuclear microsatellite markers for the threatened wetland plant Geranium soboliferum var. kiusianum (Geraniaceae). Plant Species Biology, 27 December 2016. DOI: 10.1111/1442-1984.12160
Kurata S*, Sakaguchi S and Ito M. (2019) Genetic diversity and population demography of Geranium soboliferum Kom var. kiusianum: A glacial relict plant in the wetlands of Japan, Conservation Genetics 20(3), 431-445. DOI: 10.1007/s10592-018-01141-5
被子植物の繁殖器官である花には、その形質に多型が見られることがあります。これらの多型は、自然選択が働いた結果、ある表現型に固定されると推定されますが、それにも関わらず多型が維持されていることは進化生態学的側面から興味深い問題として位置づけられています。ゲンノショウコは沖縄を除く日本列島のほぼ全域に分布し、西日本には赤花が多く、東日本には白花が多いというように花色に関し地理的構造が見られます。私たちは、ゲンノショウコの花色多型の地理的構造を解明し、さらに、多型の維持機構の検証及び花色を決定している遺伝子を探索しようと考えています。
参考文献
Kurata S*, Sakaguchi S, Mishima H, Tsuchimatsu T, and Ito M. (2021) Development and characterization of nuclear microsatellite markers to reveal the neutral demographic background of flower color polymorphism in Geranium thunbergii (Geraniaceae), Genes & Genetic Systems.