老化細胞を理解し除去することを目的にして様々な研究を行ってきました。その一部を紹介します。
老化細胞を理解し除去することを目的にして様々な研究を行ってきました。その一部を紹介します。
研究背景
老化を引き起こす要因
これまでに、老化は主に9つの要因によって引き起こされるということがわかってきています (López-Otín et.al. 2013より引用)。これらは独立に老化に影響しているのではなく、複雑に絡み合っています。例えば、ゲノムの不安定化 (Genomic Indtability) やテロメアの短小化 (Telomere attrition)は細胞老化 (Cellu;ar senescence)を引き起こします。そして細胞老化が起きた結果として、老化細胞が生じます。
老化細胞とは
細胞は内的外的に限らず様々なゲノムストレスに晒されています。細胞には自己修復機構があるので損傷は速やかに修復されます。しかしストレスが大きく修復不可能であった場合、アポトーシス又は細胞老化を誘導することが知られています。この細胞老化が誘導された細胞のことを老化細胞といいます。この老化細胞の特徴として、細胞周期停止因子p16を発現することで恒久的に細胞増殖が停止していることや、炎症性の物質を分泌するようになることが知られています。
老化細胞除去"Senolysis (セノリシス)"
近年、遺伝学的手法により老化細胞のマーカー遺伝子であるp16を発現している細胞を除去できるマウスモデルが樹立され、老化細胞を除去することにより様々な加齢性疾病が改善し健康寿命が延伸することが示され、細胞老化は加齢変化に重要な役割を担っていることが明らかとなりました (Baker et.al. 2011 & 2016)。そのため老化細胞の除去は、これまで治療薬がなかった様々な加齢性疾病を完治させる可能性を秘めており、現在注目を集めています。
Project
Project 1. 老化細胞を生体内で可視化する
老化細胞の研究の多くは、生体内の老化細胞を同定・分離可能なツールがなかったため、 培養細胞の系で行われることがほとんどであり、生体内の老化細胞に関する知見は少なかったです。そこで、老化細胞 (p16を発現している細胞) を時期特異的に一細胞レベルで可視化できるマウスモデルを新規に樹立しました。このマウスを用いた解析から、生体内の老化細胞は培養細胞の系の老化細胞と同じような性質を持つことや、様々な種類の細胞が老化細胞になることが明らかになりました。また、老化細胞を除去することで非アルコール性脂肪肝炎(NASH)の進行を抑制できることがわかりました。(プレスリリース)
Project 2. 老化細胞の生存維持機構の解明
老化細胞除去を実現する方法の一つとして、老化細胞でのみ働いている生存維持機構を明らかにして、その機構を止めるということが考えられます。そこで、老化細胞が生存するのに必要な遺伝子の探索を行うために、老化細胞に対するshRNA Library screening系を樹立しました。その結果、グルタミン代謝酵素GLS1が老化細胞特異的に生存に必要であることが明らかになりました。さらに、酵素GLS1に対する阻害剤の投与により生体内において老化細胞の除去が可能でり、様々な加齢性変化を改善できることを示しました。(プレスリリース)
Project 3. 機械学習を用いたSenolytic drugsの探索
老化細胞除去を実現する別の方法として、様々な化合物を投与し探索を行う、いわゆる化合物スクリーニングも考えられます。しかしながら理論上合成可能な化合物の数は1那由多(10の60乗) あるといわれており、すべてを行うことは不可能です。そこで、Chempropと呼ばれる機械学習手法に着目しました。2020年にCollins LabではChempropを用いて新規抗生物質の探索に成功しており、この手法を用いることで新しい老化細胞除去薬を見つけることができるのではないかと考えました。実際にChempropを用いて解析を行った結果、老化細胞除去効果を持つ化合物を複数得ることに成功しました。この研究は現在進行中です。(Chempropについて)