Research Interest
Research Interest
Selective Breeding
植物や家畜の育種(品種改良)は有史以来の歴史があり、我々人間が望む形質(例えば、飼いやすさや成長、収量)を付与することに成功してきました。一方で、魚類、特に海産魚は養殖技術が比較的近年に開発されたことから、家畜と比べて育種は進んでいないのが現状です。
我々は、わが国で養殖生産が盛んなマダイとヒラメを用いて成長や耐病性の遺伝支配について研究し、それら研究成果を親魚選抜へ実用化することを最終目指しています。これまでに、マダイにおいて成長ホルモンやミオスタチンといった遺伝子の一塩基多型が成長に関連することや、マダイイリドウイルス病の耐性形質と連鎖するDNAマーカーの開発に成功しています。これらDNAマーカーは民間企業の選抜育種に導入され、有用形質を付与した種苗が養殖業者へ販売されています。
Genetic Disorder
養殖魚の人工種苗生産において、形態異常の発生は種苗生産の効率を低下させるとともに、動物福祉の観点からも留意する必要があります。形態異常はこれまでに飼育方法や餌の栄養価などの環境要因に起因すると考えられ、関連領域の研究が進められてきました。我々はDNA親子鑑定を行うことで形態異常個体に関与する親魚を特定し、数種の形態異常が特定の親魚に帰結すること、すなわち遺伝要因の疑いが高いことを報告してきました。現在ではゲノミクス的手法を用い、染色体上の一塩基多型(SNP)を網羅的に調べ、形態異常判別DNAマーカーの開発や原因遺伝子の特定に向けた研究を進めているところです。
自然下では春に産卵を行いますが、養殖ヒラメの場合は年末需要に合わせるために、秋季に採卵をして種苗生産が行われます。しかし、秋季の種苗生産では稚魚期に高水温を経験する場合があり、養殖ヒラメはメスからオスへの性転換が生じている可能性があります。性転換を起こした偽オスと通常のメスが交配すると全雌(XX)集団になりますが、そのような場合は遺伝による性決定機構を完全に失ってしまうのでしょうか。我々は、養殖されているヒラメの性決定機構が撹乱されているのではないかと考え、養殖ヒラメの性決定遺伝子の特定に向けた研究を進めています。
マダイは養殖の歴史が比較的古く(約半世紀)、選抜育種も比較的進んでいる魚種です。マダイ養殖は網生簀で営まれますが、自然災害や事故により生簀が破損して、育種改良した魚が逃げ出してしまうことがあります。また、生簀内で産卵することも知られており、受精卵は生簀から流れ出て行きます。これまでの調査から、マダイ養殖が盛んな海域では、20〜40%もの割合で養殖マダイが含まれていると推定され、さらには天然魚との交雑個体も確認されています。選抜育種を受けた養殖魚と天然魚が交雑すると、養殖に有利な遺伝子変異が天然集団に浸透していくと考えられますが、そのような遺伝子変異は自然環境下で必ずしも有利とは言えません。そのため、長期的にみると天然マダイの生残等に影響を及ぼす可能性があるかもしれません。これらのことを明らかにするために、集団遺伝学的手法を用いて、逸出・交雑や遺伝子浸透の現状について研究を進めているところです。また、養殖魚と天然魚の細菌叢を明らかにし、逸出養殖魚がキャリアとして細菌叢の伝播に関係しているかについても興味をもち、研究を進めています。
Medaka
広島県と愛媛県を繋ぐしまなみ海道沿線の島嶼をモデルとして、メダカの保全に向けた研究をしています。しまなみ海道を構成する島々には潮取と呼ばれる汽水池があり、そこには多くのメダカが生息しています。この汽水に住むメダカに興味を持ち、淡水でしか繁殖ができないメダカはどのようにして汽水で繁殖しているのか、島を渡った交流をしているのか、鑑賞メダカによる遺伝的撹乱を受けているのか等の疑問に遺伝学的手法を使って取り組んでいます。
Seed Production
マダイは夏季の高水温期にマダイイリドウイルス病が発生するため、これまで夏季には種苗生産が行われてきませんでした。しかし、我々の研究によりRSIVD耐性育種が実現し、近年、夏季高水温期にもマダイの種苗生産が行われるようになりました。一方で、夏季に種苗生産を行うと、脊椎上彎症が多発するという問題が発生しました。夏季高水温期に見られる脊椎上彎症はこれまで知られていた鰾形成不全によるものとは脊椎の異常箇所が異なり、原因は不明のままです。高水温によりなぜ脊椎が彎曲するのか、飼育実験を通して原因を特定するための研究をおこなっています。